第52話 城に戻る レナを待っていたのは
城に忍び込む様に戻ったレナは、誰にも気付かれず、部屋に入る事が出来た。
レナの帰還を最初に気付いたのは、ジャメルだった。
「お帰りになったようだ」
ジャメルの言葉に、アンドレがレナの部屋へ急いだ。
カーラは、アンドレがレナの部屋にノックもせず飛び込んで行くのを目撃した。
「レナ!!」
アンドレがレナの部屋に飛び込んだ時、レナは暗い部屋で泣いていた。
「お父様……」
レナは父やジャメルに、何をどこからどう説明すれば良いのか考えていた。
しかし、思い出されるのはエヴァの醜い嫉妬心と、ハンスとの胸がいっぱいになる思い出ばかりだった。
悔しさと寂しさが一気に押し寄せ、涙が止まらなくなった。
アンドレは、レナの背中にそっと手を置いた。
「レナ、無事で良かった」
アンドレがどれ程心配していたのかが、レナには手に取るように見えてしまった。
そうね、エヴァの様にママは居ないけど、私にはこんな立派なお父様が居るのよね。
「お父様、心配かけてごめんなさい」
「無事だったんだから、もうかまわないよ。ただ、ジャメルは相当な嫌味を言おうと、待ち構えてるよ」
アンドレの言葉に、レナは少し笑った。
仕方がない、今回ばかりは最上級の嫌味を甘んじて受けましょう。
「色々大変だったんだろう。気持ちの整理がついたら、執務室で話を聞かせておくれ」
アンドレは、そう言って部屋を出て行った。
さて、何から話すべきか。
心を決める時が来た。
隠したところで、所詮ジャメルには筒抜けなのだ。
「もしかして、レナ様に何かあったのかも」
カーラの言葉に、使用人達の間に重い空気が流れた。
先日から、良くない事ばかりだ。
国王の母ルイーズ様の母国で、君主であった王女が居なくなり、ルイーズ様が急ぎ旅の支度をして旅立たれたばかりだ。
「御高齢ですからね、ルイーズ様に何かあったのかもしれない」
様々な憶測を呼んだ。
しかし、使用人達にもたらされたのは、吉報だった。
「レナ様が、お元気になられた!」
この報告に、一番喜んだのはカーラだった。
長く病気で部屋からお出にならず、エリザ以外は部屋にすら近付くことを禁止されていたのだ。
エリザがルイーズと共に旅に出る時、カーラは思い切って名乗り出た。
「あの、私まだ新人ですけど、レナ様のお世話をさせて頂きたいです。お年も同じですし……」
「ありがとうカーラ。でも同じ年だからこそ、病気がうつる事もあるのよ。その気持ち、レナ様にお伝えしておくわね」
「でも、エリザ様が旅立たれた後、どなたがレナ様のお世話をするのでしょう」
「兄のジャメルが行いますよ。大丈夫、心配しなくて良いのよ」
エリザには、カーラの純粋な気持ちが伝わってきた。
良い新人が育ったわ。
カーラがレナの支えになってくれれば、エリザは願った。
レナ回復の報告後直ぐ、カーラはレナの部屋の掃除を言いつけられ、誇らしかった。
レナ様もエリザ様も、私を信頼してくださっているのね。
「失礼いたします。お掃除に参りました」
カーラが部屋に入ると、青い顔をしたレナが待ち構えていた。
「カーラ! 会いたかったわ!」
「レナ様、お元気になられて、私も嬉しいです。でも、まだお顔の色が優れませんわ」
レナは、本当にカーラに会いたかったのだ。
カーラは、友達ではない。
しかし、同じ年頃の女の子として話せる唯一の相手なのだ。
本当ならエヴァと話したかった。
でも、レナがエヴァの側にいるとエヴァを傷付けてしまう。
それに、カーラならエヴァの様子も教えて貰う事も可能だ。
「そうね、まだ完全に元気、と言う訳ではないのかも」
「ゆっくりと元気になって下さい。窓を開けますが、よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カーラが、窓を開けようと一番大きな出窓に近付いた。
「あら……」
カーラが、出窓に積まれた古めかしい本を見付けた。
「レナ様、この御本はどちらに置けばよろしいですか?」
そんな所に本を置いた覚えは、レナには無かった。
「どんな本かしら」
出窓に近付いたレナは、息を呑んだ。
あの本だ。
ムートル国宮殿の地下牢の引き出しから消えた、あの本と日記だ。
一体誰が、ここに?
「机の上に移動させてよろしいですか?」
「ええ……」
カーラが、よいしょ、と本を持ち上げた。
「随分と沢山の本ですのね」
こんな沢山の本を、一瞬で消し去り、ここへ移動させるだなんて……。
また、消えてしまうかもしれない。
レナは一番古そうな本を手に取った。
木で出来た分厚い表紙を開けると、カーラが開けた出窓から吹き込んだ風で、ページがめくれた。
それは、まるで誰かの手によってめくられたかのようだった。
『この歴史書は、持つべき者の手元に収まる』
私が、持つべき者、と言う事なの?
レナは、リンダの日記を手に取った。
地下牢では気が付かなかったが、日記の裏を見ると弱々しい字で何か書かれてあった。
『歴史書とこの日記は、引き出しに入れ鍵をかけます。歴史書は、ハンスかアミラの子供の元へいつか必ず行くでしょう。カリナ様には絶対渡らぬよう……』
この本と日記は、リンダがこれらに込めた魔力で、ここまで来たのだ。
ハンスの側にはカリナが居たため、本がレナを選んだのだ。
喜ぶべきか、悲しむべきか。
レナはまだコサムドラの歴史ですら完璧ではない。
でも、もしかしたら、ここに何かハンスを救うヒントがあるかも知れない。
「さて、家出娘が何の話があるのでしょう」
「家出なんじゃないわよ」
レナは、すっかり臨戦態勢だ。
先程から、ジャメルの嫌味攻撃に晒されているのだ。
頼みのアンドレは急な会議で、執務室には居ない。
「親の許可も得ず、家を飛び出し、恋人と時を過ごすなど、家出娘以外なにものでもないでしょう」
だめだ、絶えられない。
どうしてジャメルは、意地悪ばかり言うのだろう。
「お父様もいらっしゃらない事だし、私、部屋に戻ります」
とうとう根をあげて部屋に戻った。
ジャメルには、レナの複雑な気持が理解できた。
エヴァとの確執も、叶わない恋の苦しさも。
もし、あの時、アミラがアンドレではなく自分を選んでいたら、どうなっていたのだろう。
レナの父がアンドレではなく、自分だったら。
アミラは、アンドレの妻となるべくこの国へ嫁いできたのだから、そんな事を考えるのは不毛だ。
未だに、アミラへの思いを断ち切れていない自分にジャメルは驚いていた。
いや、気持ちは昔に整理できている。
ただ、アンドレが余りにレナの複雑な気持に気付かない事に、苛立ちを覚えていた。
しかし、それは仕方がないのだ。
アンドレは、魔人ではないのだから。
「ジャメル、ちょっと部屋に来てよ」
仏頂面のレナが執務室に戻ってきた。
「これは……」
ジャメルも、まだ村にいた頃、噂には聞いた事があった。
「私一人では、どうして良いか分からなくて」
「しかし、これは戦の時に燃えてしまったのでは……」
国の成り立ちから、今日までの歴史が書かれた魔人皇族家に伝わる歴史書。
「そうなの?」
「手に取っても?」
「もちろん」
ジャメルは、本を広げた。
「何も書いておりませんね」
ジャメルの目には、何も書かれていないページが、続くだけだった。
「そんなはずないわよ。ジャメル、あなた目、大丈夫? ほら、ちゃんと字が書いてあるわ」
ジャメルには、思い当たる節があった。
「これらの本は、本を持つべき者にしか読めないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます