真由子の成長

25



その夜、お兄さんは家を出たきり朝になっても帰って来なかった。パパかママに連絡をしようとも考えたけど、責められるのは真由子ではなく、お兄さんだ。


「わがままでぬるま湯に浸かっている真由子は、お兄さんと一緒にいられない。」


昨晩のことを思い出しながら家を後にする。家の中で悩み、泣いても解決はしない。真由子は真由子らしくいつものお散歩に出かける。


「あ、猫ちゃん…」


真っ白な猫が目の前を通り過ぎる。


いつかのあの日のように、真由子は猫を追いかけながら迷子になった。


「ここ来たことある。」


迷子には、なっていなかった。


「あんた、道に迷ったのかい?…ってあら、前にも迷子になっていた子ねぇ。」


あの時のお婆ちゃんに声をかけられた。温かくて美味しいお茶を出してくれたお婆ちゃん。


「お婆ちゃん、こんにちは!」


「あらあら、随分と大人っぽくなったわねぇ。今日も寄っていきなぁ。」


お婆ちゃんが持っている重たそうな荷物を、真由子は持ち上げる。


「真由子が持つよ!」


「あらぁ、頼もしくなって…ありがとうねぇ。」


お婆ちゃんの家に着くまで真由子は、重たい荷物を一生懸命に持ち上げ、運んだ。


「本当にありがとうねぇ、今お茶とお菓子を出すから、そこに座っててなぁ。」


懐かしい匂いに包まれながら、真由子は辺りを見渡した。目に入ったお仏壇には、あの時と同じ遺影が置いてある。


「お婆ちゃん、お仏壇のお参りってどうやるの?」


真由子は人生で初めてお仏壇の前に座った。


「お参りしてくれるのかい?よーしよし、ちょっと待っててねぇ。」


お婆ちゃんが真由子の横に座り、マッチでロウソクに火を灯す。


「お線香を一本持って、火をつけて、香炉の灰に刺す。うちはこのやり方だからねぇ。出来るかい?」


真由子は頷いて、お婆ちゃんの指示通り動く。


最後におりんを一度だけ鳴らし、両手を合わせて目を瞑った。



───── 恋って、愛って、伝え方が難しくて真由子にはわからない。お爺ちゃん、秘訣があったら教えてください。



そう思いながら、しばらく手を合わせたまま目を瞑っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る