第3話 魔剣士の噂

「以前に魔剣士が流れ着いたとの噂を耳にし、オクトスを訪れた。この地で剣について尋ねるのなら、剣聖レンジョウを置いて他にいない」

「もしや君は、魔剣士狩りと呼ばれる剣客か?」

「自ら吹聴した覚えはないが、そう呼ばれていることは事実だ」

「……なるほど、魔剣士狩りの称号は世襲制。既視感もそのせいか」


 若かりし頃に出会った剣士の姿がダミアンと重なった理由にレンジョウは得心がいった。その剣士も魔剣士狩りと呼ばれていた。称号が世襲制で二人が血縁関係にあるとすれば、ダミアンに面影があったとしても不思議ではない。


「失礼、話の腰を折ってしまった。魔剣士狩りである君がオクトスを訪れた理由は分かった。今から三年前、確かにこの町に魔剣士が現れたよ。魔剣士の名はディルク、かつては私の門下生だった男だ」

「だったということは、一度破門した相手ということか?」


「その通りだ。私の指導方針はリヒトから聞いているのだろう。ディルクは私の剣技を継ぐ器ではないと判断し破門したが、そのことが彼の心に影を落としてしまったのだろうな。どこであんなものを手に入れたのかは知れぬが、彼は魔剣の狂気に飲まれ、私を襲撃した。私を殺すことで実力を認めさせようしたのだろうな」


「事の顛末てんまつは?」

「苦戦は強いられたが、私はディルクの首をねることに成功した。見ての通り五体満足でね。剣聖の名はまだ終わってはいない。老いたとはいえ魔剣士如きに遅れは取らんよ」


 魔剣の性能は凄まじいが、それを扱う魔剣士はあくまでも生身の人間。一部の例外を除けば死の概念は常人と変わりない。手練れの剣士であれば猛攻を掻い潜り、一瞬の隙をついて首を刎ねることも可能だろう。剣聖の剣技は老いてなお健在だったというわけだ。


「その後の魔剣の始末については?」


 所有者たる魔剣士が死んでも大本である魔剣を処理しなければ問題は解決しない。放置すれば魔剣は新たな所有者を見出し、悲劇が繰り返されることになる。

 長年剣客として世界中を旅してきたレンジョウならば、魔剣の危険性についても承知しているはずだ。


「無論、疎かにはしていないよ。破壊出来れば一番良かったのだが、生憎と私にはその術がなかった。よって魔剣は破壊するのではなく、誰の手にも届かぬ場所へと永劫封印することにした」

「魔剣の源たる魔石は魔剣でしか破壊出来ない。それが出来ぬ以上は確かに封印するのが上策だが、その封印は本当に安全なのか?」


 魔剣は魔剣で破壊しない限り、経年劣化などでも朽ち果てることはない。中途半端な場所に隠しただけでは、いずれ誰かの手に渡る可能性を排除しきれない。


「厳重に封印し、決して浮上してこぬように大量の重りと共に海中に沈めた。魔剣の異常性を考えれば絶対安全とまでは断言出来ぬが、少なくともそう簡単に人手には渡るまい。場所は近くのリーパという港町の沖だ。知人の漁師の協力を得て、責任を持って私の手で魔剣を海中へと沈めたよ」


「懸命な判断だ。魔剣の狂気は際限なく悲劇を生み出す。負の連鎖はどこかで断ち切らなくてはいけない」

「君の言う通り魔剣は恐ろしいものだ。ディルクは魔性に魅入られていた。本来はあんな凶行に走る青年ではなかったろうに……」


 眉間に皺を寄せレンジョウは俯いた。魔剣士と化していたとはいえ、元弟子を自らの手を殺めたことに自責の念を感じているのだろう。


「すまないね、少し感傷的になってしまった。君が追う噂の顛末は今語った通りだよ。こう言っては申し訳ないが、無駄足になってしまったな」

「魔剣士は死に、魔剣が封印されているというのならそれでいい。悲劇に終止符が打たれたのなら幸いだ」


「同感だ。して、これからは君はどうするのかね?」

「宿を取ったし、今夜は町に一泊する。明朝には町を発つつもりだ」

「用件が済んだとはいえ、随分と性急だ。ゆっくりと観光でもしていけばよいものを」

「私の魔剣士狩りの旅は全ての魔剣士を狩り尽すまで終わらない。悠長にしているつもりはない」

苛烈かれつだが、剣士の生き様に口を挟むのも野暮というものか」


 レンジョウもまた刀一本で世界中を渡り歩いた身。元より旅の者を引き留めるつもりなどない。


「では今日この後は何か予定はあるかな?」

「特にはないが?」


「少しでいい、弟子たちに剣技を見せてやってはくれないか。世界中を旅してきた君の剣技はきっと彼らにとって良い刺激となるはずだ。そういった経験は道場の鍛錬だけでは補いきれない貴重なものだからな」


「話を聞かせてもらった礼だ。面白味のない我流剣だが、私でよければ引き受けよう」

「ありがとう。後はリヒトに引き継ぐから、彼から屋敷の案内を受けてくれたまえ。本当は私も立ち会いたいのだが、生憎とこの後は町長と会合があってね」


 立ち上がったレンジョウが障子を開き、後を追ってダミアンも正座を解いた。足の痺れを感じさせずに直ぐに立ち上がってみせた様を見て、レンジョウは再び感心していた。

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