第三十九話『任務』

「……やってしまいましたね。エクセル様」


 教員専用の個室の中。

 監視カメラの配置されていないプライベートルーム。


 そこでエルシーは、私に苦笑いを打った。


「そこまで危険な訳ではないでしょう」

「いいや。帝国随一の軍家の名門のお嬢様を打倒したのですよ?」


 エルシーは表情一つ変えずに、そう伝えてきた。

 表情の起伏が無いのが彼女の欠点だ。


 何を思っているのかが分からない。

 兎に角。


「……まぐれで済むでしょう、そんな事」

「まぁそうなんですが。でも少し問題がありまして……」

「問題?……まさか」


 悪寒と共に私は察する。

 返ってきたのは、小さい相槌だった。


「リアル嬢様は新たにシールファンクラブを設立。

 取り巻きのマーズとユーナ嬢様を迎え、現在在籍人数は三十名を超えました」

「……ま、まぁ大丈夫でしょう。ファンクラブは本人非公式だから成り立つのですから」


 少し声音が震えたのは承知している。

 設立はほんの昨日とかのはずなのに、そこまで行っているのは驚きでしたが。


「エクセル様はやっぱり絶世の美少女なのですね」

「……やめて下さい。これは借り物の体ですよ」

「ああ、そうでしたね」


 皮肉混じりの言い方に、少し立腹したが。

 本題を忘れかけている気がしたので、路線を戻す事にした。


「それよりも。頼みたい事があるのですが」

「何でしょう?……調査の依頼でしょうか」

「ええ。───この学校について、調べて欲しいのです」


 エルシーの顔色が強張った。

 確かに無理難題を押し付けているのは、理解している。


 帝国と直接繋がっている学校の調査。

 それはある意味、帝国への探りを入れる事と同義になるから。


「それは……難しい任務ですね───」

「貴方だからこそ頼める事なんです。ですが無理ならば───」


 断られる事を承知している。

 しかし彼女はそこまで悩む事もなく、こう言い切った。


「いえ。王子からの任務は、必ず果たします」

「……感謝します。エルシー」


 エルシーはその言葉と共に素早く動き出した。

 この勤勉さは、昔と全く変わらない。


「───調査を始めます。第一王子は、学校生活を楽しんで下さいね」

「了解。武運を祈る」


 そうして、各々するべき事に移っていく。

 そこには確かな……帝国への復讐心が芽生えている。


 これこそが、シエル民なのだ。

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