お誘い

 買ってきたものを整理する。菓子に、風呂グッズ、キッチングッズに飲み物だ。持ってきた衣類もタンスや押し入れにしまう。リュックの中身も整理だ。スマホの充電器やら眼鏡ケースやら新しい家に私物を広げていく。

 ちゃぶ台の上に菓子とジュースを置き、少し休憩に入る。

 そして、ずっと触れていなかったスマホを取り出す。

 ここってインターネット回線繋げるのかなと考えつつ、小説のアプリを開き、気に入った小説が更新しているかチェックをすると、アプリの様子がおかしい。

 スマホの画面中央にはグルグル回る円が表示されて、接続状況を確認していますと文字が表記されている。

 それで気づいたのだが、どうやら4Gではなく3Gで1〜2本の電波表記しか出ていない。

 たまに圏外表記も出てくる。


「終わった……」


 依存症とまではいかないが、暇があるとスマホを見ていた俺には苦痛だった。明日江角さんに会ったら一番に聞きたいことができた。


「さーて、何するかな……」


 夕方とはいえ、まだそう暗くないし、少し散歩でもしてみるかと、靴を履く。

 すると、ピンポーン。チャイムの音がする。俺は江角さんが戻って来たのかと思い、玄関の鍵を開け、引戸の扉を全開にすると、お隣の藍子さんがそこにはいた。


「こんばんは。でかけるところだったのかい?」


 俺がリュックを背負った状態でいるからだろう。藍子さんは笑顔で話しかけてくれる。


「役場の人からも説明はあっただろうけど、慣れないうちは暗くなったら出掛けない方がいい」

「は、はい」

「実はね。じいさんと話したんだけど、夕食はうちに来ないかい? 田舎料理で悪いんだけど、うちのご飯食べてって」


 惣菜パンで済ませようと思ってた俺には嬉しい話だ。二つ返事で了承する。

 藍子さんの後ろについていくと、だんだんと香ばしい焼き魚の匂いがして来た。

 家は同じく1階建ての家だが、藁葺屋根の家を改築したのか、古い作りだ。

 庭には鶏が離されており、こちら目掛けて突進してくる奴が一羽いる。


「あれ、好かれたのかい?」


 どちらかというと、攻撃されているだけなので、嫌われていると思うのだが、藍子さんの笑顔に笑って答えるしかなかった。

 土間をコンクリートで固めた玄関に靴を揃えて家に上がると、いろりを囲んで小さな一人用の机が3つ並んでいた。


「今準備するからねえ。楽にしてて」


 楽にしててと言われてもどうするか分からずにいると、居間の隣部屋で作業している五郎さんに呼ばれる。


「山内くん。こっちにおいで! 藁編んだことあるかい?」


 突然の問いに呆然としていると、藍子さんに背中を押されて、五郎さんの隣に屈んだ。

 藁を手で擦って一本の紐のような物を作り上げている。


「やってみな」


 俺は藁を渡されたどうすればいいのか分からなかったが、五郎さんは丁寧に教えてくれる。

 まず藁の細い束を二つに分けて掌で擦って、ある程度藁が捻れたら、前と後ろにある紐の位置を交換する。そしてまた擦って藁を捻っていくようだ。

 ただ擦ってもうまく藁は捻れなかった。

 その様子を見てシワを深く刻み込んだ目がさらに細められると、嬉しそうに口元を緩めて横から手が出てくる。


「なかなか、難しいだろ? でも慣れれば簡単なんだよ」


 五郎さんは俺の手の上に手を重ねて、力の入れ加減を教えてくれる。

 ほうほうと、試していけば、なんとか形になった。少しずつ紐を作りながら藁を足すようになるので、太さがバラバラになってしまったが、紐の出来上がりだ。

 何を作っているかというと、島のお土産として渡しているわらじのストラップ作りらしい。

 そうこう他愛もない話をしながら吾郎さんと藁を編んでいるうちに時間が過ぎたようで、藍子さんはこちらに顔を出した。


「あら、初めてにしては上手じゃない」

「ありがとうございます」


 褒められて少し嬉しくなり、微笑んだ。

 手を洗わせてもらって居間に戻れば、案内された場所にかしこまって正座をする。

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