第3話 制約

 家に帰った俺はベッドで仰向けになっていた。



 名前:イルフェース

 Lv:1

 職業:【死神】

 ランク:なし(未登録)

 信頼:なし(未登録)

 番号:なし(未登録)



 死神······か。


 自分のステータス画面を見る俺はあの彼のスキルを受けたものの、また気が沈みつつあった。


 身体は生きた人間なのに、死神というのは変な気分だった。いや、あくまで神から与えられただけの職業なのだから、謂(い)わば、そういったものが向いてるというだけの、御墨付きに過ぎないのかもしれないのだろうが。


 とはいえ、気になったことがあった。


「そもそも死神が働く場所って、あるのか?」


 いや、働く場所はあるだろう。屠畜場や傭兵。協会に来る依頼など命を刈り取る現場は沢山ある。――が、


「どれもネックがあるんだよな······」


 俺はステータス画面を切り替える。



 制約:一日一人の命を奪わなくてはならない。



 にわかに信じがたかったが、どうやら神の制約というのは絶対らしい。チュートリアルに書いてあったが、膨大な力を得るための代償に生じるものなんだとか。


 だが、俺がそのチュートリアルで見たものや噂程度に聞いたことがあるのでは『毎日、剣の素振りをしなければ身体がだるさを覚える』とか『毎日、調合した薬を飲まなければ味覚が衰えていく』など、そんないい加減なものばかりだったはずだ。


 それに比べると······俺の代償はあまりに大きすぎる。


 命が減るなんて。


 しかもそれを回避するためには毎日、人を殺さなくてはならない。ひどい制約だ。


 だがしかし、そうなると自ずと自分の進む未来も見えそうだった。


「人を殺すのに抵抗がないわけじゃないけど、俺が死ぬのはやっぱ嫌だしな······。となると、やっぱ人を殺すのが許される国家の職――“執行人“あたりが無難か」


 この国にも罪人は絶え間なく現れる。

 窃盗から暴行、強姦から殺人まで。


 実は俺が【死神】という職を受けたように、当然、違法なことが向く職を与えられる者もいる。例を挙げるなら【暗殺者】とか【狙撃手(スナイパー)】とか、そういったものだ。


 しかし念押ししておくが、勿論、それを与えられたからと言ってそれだけでは罪にはならない。罪は罪。人は人なのだ。でなければ、あの【天上の間】を出た時点で俺は捕まっているはずだ。職を確かめることが出来る職によって、危険因子として。まぁ、そんな職があるのかは不明だが。


 ともあれ、そういった人類の選別もアリだろうが、神がしたことはあくまで力を与えただけ。それが信仰の教えだ。昔読んだ教典にも書いてあった。人が罪を起こす、のだと。


 まぁ、そんな話はさておき、俺の進む道は決まった。

 やはり“執行人“。正しく述べるなら死刑執行人。


 それなら、“殺し“も正当化される。

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