第22話 役割分担
「それでは、今より迷子救出ゲームを開始します」
そう言うと景気よくジャクソンは爆発した。その爆音に驚いて森にいた小鳥たちが一斉に鳴き声をあげて飛び立った。爆発音でびっくりしたんだろうね。可哀相に。
「さて、まずやることと言えば救出対象の確認だね。タブレット端末に情報が送られているはずだからみんなで確認しましょう?」
私は宮下さんの言う通りに素直にタブレット端末を起動させて、迷子のお知らせというアプリを起動させた。すると、そこには救出対象の顔写真と個人情報が書かれていた。
迷子ナンバー01
怖いもの:ヤクザ
備考:高所恐怖症
迷子ナンバー02
怖いもの:若いイケメン以外の男性
備考:閉所恐怖症
迷子ナンバー03
怖いもの:見知らぬ人間
備考:隅っこが好き
100m走を5秒フラットで走れる
鉄製の鎧を纏っている
「なるほど。僅かながらプロフィールに隠れ場所を特定するための足掛かりになるものはあるということか。捜索の時はこれらの情報を元に探索をしよう」
タクちゃんが相変わらず冷静に分析する。でも、これだけの情報でこの広い空間を捜すなんて無理があると思うな。タクちゃんはどうするつもりなんだろう。
「きゃは。この怖いものに該当するのって全部御岳さんのことじゃん」
「ぐ!」
夢子ちゃんの悪意ある毒。けれど事実だけに御岳さんはなにも言い返せなかった。
「ジャクソンの発言を考えると、この怖いものに該当する人物が接触しようとするとこいつらは逃げるらしいな。御岳のオッサンを見ると逃げるっつってたからな。若いイケメンの若いがどの程度を指すかが問題なんだよなあ。俺こう見えても30代だからな。年齢を感じる歳だし、秋穂ちゃんに拒否られたら立ち直れねーぞ」
聖武さんって30代だったんだ。チャラついているイメージだから、もっと若いのかと思ってた。それにしてもイケメンに引っかかるかどうかを気にしないあたり、流石ホストと言ったところか。
「安牌は女に捜索を任せることだな。少なくても木梨と鷺宮はそれで回収できる……ただ問題なのは、この人間の限界を超えた速度の持ち主だな」
タクちゃんは頭を抱えている。100メートルを5秒フラットはかなり速いよね。
「100メートル5秒を時速に直すと時速72km。人間がまず追いつける速度じゃないですよね」
杏子がさらっと計算する。なんでこういう計算早いの杏子は……
「この名前がキラキラしたガゼルたんをどう攻略するかが一番のポイントですかね……他二人も十分きつい条件だと思うけど、ガゼルたんに比べたら全然可愛い方ですな」
いや……ガゼルに関して言えば見つければ攻略法はある。捕まえるのは、夢子ちゃんの透明化のスキルを使えば可能なはず。でも、夢子ちゃんは自分のスキルを予言だと言い張っているし、私は夢子ちゃんのスキルを知らないことになっている。だとすると、夢子ちゃん自身がガゼルを見つけて捕まえるか……さり気なくガゼルの情報を夢子ちゃんに伝えて捕まえてもらうかの二択しかない。
「とりあえず、捜索班と拠点に待機してサポートする組にわかれよう。どっちにしろ、俺たちは食料も確保しなくちゃいけないからな。捜索ばかりに気を取られて自分たちが餓死したら笑えない」
タクちゃんの言葉を受けて御岳さんが手を上げた。
「ワシは拠点に待機する。どっちにしろ捜索に役に立ちそうもないからな」
確かに、御岳さんは誰も捕まえることができない。捜索に加わったところで足を引っ張ることしかできないだろう。可哀相だけど、仕方ない。
「私も拠点で待機しようかな。恐らく、この捜索はスキルを活用しないとクリアできない設計になってると思うの。私のスキルはライフを回復することだけ。捜索の役に立てそうもない」
「じゃあ、私も待機するわ。折角ライフが六もあるのに、捜索でドジってライフ減らしたら笑えないもの」
宮下さんと名取さんもどうやら残るらしい。宮下さんはともかく、御岳さんは顔が怖いし、名取さんは性格がキツいから、私は捜索の方に行きたいな。
「俺はユリと一緒に捜索する。構わないよなユリ」
「え、あ、うん。よろしくねタクちゃん」
タクちゃんと一緒なら安心かな。なんだかんだ言って幼馴染だし、このメンバーの中で一番信用できる。
「俺も捜索に回るか。待機しても面白いことはナいだろうしナ」
「僕も捜索するんだな。僕はあんまりいい所見せられてないし、そろそろ活躍しないとただの豚扱いされちゃうし」
「僕も待機するよりかは体を動かしたいな。捜索の手は多い方がいいからね」
加賀美さんと和泉さんと神原さんも捜索に回るようだ。加賀美さんと神原さんはともかく、和泉さんは若いイケメンに該当しないのに大丈夫かな?
「うーん……あ、受信した。あちゃー。予言の内容によると私は待機した方がいいみたい。残念ー」
なにが残念だ。白々しい。予言の内容は嘘っぱちだから、夢子ちゃん自身が捜索を面倒くさがって行かないだけじゃない。
「あの……私、方向音痴で多分捜索に回ったら遭難すると思うんです。だから待機しますね」
杏子は申し訳なさそうにそう言った。女子で捜索に加わるのは私だけか。なんか寂しい気がしてきた。
残る組み分けは死神と聖武さんだけだけど……
「おい、聖武。お前はどうするんだ?」
加賀美さんが聖武さんをせっつく。聖武さんは慌てた様子を見せた。
「えっと……俺は……」
聖武さんはなにを迷っているんだろう。スキルが捜索に向いていれば素直に捜索に参加すればいいのに、そうでないなら待機に回った方がいいと思う。
「自分で決めることもできねえのかよ」
「ちっ、じゃあ捜索してやるよ! その代わり、俺が誰も捕まえられなくても恨むなよ」
死神は……まあいいや。この人は放っておいて。どうせ、喋らないだろうし、意思の疎通をするだけ無駄かな。
「お、死神たんも捜索したいそうですな」
和泉さんがそう言った。え? 死神と意思疎通できるの? 和泉さんは。
「ったく、口があるなら自分で喋らんかい。チャットシステムに頼ってないでよ」
御岳さんの発言で、ようやくチャットシステムのことを思い出した。ああ、そうか。これで連絡を取り合えるんだった。ちょっと起動してみよう。
私はタブレット端末のチャットシステムを起動させた。
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Utan:おっすおっす
Shinobi:おはようございます
Monchang:おはようビームっ!!(@益@ .:;)ノシ
Shinobi:なによその変な顔文字は。ふざけてるの?
Monchang:なんだと
Utan:本日のインターネット老人会の会場はここですか?
Shinobi:今の若い世代には通用しなさそう
Monchang:これも時代の流れかのう。悲しいなあ
Shinobi:あ、私。捜索に参加します
Utan:おお、死神たんも参加するのですか。なら、ご一緒しませんかねえ?
Shinobi:ごめんなさい。私は基本的にソロプレイヤーなんで
Utan:そうですか。残念
Monchang:ワシは顔のせいで捜索に参加できんのじゃあ(´;ω;`)
Utan:イケメン爆ぜろ! 許さんぞ! 特に浅海たんと神原たん
Shinobi:僻み乙!
Utan:ムキー!( `Д´) 僕だって痩せればイケメンだねってよく言われるんだぞ
Monchang:おう、真実の口に手を突っ込んでみろや
Utan:ごめんなさい。嘘でした。そんなこと言われたことありません
Shinobi:草
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんだこのチャットログ……おはようビームってなに……
Utanはユーたん? 和泉さんが最初にそう呼んでくれって言ってたな。死んでも呼びたくないけど。
Monchangは、モンちゃん? 誰だろう……名前にもんが入っている人は……御岳 紋次郎……? 御岳さん!? なんでこんな名前にしてるの!
そして、Shinobiは、氏神 忍で死神のことか。っていうか、この三人。話し合いしながらチャットで盛り上がってたの。
「じゃあ、留守はよろしく頼みましたよ。モンちゃん」
「おう。こっちは任せてな。ユーたん!」
なんかリアル世界でも仲良くなってるんですけど!?
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