第11話 憂鬱な月曜日

 月曜日。それは一週間で一番憂鬱ゆううつな曜日だと思う。

 またいろんな女子からログボを求められるのはもちろんだけど、琉未るみや姉ちゃんとどんな顔で接すればいいかわからない。


「おはよ」

れんちゃん、おはよう!」

 

 挨拶するなり俺の手を握る。

 同時にスマホがなり今日のログインは完了だ。


 姉ちゃん同伴と知られているからか玄関の前にログボ待ちの女子はいなかった。

 すっかりお馴染みとなった手を繋いで登校する姉弟きょうだいの姿をご近所の方々は温かく見守ってくれている。


「なあ姉ちゃん、恥ずかしくないのか?」

「全然。むしろれんちゃんとの仲の良さを世間様にアピールできて嬉しい」


 頬を赤らめ照れる姉ちゃん。

 今後、もし姉ちゃんが俺に対する興味を失って彼氏ができたらこんな風に接するのだろうか。

 身内のこんな姿を客観的に見たくないな。


「あっ! 琉未るみちゃんだ。おーい」


 強引に俺と琉未るみの手を繋がせる。

 これでログボ3日目だ。

 琉未るみが一歩リードした形になる。


雪那せつなちゃんもおはよう」

「お、おはようございます」


 ちょっと緊張した面持ちで挨拶を返す弐田にったさん。

 姉ちゃんに憧れて髪を伸ばしてるだけあって、どこか余所行よそゆきの雰囲気をかもし出している。


「よかったら雪那せつなちゃんもどう?」

「ああ、うん。俺は全然構わないよ」


 これは弐田にったさんと手を繋ぐチャンス! 姉ちゃんのナイスアシストに感謝したのも束の間、弐田にったさんの返事はこうだった。


「お断りします。お金目当てで手を繋ぐって、なんかいかがわしいので」


 弐田にったさんの言葉が胸に突き刺さった。

 お金の出所でどころはよくわからないし自分から望んでログボになったわけじゃない。

 しかし、よりにもよって弐田にったさんから指摘を受けるとショックがデカい。


独井とくいくんも、パパ活みたいだからあんまりログボを配らない方がいいんじゃないですか?」

「いや、あの……向こうから勝手に寄ってくるというか、俺が望んだわけじゃないというか」


 ヤバいヤバい。弐田にったさんの俺に対する好感度がどんどん下がってる気がする。

 元が決して高いわけじゃないから簡単に底を付いてしまうぞ。


「やっぱり雪那せつなちゃんは私が見込んだ女の子だ」

「「え?」」


 俺と弐田さんの声が重なった。


れんちゃんをログボじゃなくて、一人の人間として見てくれてる。大好き」


 姉ちゃんは弐田にったさんに抱き付いた。

 突然の出来事に驚いたのか弐田にったさんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。


「あれ? 雪那せつなちゃんもマンテーン使ってるの?」

「は、はい。すごく良いって聞いて」


 マンテーンってたしかうちにあるシャンプーだよな。

 まさか弐田にったさん、姉ちゃんの匂いからシャンプーを特定して……。

 偶然なのかもしれないけど、そんな可能性を考えたらちょっとだけ恐くなった。


「この香り良いよね。えへへ。れんちゃんと同じ匂いだ」

「変な表現するなよ! 姉ちゃんだって同じシャンプー使ってるんだから!」


 同じシャンプーの匂いがすると同棲感どうせいかんがある。

 琉未るみの言葉を思い出して恥ずかしくなると同時に、ちょっとだけ嬉しくもあった。


「はら、雪那せつなちゃんもきゅー姉もいつまでもじゃれ合ってないで早く行くわよ」

琉未るみちゃんは真面目ねー。だかられんちゃんを任せておけるんだけど」

「あたしはれんのお守じゃないから!」

「でも、いつも私や独井とくいくんを助けてくれた」


 弐田にったさんがボソッとつぶやいたけど、琉未と姉ちゃんの耳には届いていないようだ。

 琉未るみはギャーギャーと騒ぎ、姉ちゃんはそれを笑顔でかわしている。

 ケンカしているように見えて二人とも楽しそうだ。


独井とくいくん」

「え? 俺?」

「はい」


 弐田にったさんが自分から俺に話し掛けるなんてすごく珍しい。

 基本的に琉未るみを介して会話しているので、ちょっと驚いてしまった。


「私は、独井とくいくんにログボをやめてほしと思っています」

「俺もやめられるならやめたいよ」

「……恋人」


 少し間を置いて恋人という単語だけをつぶやいた。

 琉未るみ抜きで俺と話すのは緊張するのか少し会話がぎこちない。


「恋人ができればログボは終わるんじゃないですか?」

「どうなんだろ。連続ログインで素敵な恋人ができるように応援しますとは書かれてたけど」

「恋人がいるのにログボを配るって、なんか不純です」


 ジトっとした目で見られながら言われると更にダメージが大きくなる。

 俺だって好きでログボを配ってるわけじゃないし、なんなら弐田にったさんとお近付きになりたいのに。


「私は……琉未るみを応援します」

「え……?」

琉未るみが幸せになってくれたら、私も嬉しいので」

「応援って、一体何を……」


 答えのようなものは自分の中で出ているけど、わざとそれに気付かないフリをした。

 琉未は俺のことを気の合う幼馴染と思っていて、彼氏彼女の中になりたいなんて思っていないはず。

 自分にそう言い聞かせて平静を装った。


「いいんです。私が勝手にするだけですから」


 その視線の先には琉未るみと姉ちゃんがいる。

 心なしか頬は赤く染まっていた。


「キミが噂の独井とくいっち? はい。よろしくねー」


 突然後ろから声を掛けられるや否や手を握られる。

 背は俺と同じくらい。女子で170㎝近いのはかなり背が高いと思う。

 手足がスラリと長く、ワイシャツのボタンが結構な数空いていて目のやり場に困る。

 完全な偏見だけど、金髪でサイドテールは恐い人のイメージがある。


「マジで残高増えてんじゃん。もっと早くやってればよかった」

「でしょでしょー? 四村しむらったら遅すぎー」

「ってな訳で今週もよろしくねー」


 次々とギャルっぽい女子が俺と手を繋ぎログボをゲットしていく。


「ほいじゃ、また明日ねー」


 本日のログインが済んでしまえば俺に用なんてない。

 そう言わんばかりに台風のようにギャル集団は去っていった。


「やっぱり不潔です」

「だから俺のせいじゃないんだって!」


 ログボにでもならなければ一言も交わすことなく卒業していたかもしれないギャル集団。

 入学した時はあんな格好の女子は見なかったと思うけど、高校生活の中で何か変わるきっかけがあったんだろうな。

 アニメだとああいうのに限って成績が良かったりするから困る。


「顔、にやけていましたよ」

「それは……仏頂面ぶっちょうづらより笑顔の方が印象が良いし」

「好きでもないのにですか?」

「ほら、朝の挨拶みたいなものだし。礼儀としてさ」


 弐田にったさんの追及が止まらない。

 言い訳をすればするほど弐田にったさんからの好感度が下がっている気がする。


「……琉未るみを泣かせたら、許しませんから」


 そう言い残して弐田にったさんは琉未るみのところへと駆け寄った。

 4人で通学していたはずがいつの間にか独りぼっち。そして、この時を待っていたと言わんばかりにログボ目当ての女子が次々と押し寄せる。

 昨日おっぱいの感触を体験した俺にとって、もはや女の子の手なんて何とも思わ……なくはないけど、多少は慣れた気がする。

 ほおが緩むのは愛想良くしているからだ。 


 流れ作業のようにログインを済ませながら歩いて、俺はあの金髪サイドテールのギャルのことを想い返す。

 手、なんで震えてたんだろ。

 すごく男慣れしてそうな感じだったのに。

 

 友達にけしかけられて仕方なくログインしたけど、実は俺の手を触るのが心の底から嫌だったとか!?

 好きな人からは実質フラれたみたいになり、見ず知らずのギャルからは嫌われてるかもしれない。

 やっぱり月曜日は憂鬱ゆううつな曜日だ。

 

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