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真由子が今住んでいる一軒家は、パパとママが真由子のために建ててくれた家。真由子が望んだお城のような家だ。木下家に使える使用人は、真由子が拒否をしたため、ほとんど出入りがない。今日は、この家に使用人を置くようにとパパとママにお願いをし、その際にお兄さんのことを解雇するように伝えた。


「真由子様。ご無沙汰しております、お元気でしたか。」


実家にいた際、お世話をしてくれていた使用人、執事の石川が到着した。


「うん、真由子は元気だよ。早速だけど必要なものを買い揃えて。」


「承知致しました。」


木下家の令嬢であることを改めて実感する。


真由子は自由を十分に満喫した。やるべき事をする。そうしないとお兄さんに顔向けが出来ないし、一生真由子のことを好いてはもらえない。


お兄さんのためだけじゃない、真由子のためにも、自由を捨てる。


「真由子様。移動の準備が整いました。こちらへ…」


石川の後に続き、門の前に止まっているリムジンへ乗り込んだ。


「石川。手の空いている使用人にあの家の掃除と片付けをお願いしたいの。汚いものは捨てて構わないから、綺麗にしてと伝えて。」


「承知致しました。手配します。」


真由子を乗せた車が走り出す。


「支度が済んだら、いつものお店へお願い。お父様と食事の約束があるの。」


「では、そのように。」


広い車内で真由子は、タブレットで記事を読んでいた。


──────── 木下財閥 製薬会社を傘下へ。


真由子の家は、曽祖父の代から財閥トップクラス。真由子は、令嬢の中の令嬢だと言われている。本来ならここまで自由に出来る身ではない。


自身を真由子と呼ぶのも許されない。お気に入りのワンピースを着て、自由にお散歩も出来なくなる。真由子は、世間に隠されて育てられたのもあり、顔が知られていないから危険な目に遭っていないが、これから顔が知られ一人で行動することも制限されるようになる。常に、監視されていると思わなければならない。


「窮屈だけど、仕方ないよね。」


木下財閥の令嬢として生まれてきた宿命。真由子は今、それを受け止めている最中。


「わたくし、ワタクシ、わたくし…」


自由奔放な日々を送ってきたせいで、簡単にボロが出そうだった。もう後戻りは出来ない。深く呼吸を繰り返し、覚悟を決めた。


淡いブルーのドレスを身に纏い、いつもは履くことのない高いピンヒールを足元に置く。アクセサリーやバッグも、木下真由子に相応しいものを選んでいく。


鏡の前に立った私は、まるで別人に見える。


この私を見たら、お兄さんはどう思うだろうか。綺麗だと、美しいと言ってくれただろうか。


「これにします。」


身支度を終え、約束のお店へ入る頃。すっかり緊張は解け、落ち着いていた。


「木下様、お待ちしておりました。奥の個室へどうぞ。」


中へ入ると、お父様とお母様が真剣な表情で私を見つめた。


「真由子、座りなさい。」


私は、座るなり口を開いた。


「お父様、お母様。私が会社を継ぎます。お見合いも致します。木下家の跡取りとして、全てお父様とお母様の意思に従うつもりで帰ってきました。」


ここがスタートラインだ。



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