真の苦悩な冒険記 その2

 それは一瞬だった……。


「勇者殿たちの見せ場を作るため、我々が道を作ります!」


 我々が味方するルミエールの東辺境伯軍とルミエール王国の正規軍との戦いの幕が切って落とされたが、戦況は膠着状態。


 当初の話ではルミエール王国の王都で別動隊が蜂起し、王都を混乱させ正規軍の派兵を遅らせるという策だった。しかし、蓋を開けてみれば、数は少ないが間違いなく正規兵が布陣している。


 どうやら、あの正規兵に私たち勇者組をぶつけたいみたいだ。


 私たちと一緒に来たロタリンギアの部隊は、三分の二が総司が開発したクロスボウを装備し訓練された特殊部隊。いわば、エリート部隊。その隊長がクロスボウを装填して、私たちの道を作ると言う。


 エリート部隊が前に出てクロスボウを構える。私たちはその後で残りの突撃部隊とその時を待つ。


 勇は武者震い、総司も震えているが顔色が悪いので本当に震えているのかも。芹谷くんは不敵な笑みを浮かべている。


「狙え、撃てぇ……」


 一瞬、目が眩むほどの閃光が走り、強風が吹き荒れる。強風が収まり目を開けると、そこにはなにも無かった……。


 今まで寝食を共にしてきた人たちが、一瞬で消えて無くなった。骨どころか塵一つ残っていない……。


「ま、まさか、ルミエールの奴らこんなAFを隠し持っていやがったとは……」


 ダスクが呻き声に近い声を出して呟いている。


 これもAF? これはもう、戦術兵器の域。個人でどうこうできる域を逸脱している。どうやら、このAFの情報は掴んでいなかったみたいだ。


「チッ。飛竜と騎士団までお出ましとはな。準備万端だったってことか……。この戦い負けだな。勇者殿、引くぞ!」


 このダスクという男、多くの味方が消えたのになんとも思っていないのか? それとも、これが戦場の常識なのか?


 勇は呆然と立ち尽くし、総司は腰を抜かしたのか座り込み、芹谷くんは悔しそうな顔をしている。


「急げ! 逃げられなくなるぞ! 私が勇者殿を先行して逃がす! 残りの者は殿しんがり、その後は遅滞戦術に移行せよ!」


 生き残った三分の一の兵は私たちを逃がすために捨て駒になれということだ……。


「一丸となって逃げたほうがいいのでは?」


「もう、その時は逸した。ルミエールが虎の子の騎士団とヒルデンブルグの飛竜を出した以上、こちらの全滅もあり得る。こいつらを囮にして少数で隠れ逃げるしかない」


 勇も総司も芹谷くんもなにも言い返せない。もちろん、私もだ。


 そこから始まる逃亡劇。後方にいたはずの補給部隊と合流しようとしたが、既にルミエールの別動隊に押さえられ接触すらできなかった。


 逃亡途中、何人かの生き残った兵が合流したが、それは負傷兵。共通貨幣が底を尽き、食料も底を尽き始める。ロタリンギアの貨幣を使えばすぐに足がつく。


 そうなると、負傷兵は邪魔になり泣く泣く置いていくことに……。ダスクが言うには、ここに置き去りにされたほうが生き残る確率が高いらしい。捕虜という形でだが。


 狩りで食糧を調達し、時には人の家に忍んで入り盗みを繰り返す。国境を越えた時には私、勇、総司、芹谷くん、ダスク、兵十四名になっていた……。


 四千もいた兵が十四名……。これが戦争なのだと苦しみの感情と共に実感した。


 帰って来て見ればなぜか戦勝祝い。ヒルデンブルグ国内では、ルミエールに手痛いダメージを与えたことになっていた。


 それと、この国の王であるザンデール王が崩御しており、暫定的に第一王女ルナシア姫が政を執っており、祝賀会で勇との婚姻が発表された。


 第一王女ルナシア姫が王位に就かず、勇に王位を譲ると発表された時には会場にいた貴族たちからどよめきが起きていた。


 勇は平然としていたので、裏で意思疎通が行われていたのだろう。


 そこからの事態は早かった。すぐに結婚式が行われ戴冠式が続いて行われた。


 勇が国民の前で所信表明を行った。それは、貴族制の廃止、そして能力主義の導入。国民で能力さえあれば庶民でも政治に参加できるというもの。民主主義でも始める気か?


 総司は勇の横で頷いている。芹谷くんは少し離れた場所で嘲笑的な笑みを浮かべている。私もどちらかといえば芹谷くんと同じだ。


 貴族たちは表立って叛意は見せていないが、納得している者はいないだろう。間違いなく、心の中では怒りを感じているはずだ。


 そして始まる、権謀術数の数々とそれによる粛清。特に前王の腹心たちが的となっている。正直、なんでもあり。白でも無理やり黒にして罪を着せられ断罪されていく。


 私はそんな貴族たちと粛清される前に話をして、私たちが召喚された本当の理由を探す。ネロさんが私たちを本当の勇者じゃないと言ったことがどうしても気になっていた。


 前王が崩御し後ろ盾のなくなった前王の腹心たちが、中立を保っている勇者である私の庇護下に入りたく、ルミエールのことから勇者召喚のことまですべて話してくれた。


 すべては嘘。すべてが偽り。私たちは勇者じゃなかった。


 私はどうすればいいのか悩み続けた……。


 正直、貴族たち、いや前王を恨んだ。でも、真相を話してくれた以上、彼らを守らなけらばならない。粛清しようとする勇と王妃と対立しながらも、彼らを擁護し守る。


 貴族たちの力を借りロタリンギアでの地盤固めを早急に進める。そうしないと、自分自身の身の危険を感じるからだ。


 この国には勇、総司、芹谷くん、そして私の四人の勇者がいる。私が欠けたところで困らない。現政権と対立している私は勇たちにとって邪魔でしかない。


 もう、お互いが幼馴染では済まされない状況に立たされているのだ。望む望まないにかかわらず、私はもう後には引けない状況に立たされている。


 なんで、こうなってしまったのだろう……。








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