商店
電柱、田んぼ、電柱、田んぼ、畑が続きやっと家がポツリと見える。
田んぼの中のT字路を曲がってしばらくすると、村唯一の商店街と思われる通りになった。
商店街といってもアーケードになっているわけでもなく、二車線の道路の向かい側に八百屋と肉屋、農作業用の道具が売っている店などが並んでいた。
一階が店舗で二階が住居といった感じだ。
その中でも一番目立つ看板を掲げる川上商店という店の前で車を停める。看板は木製で黒の字でデカデカと書いてあり、木の色からは相当年季が入っている事が分かる。
店舗の外装も一段と古く、木造の二階建てだ。
店舗の中はさほど広くない。人がすれ違うスペースもなく、中央には正方形の台、壁際に陳列棚が置かれ、その上にお菓子や調味料、いくつかの雑誌などが売られている程度だった。
店屋の店主は膝くらいの高さだろうか、一段高い木の床の座布団の上に正座をして、こちらを見守っている。昔はこの店部分が土間だったのだろうか、そんな雰囲気だった。
「
江角さんは声を張り上げ、店主——妙子さんの耳元で話しかけている。
「ほう、移住のお」
妙子さんは耳が遠そうなので、俺は声を張り上げて自己紹介する。
「山内海斗です! よろしくお願いします!」
「やまでかいのさんかい?」
「や・ま・う・ち・か・い・と! です!」
妙子さんは朗らかに笑うと、うんうんと頷いてくれる。
「そうかい、そうかい。山内さんだね。よろしくねえ」
早速だが、江角さんに促されて、生活に必要そうな雑貨や菓子などを購入する。
「妙子さんのところは基本的になんでも取り揃えているので、ここに並んでいない商品でも、妙子さんに聞けば店の奥から持ってきてくださいます。ぜひご贔屓にしてください」
最後に江角さんから宣伝をされたが、困った時には来てみよう。
「今日からお世話になります!」
俺は深々と頭を下げ、商店を後にする。
「さて、この村から逃げ出すか、虜となるか楽しみだよ……」
店の戸口を出る時に、不穏な空気に後ろを振り返れば、妙子さんが無表情であり、一瞬で笑みを作り表情を変える瞬間を見た気がした。俺の恐怖心を煽ったが何も見なかった事にする。
俺はここで自給自足の生活をするんだ。その決意は覆らない。
その時はそう思っていた。
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