第77話 バーサーカーvs空挺団
――そうか! ならば少し痛い目にあわせてやろう!
プリンさんがそう言うと、全ての飛空艇が側面をこちらに向けた。
射撃体勢に入ったのだ。
――まずは一発くれてやれい!
「くっ!」
いきなり撃ってくるか!
しかしピストルでアリを撃つようなものだ。
セルフヒールで回復し続ければ、少なくともやられることはない!
「悪い、ちょっと持ってて!」
「えっ!?」
するとどういうわけかルナさん、愛用の大剣を俺に預けてきた。
そして投げ捨ててあった大金槌を握り、射線上に向かって走っていく!
――うてー!
――ドーン!
「うおおおおー!!」
超音速で飛来する砲弾!
ルナさんはそれを――。
――バキーン!
大金槌で弾き返した!?
――ばかなー!?
――ドゴーン!
弾き返した砲弾は、旗艦のどてっ腹に突き刺さり、その装甲を凹ませる。
――うおおおおー! なんてことをおおー!
うわあああ! 漫画みてえだああああ!
そして、修理にお金がかかりそうだ……。
「そんな所でコソコソしてないで、降りてきたらどうだい! ダグラス!」
――竜人殺しいいいい! こんな所で貴様が何をしているのだあああ!
「竜人の居ないところにあたしが居るのがそんなにおかしいかい!? 悪いが婚約破棄の動画を見た瞬間に飛んできてたのさ!」
――ここで会ったが100年めえええ! 今日こそ捻り潰してくれるうううう!
「それはこっちのセリフだよハゲタカどもがああああ!」
するとルナさん、旗艦めがけて走りだした!
「うおおおお! ドラゴニック・ブレイク!」
そして大金槌を使って、地面に向かって奥義を打つ。
――ドゴッシャーン!!
その反動でルナさんの体は、飛空艇に届くほどに飛び上がった!
「うおおおおお!」
――ガッコーン!
――うなあああー!?
そして、こちらを向いている砲塔のひとつを破壊した!
流石はルナさん! 竜並みに強い!
さらにピョンピョンと飛び移り、近くの砲塔を破壊していく。
――や! ヤメロー!
――ハハハハハハ! やめてほしかったら止めてみな!
四方八方から弓矢がふりそそぐ。さすがに砲撃をするわけにはいくまい。
ルナさんはややしばらく、砲塔の上を飛び跳ねていたが、やがて甲板の上にあがっていった。
――こいやああああ!!
――ものども!! かかれええー!!
――ウワアアアアア!!
あっという間に、旗艦の上がパニックになった!
下からはよく見えないが、グシャバキゴキンと酷い音が響いてくる!
――援護しろー!
――押し出せー!
周囲の飛空艇が近づいてきて、その甲板の上にいた恐らくはプレイヤーと思われる人達が、斧やら剣やらを手に飛び降りていく。
NPCを戦闘に参加させないのは良い判断だろう。ルナさん相手だと、一瞬でポリゴンに変えられてしまうしな……。
(というか……)
ルナさんって、ほんと敵が多い人だ!
《まったく……あれが強さに取り憑かれた者の宿命なのか》
「えっ!?」
今、どこからか男の人の声が……。
《ここだ、お前がその手に握っているのものだ》
「はっ! まさか!」
ドラゴンテイルズが喋っているのか!
喋る剣とか、ファンタジーすぎ!
「どうされましたか? オトハさま!」
「えっ? サーシャには聞こえないの?」
「何がでございますか?」
「なんと……!」
どうやら、俺にだけ聞こえているようだ!
そして図らずも、初めての竜人さんとの会話だ……。
《お前の心に直接話しかけている、他の者には聞こえん、ルナにもな》
(そうなんですか? でもなんで……)
《あいつは俺への依存から抜け出したくて俺を殺した。いつでも会話できると知られたら、あいつはまた、俺への依存をぶり返すかもしれん》
(な、なるほど。じゃあ、黙っています……)
《うむ、かたじけない》
しっかり者の旦那さんだった。
俺は剣の中にいるハム助さんと、ルナさんの戦いを見守る。
旗艦の甲板に降りたプレイヤーは数百にも達していると思うが、未だに俺のHPゲージは削れていない。
大金槌なんてデカい武器を持ちながら、未だに敵の攻撃を受けていないのだ。
――ウオラアアアアア!!
――ドガドガドガアアン!!
――グワアアアアー!?
《今のうちに攻撃の準備をしたらどうだ? 金は唸るほどあるのだろう?》
(あっ……!)
そうだ! 見惚れている場合じゃなかった!
「サーシャ! セバスさん!」
「はいお嬢様!」
「いかがいたしましょう?」
「どれだけお金を使ってもいいから! あの飛空艇団を蹴散らせるだけのものを用意して下さい!」
「ならば大砲ですな!」
「すぐに手配します!」
サーシャとセバスさんは、その場にいた村人たちを引き連れて山の方へと向かっていった。
――ええい! 多少の同士討ちはやむを得ん! 魔法を使えー!
――うおおおおお!!
――『『『『『ウィンドカッター!!!』』』』』
――ジャギギギギギーン!!
「うぐおっ!?」
俺のHPバーが一気に1割削れた!
「ヤバい!」
慌てて俺は、自分にセルフヒールをかけまくる!
――『『『『『ウィンドカッター!!!』』』』』
――アヒャアアアアアアン!♡ こりゃ最高だあああああ!! どりゃごにっく・ぶりぇいくうううぅぅ!!
――ボゴゴゴゴゴガガガガッガーーン!!
――グワアアアアアアアアアアアアアア!!?
「ひえええー!?」
完全にバーサーカーと化している!?
俺はひたすらセルフヒールを唱えて、ルナさんの戦いを援護する。
《完全にイッちまってるぜ……。まあ、あいつをあんなにしたのは俺なんだが……》
(そ、そうですか……?)
責任を感じているのですね。
でもルナさんなら、遅かれ早かれああなっていたかと!
――『『『『『う! ウィンドカッタァー!!!』』』』』
――ギャアアアアアアアー!♡ イテエエエエエエエエー!!♡ ヒリヒリシュリュウウウウウウーー!!♡ でもこんなもんじゃあたしゃ死なねええええぞおおおお!!♡ どりゃごにっく・ぶりぇいく乱れうちいいいぃぃぃいいい!!
――ボゴゴゴゴゴガガガガッガズグギゴゴガーーン!!
――グワアアアアアアアアアアアアアア!!?
――ゲエエエエエエエエエエエエエエエ?!!
――エルクサーぐびぐびー! ファイト一発どりゃごにっく・ぶりぇいくうううぅぅ!!
――ズンガラゴッシャンドングチャアアアアアアアン!!
――ホワアアアアアアアアアアアアアア!?!
――アンギャアアアアアアアアアアアア?!!
「…………」
《…………》
俺もハム助さんも言葉を失った。
とーちゃん、かーちゃん。
このゲーム本当に、健全なの……!?
――ええええーーい!! 忌々しき竜人殺しめええええ!! とびかかれー!! おさえこめええええ! 物理的に行動不能にしろおおお!!
――うおおおおおおおお!!!
――はにゃあああああ!? セクハラでうったえるぞごらあああああ!!!
――竜人殺しにオスもメスもねええわあああああ!!
――ぐ! ぐはああああ!!♡ そんな! くりゅしいいいい!!!♡
なんとなく、ミツバチの巣に突入したスズメバチみたいになってるのか……?
人間団子に圧殺されてるっぽい……。
――おらあああ! 人形ども! ぼさっとしてないで砲撃をはじめろー!
――イエッサー!!
――アイアイサー!!
「えっ……」
いまあのオッサン、この世界の人達のことを『人形』って言ったのか?
――砲撃はじめー!
――ドンドンドンドンドーン!!
――ヒュルルルルルー!
――バーンドーンバーンバーン!!
《おい、危ないぞ!》
「…………」
激しい砲撃の爆風が、無駄に長い俺の金髪をなびかせる。
――おらおらもっと打て人形どもおおお!!
――イエッサー!
――ドンドンドンドンドーン!!
――ヒュルルルルルー!
――バーンドーンバーンバーン!!
【砲撃! 132のダメージを受けた】
直撃を受けずとも、爆風だけでも十分にダメージが入る。
だが俺は妙に澄み渡った気持ちでいた。
あのオッサンは……プリンなんとかさんは、この世界の人を人と思っていないんえだ……。その事実に俺は、決定的に相容れない価値観の違いを感じた。
もっとシンプルに、怒りと言ってもいいかもしれない。
「ハム助さん」
《む……?》
「少しだけ……力を貸してください」
《うむ……》
そして俺は、預かり物のドラゴンテイルズを握りしめ、飛空艇の直下に向かって走っていく――。
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