第五十七話『真相』

 

「これは──────」


 息が呑まれ、額に汗が走る。

 その横で、怪訝なリベンは問うてきた。


「何か分かったか?」

「……いや」


 これは、私以外に知られてはならない。

 報告書の一部は文字化けしていましたが、内容は完全に察せられた。


 ────────────帝国め。かくも非道に武力を求めるか。


 私の居場所も、正体も。

 既に発覚しているという事か。


「申し訳ありません」

「え、何が?隠し事でもあんの?」

「いえ。……この暗号には、何の意味もありませんでした」


 今すぐに此処を出なければ。

 ……ドアからは不味いでしょうか。窓から行きましょう。


「どういう事だ?……って何してる!?」

「今後この姿で出会う事は無いでしょう。彼女達に宜しく伝えて下さい」

「お、おい!!止め──────」


 リベンの声が聞こえたが、私は窓から身を投げ出した。

 着地は大丈夫。魔法を使用したから。


 さて。

 ここからどうするべきか……。


 現在の居場所は恐らくツアーにバレている。

 エルシーが殺害された事も含め、私の正体も既に。


 帝国第一に侵入させたのは、そういう意図があったのか。

 忌まわしきかな、ツアー。


 お前の存在が在る所為で、私は復讐を果たせないでは無いか。

 完全に盲点だった。裏切られていたとは。


 いや。

 爆死を以て出来た死者は少ない。


 まず其処から疑えば良かったか……。

 最初から最後まで、罠にはめられていたという事か。


 ……ふむ。

 ──────でもまぁ、一応は……


「何処に行くんです?エクセルさぁん?」

「……レネ。良かった。私の自室に案内を頼めます?」

「良いですよー。て言うか何でこうなってるんですかー?」

「……何ででしょうね」


 人目を裂けながら。

 木陰と障害物を頼りに、帆を進めていく。


 レネの情報を据えて。

 辿り着いたは、密輸入して来た銃が在る───自室。


 ここも帝国第一から与えられたモノですがね。

 取り敢えず発覚してからは早いので、手は回っていない筈……。


「──────動くな」


 だったんですが。

 部屋に入った途端に銃を突きつけられました。


 数は十名以上。

 抵抗は不可能。何れも帝国機械兵オートマタの精鋭部隊。


 その包囲網の奥で佇むは、一つの因縁。

 ──────ツアー司令官が、其処には居た。


「案外に、遅かったですね。最初から根を張っておきながら」

「は!良く言う。負け惜しみか?」

「いえ、そう言う訳では無いのですがね……」


 溜息と共に、とある感情に思いを馳せる。

 それは『やっとか』と言った、呆れの意。


 それを向ける相手は、ここの誰でも無い。

 と言うか鉄屑でも、人でも無い。


 ──────それこそは。


「やっと本性を現したのですね。

 ─────────レネ」


 ツアーの目に新たに灯る、金の色。

 奴の横にふんわりと滞空するレネに対し、私は笑った。


 元々から気付いては居た。

 そもそも、出会った時から。


 ……彼女は、裏切るタイプであろうと。


「あれ、いつから気付いてたんですかぁ?」

「分かるでしょう。──────最初からだよ」


 レネは白々しく視線を落とす。

 何、元々から彼女に感情などない事は悟っている。


「でもこれは驚きましたよ、ツアー。

 ──────貴方が、純シエル民だったという事に」


 丁寧に染めて、頑張って隠していると言えど。

 その金眼は騙せまい。


「は。でもだからと言って、亡命しちゃ悪いのかねぇ?」

「否定はしませんよ、ツアー。でも嘘は良くない。

 その様子からすると、レネの最初の契約者は、貴方だったのでしょう?」


 乾いた笑いが響いた。

 されど私の、冷淡に侮蔑する様な眼光は変わり得ない。


「まぁそうだなぁ。こいつのお陰で、お前の所在を知る事など容易に過ぎた」

「……やはり貴方、性格歪んでますね」

「エクセルさん、そちらもですよ」

「ああ、そうでしたね」


 ははは、と。

 凍りつく様な緊張感の中に、異物の如く笑いが駆ける。


 一頻り、笑い終えた後に。

 レネはこほんと咳払いをして、睨む様に私に呈する。


「でも、エクセルさん。

 隠し事があるのは、私達だけじゃないでしょ?

 ──────教えて下さいよ。貴方は一体……」


 心臓は一定の間隔で鼓動し続ける。

 表情を全く崩さない私を畏怖するかの様に、彼女は言った。


「一体何十年、いや……。

 ─────────何千年前から、生きてるんですか?」


 それに続き、ツアーは私を睨む。


「教えろ。総てを。

 ……お前は本当に、純シエル民にしか転移出来ないのか?」


 は。

 愚問ですね。


「答えない、と言ったのなら?」


 ツアー達の顔色が強張って行く。

 ツアーは一方踏み出し、片手を上げて司令を下した。


「お前をここで、もう一度殺す」


 突きつけられる銃口。

 凜然としたその通告と発砲に、私は笑みを浮かべるしか無かった。


 だって。


「──────出来るモノなら。やってみて下さいよ」


 空中の仰ぐ弾丸は突如として停止したのだから。

 いや。停止させられた、と言うべきか。


「……っ!貴様───!」


 私の周りを取り囲む透明の壁は、弾丸を歪み止める様にして存在している。

 これこそが魔法。お前たちが追い求めたモノだ。


「今度会う時は。別の姿で襲いに来ますので」


 私は、動けなくさせた機械兵オートマタの銃を奪い取る。

 そしてそれを顎に突きつけ。


 ─────────自殺した。


 倒れ、見るも無残な姿で倒れる金髪の死体。

 それを目の前にし、ツアーは怒りと共に舌打ちを放った。


「……ち!探せ!!我が帝国の存亡に関わる!!!

 ─────────絶対に奴を、殺し尽くのだ!!」


 崩壊の歯車は着実に回り続ける。

 死に続けられる私と、狂い続ける帝国との仁義なき戦い。


 ツアー大佐の病死を以てしても、その時計は時を刻み続ける。

 彼の血族が姿を現し、また死に、生き、死んでいく。


 だが私は未だに生き続ける。


 復讐心を忘れることはない。

 戦いを終える事はない。

 兵器を守り続けよう。

 この愛国心を誇り続けよう。



 ─────────この帝国が滅ぶ、その期まで。











終わりましたね。終わらせましたね。

一応あらすじ通り、すぐに、ここで終わらせる予定でした。

色々突っ込みどころはあったでしょうが。

暇つぶしの様に書いた物が、ここまで読まれるとは。

……あんま読まれてない部類ですが。

暇あれば、私の別作品も読んでみてください。面白いですよ。


で、この作品についてですが。

続編希望の声あれば、一考もするやも知れません。

その時はシナリオも設定も、大幅に考え直して……。



──────皆様にとっての最高の作品となる事を、確約致しましょう。

ではまた。








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私は全てを失った。だから私は奴らに復讐すると決めた!ー 陥落王国の第一王子は、死ぬ度に強くなる魔法で国を一人で滅ぼすようだ ー 如月 りゅうか @kisaragiryuka

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