27
真由子が今住んでいる一軒家は、パパとママが真由子のために建ててくれた家。真由子が望んだお城のような家だ。木下家に使える使用人は、真由子が拒否をしたため、ほとんど出入りがない。今日は、この家に使用人を置くようにとパパとママにお願いをし、その際にお兄さんのことを解雇するように伝えた。
「真由子様。ご無沙汰しております、お元気でしたか。」
実家にいた際、お世話をしてくれていた使用人、執事の石川が到着した。
「うん、真由子は元気だよ。早速だけど必要なものを買い揃えて。」
「承知致しました。」
木下家の令嬢であることを改めて実感する。
真由子は自由を十分に満喫した。やるべき事をする。そうしないとお兄さんに顔向けが出来ないし、一生真由子のことを好いてはもらえない。
お兄さんのためだけじゃない、真由子のためにも、自由を捨てる。
「真由子様。移動の準備が整いました。こちらへ…」
石川の後に続き、門の前に止まっているリムジンへ乗り込んだ。
「石川。手の空いている使用人にあの家の掃除と片付けをお願いしたいの。汚いものは捨てて構わないから、綺麗にしてと伝えて。」
「承知致しました。手配します。」
真由子を乗せた車が走り出す。
「支度が済んだら、いつものお店へお願い。お父様と食事の約束があるの。」
「では、そのように。」
広い車内で真由子は、タブレットで記事を読んでいた。
──────── 木下財閥 製薬会社を傘下へ。
真由子の家は、曽祖父の代から財閥トップクラス。真由子は、令嬢の中の令嬢だと言われている。本来ならここまで自由に出来る身ではない。
自身を真由子と呼ぶのも許されない。お気に入りのワンピースを着て、自由にお散歩も出来なくなる。真由子は、世間に隠されて育てられたのもあり、顔が知られていないから危険な目に遭っていないが、これから顔が知られ一人で行動することも制限されるようになる。常に、監視されていると思わなければならない。
「窮屈だけど、仕方ないよね。」
木下財閥の令嬢として生まれてきた宿命。真由子は今、それを受け止めている最中。
「わたくし、ワタクシ、わたくし…」
自由奔放な日々を送ってきたせいで、簡単にボロが出そうだった。もう後戻りは出来ない。深く呼吸を繰り返し、覚悟を決めた。
淡いブルーのドレスを身に纏い、いつもは履くことのない高いピンヒールを足元に置く。アクセサリーやバッグも、木下真由子に相応しいものを選んでいく。
鏡の前に立った私は、まるで別人に見える。
この私を見たら、お兄さんはどう思うだろうか。綺麗だと、美しいと言ってくれただろうか。
「これにします。」
身支度を終え、約束のお店へ入る頃。すっかり緊張は解け、落ち着いていた。
「木下様、お待ちしておりました。奥の個室へどうぞ。」
中へ入ると、お父様とお母様が真剣な表情で私を見つめた。
「真由子、座りなさい。」
私は、座るなり口を開いた。
「お父様、お母様。私が会社を継ぎます。お見合いも致します。木下家の跡取りとして、全てお父様とお母様の意思に従うつもりで帰ってきました。」
ここがスタートラインだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます