第31話 暴君
町制令を実行に移して半月。一応、形として各地方の国民がみな町へ移され、土地を与えられた頃、クリシュナは十官に王都への帰還を命じた。それと入れ替わるように商人たちが王都から各地方へ散っていった。
町の有力者からの反発は多かったが、逆に数多くの貧しい国民から町制令は歓迎されていた。町は新しい国家体制の下で、まったく新しい形になることを求められていたのである。意外だったのは、もっとも好意的に町制令を受け入れた町の一つとして、ウルハの他にレソトの名前が出たことだった。
騎士と各部隊は、それぞれの地方に残り、賊徒の撃滅を命じられて戦った。
レキサムの和約とカイラルトの和約以降、アイステリア兵は強いというのが周辺各国の認識だった。それは山賊や盗賊もよく知っていたので、そのほとんどが戦わずに国外へ逃亡していった。
国内の治安は戦前よりも良くなったのではないか、と商人たちが笑いながら喜んでいた。
王都に戻った十官たちの報告によると、人口調査の結果、もともとアイステリア国だった三地方の人口は合計で六百人足らず、新しく加わった二地方を合わせても千人程度だった。五十年前、アイステリアの人口は三千人を超えていたというから、この戦乱による国内の疲弊はかなり大きなものだった。アイステリア三地方では実に人口が五分の一になっていたのである。
「ぎりぎりのところだったな」
クリシュナが十官たちからの報告を受けて、そうつぶやいていた。
この国が滅びる前の、ぎりぎりだった、ということだろう、と私は思った。以前、クリシュナからアイステリアが滅びるということを聞かされたことがあったからだ。それくらいこの国は危機的な状況にあったのだ。それが、今は治安も回復し、一応、飢え死にする者もなく、領土は以前よりも広くなっている。これは間違いなく、クリシュナの業績だった。
クリシュナは戻ってきた十官一人一人にねぎらいの言葉をかけたが、特にワグツの息子を重んじた。慣れない責務によく努力した、と玉座を降りて手を取ったのである。
一方で、ワグツ自身が散々な扱いを受けているという噂は、十官全員が知っていた。だから、このようなクリシュナの態度は十官たちを混乱させていた。どうすればこの王の治世で保身が可能なのか、予想もつかなかったのだろう。
「今夜はみなの帰還を祝して宴の準備をしている。一度自宅に戻り、また来てくれ。それと、明日からは即位の祝いとして盛大な宴を続けるから、そのように」
クリシュナは優しい声でそう十官に告げた。
これも、保身を考える十官にとっては予想外の出来事だった。
「お待ち下さい、陛下」
口を挟んだのは軍務官のケーナスだった。すでに捕らえられているワグツの同僚で、この人もまた真面目な人物として知られていた。自分の保身を優先して考えるような人物ではなく、この人もやはり、クリシュナが王位につく前は、王妃から疎まれていた。
ケーナスは才女だと評判の二十歳の一人娘をクリシュナの後宮に送り出していた。今の立場は特に危うい訳でもない。しかし、その性格から、クリシュナに諫言せずにはいられなかったのだろう。
「今夜の宴はともかく、明日からの即位の祝いとは、これは行なうべきではありません」
「ほう。何故だ」
「陛下の即位には、騎士団の助力が少なからずあったように臣は思います。その騎士団が地方で奮闘しているというのに、王都で宴とはいかがなものでしょうか。祝いの席は騎士団が戻ってから行なわれるのがよろしいかと」
「騎士団が戻ればまた行なえばよい」
「華美、華燭は国のためにはなりません。どうかご配意を願います」
クリシュナはそこまで言わせた上で衛兵を呼び、ケーナスを捕らえさせた。
「軍務官同士、気も合うだろう。ワグツと共に私への呪いの言葉でも吐くがよい」
こうして、二人目の十官が捕らえられ、監禁されることになった。ケーナスには息子がいなかったので、ケーナスの甥が十官として呼ばれることになった。十官たちはますます自分の立場の危うさを心配するようになっていた。
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