歌手を志して上京した平木桃矢は起死回生を狙いヴォーカルコンテストに応募する。会場にいたのは、母親に勝手に応募されその場に佇んでいた浜崎茉莉。浜崎は子どもながら勝ち上がり、本戦でふたりは相まみえることになる。浜崎は平木の自由な歌声に、挑むような視線に、ただ圧倒される。平木も、浜崎の歌声に自分にないものを感じ、心を奪われてしまう。平木は歌うことをやめた。
時は経ち、浜崎はHi-vox.のヴォーカルとして平木の作った歌を歌っていた。歌うのをやめた平木は、ただひたすら、浜崎の歌う歌を作曲し続けている。
歌をやめ心が枯れた平木に向けて平木に、浜崎はあの日、平木から向けられたまなざしを――挑戦するまなざしを向ける。――見てろよ、平木さん、俺を。
そんなある日、Hi-vox.のライバルバンドEndLandのヴォーカル藤巻圭に、平木はEndLandの曲をつくらないかと誘われる。久しぶりに胸が沸き立つ平木。だが、そんな平木に浜崎は激情を爆発させて――?
これは互いに圧倒され、ぶつかりあうことをおそれた男ふたりの物語だ。
平木は、浜崎に出会い自分にはない才能にただ圧倒され、心を奪われ、浜崎の歌う歌しかつくれなくなってしまった。対する浜崎も、平木の歌声に魅了され、平木のあとを追うようになる。彼に言われるがまま、彼の望む姿になろうと、彼の望みをかなえようとする浜崎は痛々しいくらいに平木に焦がれている。
そんな何かあれば爆発して吹き飛んでしまうようなヒリヒリとした関係性に、隕石が落とされる。それがEndLandの曲づくりだ。
今まで自分のためだけに楽曲をつくってきた平木が初めて他のヴォーカルのために曲をつくろうとしている。怒り、焦り、不安、ことばにできない激情にかられる浜崎の痛々しさがたまらない。
そこからどうたちあがるのか、が本作のテーマである。才能を見せつけられ、歌うことができなくなった男、その男に心の底から憧れて彼を渇望する男。激しい感情を互いにぶつけることができなくなっていたふたりが、自分自身を取り戻していくことで、互いにぶつかりあい、ようやくふたりが、ふたりになれる。そういう物語だ。
Hi-vox.やEndLand、周辺人物の全てがそれぞれキャラ立ちしており、どの登場人物も、好きなのだが、特に浜崎というキャラクターはいい。
平木に焦がれる浜崎のワンコ的な可愛さもあり(飼い主を恋しくおもうあまり噛みつきかねない危うさがとても可愛らしい)、この激情のかたまりのとる無鉄砲な行動には若干ひやひやさせられるのだが、いや、このひやひや、ヒリヒリする感じが本作の最大の魅力かもしれない。
文章も好きだ。
夏ミカンのような文体といったらいいのか。爽やかなのに底に苦味を隠し持っているようなそんな文章で、彼らの遅れてやってきたような青春を描き上げている。
BLとあるだけあって、年下ワンコが憧れの人に心を奪われる展開や、じれったい男ふたりの関係性が好きなひと、また、激情をもったもの同士、才能ある者同士のヒリヒリするようなやりとりが好きな人に読んでもらいたい。
また人生で立ち止まってしまっているひと、停滞から抜け出せないひとにも、おすすめしたい一作だ。
まだ、星がゼロだなんて、もったいないくらいの名作だと思っている。
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