第30話 暴動 若い王の実力
「お父様は?」
城へ着いたレナは、真っ先に父アンドレの元へ向かった。
アンドレは執務室に居た。
「お父様、今ムートル国より戻りました」
「ご苦労様だったね。ムートル国の事聞いたかい」
「はい」
レナはアンドレの執務机の前に座った。
「どうなんでしょう、ブルーノ王はご無事なんでしょうか」
「最初の早馬ではご無事との事だったが、今ジャメルが情報収集にあたっている」
「私に何か出来る事は……」
「ドミニク王子は?」
「まだ、何も伝えてませんが、耳に入るのも時間の問題かも知れません」
城の中のメイド達も、ヒソヒソと隣国の非常事態について話している。
「レナは、ドミニク王子のそばに居てあげなさい」
「はい」
「暫く忙しくなるだろうから、食事は一緒にできそうも無いが、必ず直ぐに落ち着くから、心配することはないよ」
「分かりました。お父様も、ご無理なさらないように」
「ありがとう、レナ」
レナと入れ違いで、役人が執務室に飛び込んできた。
「ブルーノ王から、弟王様へお手紙が届いております」
アンドレがレナを見た。
「私がアンドレ王子にお届けします」
「頼めるかな」
「はい」
レナは、アンドレ王子のいる部屋に急いだ。
「宮殿に帰る!」
部屋の外からでも聞こえる声だった。
「王子、落ち着いて。そんな急には戻れませんよ」
ドミニク老人の妻グリッドが、なだめる声も聞こえてきた。
レナはドアをノックして入っていった。
この部屋は、ドミニク老人と妻グリッドの住まいでもある。
「ああ、レナ姫様。ドミニク王子が……」
ドミニク王子は、広げたばかりの荷物を、再びバッグに詰めようと躍起になっていた。
「ドミニク……」
レナが、ドミニク王子の肩にそっと触れた。
振り返ったドミニク王子は、レナの顔を見た瞬間ポロポロ目から涙をこぼした。
「レナ、どうしよう。兄さんが」
「うん、分かってる」
レナはドミニク王子が落ちつくまで待った。
「今すぐ帰る」
「今帰るのは危険よ。きっと、ブルーノ王はドミニクが『帰る!』って騒ぐのが分かってらしたのね」
と、手紙をドミニク王子に手渡した。
「さっき、早馬で届いたのよ」
『ドミニクへ
国の事は聞いたと思う。
私は大丈夫だから、しっかりと勉強しなさい。
また手紙書きます。
ドミニクも兄さんに、手紙を書いてください。
ブルーノ』
「お返事、書かなくて良いの?」
「書く!」
ドミニク王子は、自分用に用意された机に座った。
グリッドが嬉しそうに、引き出しから紙と便箋とペンを出し、ドミニク王子に渡した。
「ありがとう」
と、書き始めようとするが、手が止まってしまった。
「どうかしたの、ドミニク」
レナが、ドミニクの隣に椅子を持って行き座った。
「お茶を入れてきましょうね」
グリッドが部屋を出た。
グリッドが出て行くのを確認したドミニク王子は、レナに囁いた。
「ねぇ、グリッドさんに言わないでくれる?」
「うん?」
「手紙って、どうやって書くの?」
そうだった、ドミニク王子は5歳から5年間、何の教育も受けていないのだ。
「そうね、お兄様宛だし、難しく考えないで、今お兄様に伝えたい事を書けば良いのよ」
「伝えたい事……」
ドミニク王子が、頭を抱えてしまった。
これは長くなりそうだ、レナはたどたどしい字を書くドミニク王子を見て覚悟した。
「で、手紙は書けたのですか?」
情報収集をしていたジャメルの手伝いをしていたエリザが戻ってきたのは、夜遅くなってからだった。
「書き始めたのが11時頃で、書き終わったのは夕方の4時だったわ」
「その間ずっと隣に?」
「お父様と約束したの、ドミニクのそばに居てあげるって」
「そうでしたか」
「で、どうなの、ムートル国は」
「まだ宮殿の中は落ち着いていないようです。どうやら魔人が係わっているようで……」
自分も魔人で、レナも魔人である。
エリザは少し言葉を濁した。
「ギード?」
「まだ分かりません」
「あの国では、魔力を持たない素行の良くない人の事も魔人って言うみたいよ」
「そうなんですか?」
「ドミニクがそう言ってたわ」
「兄に報告してきます」
直ぐにエリザがジャメルを連れて戻ってきた。
「お帰りなさいませ、姫君」
「ただいま」
「早速ですが…」
「ムートル国の魔人の事ね」
「はい、お聞かせいただけますか」
「お役に立てるなら」
「勿論」
ジャメルの話からすると、どうやらブルーノ王が公務に戻った事を良く思わない宮殿内の役人の一部が、『魔人』を使って宮殿に押しかけ使用人に暴行したと言う事だった。
王は、執務室に居て無事だったが、一時は執務室の前まで『魔人』がやってきたようだ。
夕方だった。
両親の死後、役人達にまかせっきりだった公務を取り戻すのは、簡単ではなさそうだ。
面会を求め来たにも係わらず、願い叶わず帰国した各国の要人達は多い。
もし、レナが怒鳴り込んでくれなかったら、どうなっていたのだろう。
お詫びに、こちらから訪問せねば関係を悪くしてしまうかもしれない。
そんな事に思いを馳せている時だった。
若い使用人の一人がノックもせず執務室に飛び込んできて、中から鍵をかけた。
「一体、どうしたんだ」
「魔人が!」
扉の向こうから、戦う使用人の声や、メイドの悲鳴が聞こえる。
「そこを、どきなさい」
ブルーノは、外に出て戦わねばと思った。
「だめです!」
ブルーノを守ろうとする使用人は、扉の前から動こうとしない。
「命令だ、そこを開けなさい」
「そ、それでは、何か武器をお持ちください」
ブルーノは、執務室に飾られている剣を手に取り使用人にも渡した。
「お前も戦うのだ。行こう」
扉が開いた。
戦う兵や使用人、逃げ惑うメイドの耳に声が届いた。
「私が国王ブルーノだ。私に用があるなら無礼な事をせず、ここへ来い!」
次々と『魔人』達が声の方へ向かい始めた。
「脳無し国王死ね!!!!」
次々と襲ってくる『魔人』達を、いとも簡単に剣で倒すブルーノと使用人。
そんな国王の姿に、兵や使用人の士気も上がった。
「国王様に続け!」
「宮殿を守れ!」
「メイド達は部屋へ隠れて中から鍵をしろ!」
ブルーノは、使用人と共に戦った。
「なかなかの腕だな。名前は?」
「ゲルトと申します。仕事は執務室の剣を研くことです」
「よく研けているよ、ゲルト」
「国王様も、素晴らしい剣さばきです!」
「ありがとう」
二人は執務室の前まで襲ってきていた『魔人』達を押し戻し、宮殿の外までやって来た。
「後はお任せください、国王!」
外では多くの兵が待ち構えており『魔人』達が逃げ出し始めた。
「宮殿内を捜索! 一人残らず捉えろ! 首謀者を暴くんだ。ゲルト、ついて来い!」
宮殿に戻る国王の後をゲルトが追った。
執務室に戻る廊下には、戦いの後が生々しく残っていた。
「これを片付けるのは、時間が掛かりそうだな、ゲルト」
「ドミニク様達が、隣国に入られた後でよかったです」
「そうだな」
執務室に戻り、剣をゲルトに渡した。
「また研いていてくれ、いつこんな事が起きるか分からない」
「はい」
「後、早馬を呼んでくれ。ドミニクに手紙を書こう。きっと、帰ると大騒ぎするだろうから」
ゲルトは剣から血を拭い、飾り棚に戻すと早馬を呼びに出て行った。
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