第2章
第1話
夢の中で、僕はまた名前を知らない木に実った名前を知らない実を摘んでいた。そういえば、一緒に実を摘む仲間たちの名前も知らなかった。僕らはみんな、名前を持たない労働力だったからだ。飼い主から名前で呼ばれることもなく、僕らも名前を呼び合うことはなかった。
暗い場所だった。空は明るく晴れ渡っていても、僕にはどんよりとした重たい天蓋を被せられているように感じた。どこにも行けない閉塞感と何者にも成り得ない絶望感とを抱きながら、僕は生きていたように思う。
「ここから出るにはどうすればいいんだろう」
僕は夢の中でそう呟いた。
すると隣にいた少年がこちらへ振り返った。
「出られるさ。大丈夫」
ライアンだった。夢の中の僕と同じように今よりずっと幼いけれど、彼はライアンだった。
「どうして、ここに」
「さあなぁ」
ライアンは曖昧に首をかしげた。
「ここはお前の夢の中なんだろう。だったら、その理由はお前の中にあるんじゃないか」
ここにさ、と言ってライアンは僕の胸を指差した。
「夢ってさ、どんなものだと思う」
ライアンは諭すように尋ねた。その語り口はいつものライアンだ。いろいろと欠けている僕に向けた、ライアンの思いの伝え方だ。
「夢はな、可能性の象徴だ」
「可能性……」
ライアンの言葉を解釈しようとする。
夢が可能性だとするなら、僕はどうして農園の夢を、囚われていた過去の夢なんて見続けるのだろう。あそこに可能性なんて言葉はなかった。可能性、そんな希望に満ちた言葉はあそこにはなかった。生き続けられる可能性。逃げ出せる可能性。様々な可能性は、そこに抱いた希望は、毎日を生きていくうちにひとつずつ潰えていった。残されたのは、ここで飼われ続けて、いずれ死ぬという、確実な未来だけだった。それにどんな可能性があるのだろう。
「あり得たかもしれない過去もまた、可能性のひとつだ」
思案する僕に、ライアンはそう言った。
「起こり得るであろう未来と同じように。それと、起こって欲しい未来もそうだ。夢は可能性だ。後悔と警鐘と願望の可能性」
だからな、とライアンは続ける。
「選ぶのはお前なんだ。可能性はいくらでもある。その数ある可能性の中から、望むものを手にするのはお前自身だ。過去に囚われる必要はない。お前はお前の選んだ道を行けばいい」
そう言って、いつものようにライアンは僕の背中をぽんと叩いてくれた。
「さぁ、お前はなにを選ぶんだ」
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