第23話 披露目 上に居る親友と下に居る親友
とうとう、今日がきてしまった。
エヴァは、自室のベッドで眠れないまま朝を迎えた。
決まったと思ったクレマン家でのメイド職は、主ドナルドの逮捕によって取り消された。
今、クレマン家存続すら危ぶまれている。
そんな状況で、新しいメイドを雇うなど、ありえない話だ。
そして今日は親友、いや元親友レナの披露目の日だ。
まだ見ぬ姫について、色々な噂が飛び交い人々は浮き足立ち、国中が祭りのような騒ぎになった。
大雨が降って、嵐になれば良いのに、エヴァの願いは空しく突き抜けるような青空だ。
まだ、両親は起きていないようだ。
早起きして、披露目の為に開放される城の庭園に行くのだと張り切っていた。
まさか現れるのが、あのレナだとは夢にも思っていないだろう。
同じくレナも眠れない朝を迎えた。
部屋には、母アミラと祖母ルイーズの二人の思いが詰まったドレスが用意されている。
後数時間で城の庭園は開放され、レナを一目見ようと国民が集まってくる。
中には、良からぬ事を企んで来る者も居る。
怖がることは無い、いざとなれば魔力だってある。
でも、自分がそう言う存在になってしまった事が一番怖いのかもしれない。
「お目覚めですか」
めったに笑わないエリザが、微笑みながら入ってきた。
レナの不安な思いに気が付いたのだろう。
「エリザが微笑んでる事自体が不安よ」
「あら、気を使いましたのに」
と、いつもの無表情に戻った。
「うん、その方が安心する。でも、眉間のシワは気をつけたほうが良いわ、老けて見える」
「それは、それは、ご指摘恐縮です」
エリザが何時もと同じように、朝の準備を始めた。
城の中で一番大きなバルコニー。
そこにレナとアンドレ、そしてルイーズが出てくる。
そこを守る兵。
次々と押し寄せる国民。
その中に、国民に扮したジャメルとエリザの姿があった。
国民の中には、魔力を隠した魔人が居るのだ。
その魔人達がレナや国王、更には国民に何か仕掛ける可能性がある。
それを防ぐ事、そして、その魔人達にレナが魔人である事を悟られてはならない。
「分かってるわよ、何があっても魔力を使ってはいけない、でしょ」
朝から口をすっぱく注意をしたので、レナは拗ねてしまった。
それにしても、子供と言うのはたった一年でこれ程成長するものなのか。
ジャメルはレナがすっかり大人っぽくなった事に心底驚いた。
「ドレスがそう見せるのでしょ」
妹のエリザは、朝から不機嫌だった。
「何だか不機嫌だな」
「別に、いつもどうりです」
エリザはプイっと背中を向けて、行ってしまった。
早く着たのにお目当てのバルコニーからは随分遠い場所になってしまった。
「何だか随分遠いのね」
「そうだな」
両親は不満げだ。
もしレナが、ここに居る私を見たらどう思うんだろう。
でも、このくらいで良かった。
この距離なら、レナも私に気が付かないだろう。
「エヴァ、見て! 開いたわ!」
近くに居た母が叫んだ。
バルコニーの扉がメイドの手で開かれた。
庭園にどよめきが起きる。
国王アンドレが、右腕をルイーズ、左腕をレナと組んで登場した。
どよめきが歓声に代わった。
『コサムドラ王国万歳!』
『国王アンドレ様万歳!』
『ルイーズ様万歳!』
『レナ姫様万歳!』
身体の芯まで響くような観衆の声にエヴァは恐怖さえ感じた。
バルコニーのレナは、豪華なドレスを着て笑顔で手を振っている。
突然、心に空しさ惨めさ嫉妬怒りが同時に押し寄せ、そこに居る事が出来なくなったエヴァは、群集から離れた。
皆、バルコニーの人々に夢中でエヴァになど見向きもしない。
「君がエヴァ・ジラール?」
「え?」
一瞬、女の子に見間違える程、美しい青年が話しかけてきた。
「お祖母様、お夕食くらい一緒に頂きましょうよ」
古城へ帰ると言うルイーズを、レナは引きとめようとした。
「ベルが待ってるからね」
「もう、ここで皆一緒に暮らせば良いじゃない」
祖母の罪は、十三年間あの古城で自ら鉄の鎖に繋がれて暮らしたことで、償われているのではないのか。
レナは何度も父に掛け合ったが、祖母が自ら決めた事ゆえどうする事も出来ないと言われてしまった。
「城はね、人が住まなくなると、ますます痛んでくるんだよ」
ルイーズはそう言って、古城へ帰っていった。
父アンドレと二人っきりの食卓で、レナは少し寂しかった。
「いつもと同じなのに、どうして寂しいと思うのかしら」
何だか食欲まで落ちてしまっているレナを、アンドレは笑った。
「それはきっと昼間の騒ぎとの差に、心が付いていけてないんだろうね」
「お父様も、同じ気分?」
「昔はね」
「そう……」
「でも、レナ。きちんと食べないと作ってくれた人と食材に失礼だよ」
フォークで鶏肉をつついていたレナを、アンドレがたしなめた。
「そうよね」
気持ちを入れ替えて食べ始めてみると、とても美味しい。
「マ……お母様も、同じ事言ってたわ」
「え?」
「食材に失礼だって」
「そうだろうね。私もアミラに言われたから」
父と娘は顔を見合わせて、微笑みあった。
自室に戻ったレナは、エヴァに手紙を書こうとした。
しかし、どう書き出せば良いのか分からなかった。
そもそも、何を書いて良いのかすら分からない。
「ねぇエリザ」
レナのベッドの準備していたエリザが、手を止めた。
「何でございますか?」
「私エヴァに手紙を書こうと思ったんだけど、何を書けば良いのか分からないの」
「伝えたい事が無い、と言う事なのでは」
「あるの、いっぱいあるの。でも、それはエヴァにとってどうなんだろう、と思って」
「難しい問題ですね」
「エヴァがどう思おうと、私の親友だもの」
「いつか伝わると良いですね」
「うん」
「ご挨拶の旅の間に、ゆっくりと考えればいつか手紙が書けますよ」
エリザが、レナに優しく微笑む。
しかし、レナは朝のようにエリザの笑顔には興味を持たなかった。
それどころでは無い。
今、聞きなれない言葉が耳に飛び込んできたのだ。
「ゴアイサツノタビ?」
「あら、お聞きになってませんか?」
「始めて聞いた!」
「あら、ベル様がお伝えしているものとばかり……」
「すっごく嫌な予感がするんだけど、それは何」
「近隣諸国にご挨拶に行くだけですよ」
「だけって……」
レナは、エリザが整えたばかりのベッドに、倒れこんだ。
「いつから?」
「まだ、はっきりとは決まっておりませんけどね。相手のご都合もございますし」
「まさか一人で行け、何て言わないわよね」
「場合によっては」
レナはがっくりとベッドに沈んだ。
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