後日談(6) アダムを追いかけてきた『雷神魔王の元副官』「2」。


 後日談(6) アダムを追いかけてきた『雷神魔王の元副官』「2」。


 六大魔王の副官だけあって、

 ダクラは相当な実力者。

 存在値は400を超えている。

 普通に魔王級の実力者。


 だから、当然、


「ぐはぁああああああああっっ!!」


 ダクラの攻撃を受けたセンは、白目をむいて血を吐いた。


「ぶ……ぶへっ……」


 センは、血を吐き捨て、

 ソデで鼻血をぬぐいながら、


「ぐ……ふっ……てめぇ、なかなか強いじゃねぇか……いまのは痛かった。……痛かったぞぉお!」


 そう叫びながら、

 ダクラの腹部にパンチをぶちこむセン。


 セン的には全力の一撃だったのだが、

 ダクラは、ピクリともしなかった。


「? どういうことだ……貴様の、その弱さ……それだけ弱いのに……なぜ、先ほどは、私の一撃に耐(た)えることができた……? さっき、私は、貴様を本気で殺す気で殴ったのに、なぜ、貴様は、まだ普通に生きている」


 混乱しているようだった。

 センが弱すぎることと、

 センが死んでいないこと、


 その二つの大きな問題が、ダクラの頭をみだす。


「もしかして、一撃死を回避するスペシャルでももっているのか? ……ならば……」


 そうつぶやくと、

 ダクラは、センに連撃をたたきこむ。


「ぐへ、がは、ごへ、げはぁああ!」


 ボッコボコにされるセン。


 無数の攻撃を受けていながら、

 しかし、まったく死なないセンを見て、

 ダクラは、


「……ま、まさか……不死身……なのか?」


「げほっ……あ、ああ……その通り。俺は不死身なんだ。すげぇだろ。サインやろうか?」


 と、軽くチョケていくセンに対し、

 ダクラは、イライラを加速させて、


「なめるなよぉお!」


 と、両手に魔力をこめていく。


 とにかく、センを殺そうと必死になっている。

 その時だった。


 ダクラの懐(ふところ)から、

 『闇っぽいエネルギー』がグツグツと湧(わ)き出てきた。



「ん?」



 と、センが不審(ふしん)に思ったと同時、

 ダクラも、


「ん?! なっ――」


 その闇に気づいた時にはもう遅かった。

 その黒いエネルギーは、

 ダクラの体を包み込んでいく。


「ぐっ……な、なんでだ……っ……まだ、『転移の魔法』を『一度しか使っていない』のに……ど、どうして、もう壊れる……」



「え、どういうこと……?」


 と、センが疑問に思っていると、

 アダムが、ボソっと、


「おそらく、『雷神が保有していた国宝の一つ』である『願い玉』を使ったのでしょう」


 雷神の城に眠っていた秘宝『願い玉』は、

 どんな願いでも叶う可能性があるが、

 叶えた願いが大きければ大きいほど壊れやすくなり、

 願い玉が壊れたら、使用者は闇に包まれてしまう。


「ストーキング対象である私を見失ったダクラは、雷神の城に眠っていた『願い玉』をつかって、ここまで転移してきたのではないかと推測(すいそく)します。……ただの転移であれば、『願い玉』は壊れなかったでしょうが……ここは女神の居城(きょじょう)。『強い結界』が張ってあります。ここまで転移するという願いは、『龍の女神の結界を突破する』という願いに変換され……結果、その大きすぎる願いを叶えた代償として、ああして、闇に包まれてしまったかと」


「丁寧に解説してくれてありがとう。で、その闇に包まれるとどうなるの?」


「――『壊れたモンスター』になります」


 壊れたモンスターは、

 文字通り、完全に壊れてしまった化け物のこと。

 知性も理性も失って、ただ暴れまわるだけの迷惑な暴走機関車になる。



「グギャガグヤギャギャ!!」



 闇に包まれて壊れたモンスターとなったダクラは、

 その全身に『ほとばしるような闇のオーラ』と『ゆがんだ魔力』を充満させて、

 意味のない暴走をはじめる。


 それを見て、最初に対応を開始したのはアダム。

 センの盾をするように立ちふさがるアダムに、

 ダクラが、全力の拳を叩き込む。


 メキリと、アダムの骨と肉が軋(きし)む音が響いた。


 けっこうなダメージを受けているが、

 ひるまず、カウンターを決めていくアダム。


 アダムの攻撃も相当な火力をほこっているが、

 『壊れたダクラ』には通じていなかった。


 『壊れたモンスター化』は『絶死のアリア・ギアス』に匹敵(ひってき)する強化を得る。


 ゆえに、あっさりと吹っ飛ばされるアダム。


 その様子を見ていたセンが、


「アダム、もういいから、下がってろ」


 そう声をかけると、アダムは、


「い、いえ! まだ、やれますっ!」


 センほどではないが、

 彼女もなかなかの根性とプライドの持ち主。


 だから、意固地になって、闘いを続行しようとする。

 そんな彼女に、

 センは、キレた声で、


「命令だ! 下がれぇええ!」


 センが『本気で命令』すると、

 アダムも、それ以上、反論することができず、


「……はっ……か、かしこまりましたっ!」


 そう言って、ダクラから距離をとる。


 ほかの女性陣も全員さがらせたセンは、


「セイバー、お前の力、借りるぞ」


 そうつぶやいた直後、

 センの手の中に、

 『聖なる死神の邪悪な聖剣』が召喚される。



 セイバーの力を借りて、ダクラと向き合うセン。

 壊れたダクラは、なかなかの力をもっているが、

 さすがに、セイバーセンの相手はできなかった。


 センは、ダクラを適当にあしらいつつ、


「……セイバー、こいつの修理とかできるか? 俺、こいつのこと好きじゃねぇけど、別に『恨んでいる』とかじゃねぇから、殺すのはダルいんだよ。なにより、俺は、さっさと出かけたいんだ。だから、どうにかしてくれない? ムリそうなら、俺が頑張るけど」


 と、自分の中にいるセイバーリッチに声をかける。


「別にムリじゃないが、『願い玉』の処理は、けっこうダルいな……あの神器はけっこう、異端(いたん)で、『絶死のアリア・ギアス』を凝縮(ぎょうしゅく)させた、みたいな感じのアレだから――」


「なに言っているか分かんねぇし、理解する気もねぇ。とにかく、どうにかできるのか、どうなのか、それだけハッキリしてくれ」


「んー、まあ、とりあえず、やってみるか。体、貸して」


「あいよ」


 主導権を切り替えて、セイバーが中心になると、

 すぐさま、セイバーは、ダクラに両手を向けて、


「――『EZZパニッシャー』――」


 『封印系』の魔法を使う。


 体を拘束されたダクラは、ピクリとも動かなくなった。


 それを見たセイバーの中にいる『セン』が、


「え、これ、死んでる? 呼吸してないよね?」


「完全封印しただけ。封印系の魔法は抵抗されやすいけど、さすがに、俺の魔法を、この程度のカスがレジストするのは不可能」


 そう言いながら、セイバーは、

 ダクラの体に手をあてる。


 そのまま、セイバーは、自分の中にいるセンに、


「セン。今から、こいつの記憶を読み取るから、こいつを修理するかどうかは、それから決めろよ。もし、悪人だったら、お前の手で殺せ。極悪人を断罪するのも、英雄としての仕事だ。いずれは、お前も、誰かを殺すことになるだろう。その時の訓練を今積んでおくことは悪いことじゃない」


「……」


 センは、一瞬だけ、迷ったが、


「ナメんじゃねぇぞ。どうしようもねぇ極悪人だったら、もちろん迷わず殺すさ」


「あのユズとかいうクソ女のことは、結局、殺さず、投獄するだけにとどめたじゃねぇか」


「お前の力があれば、どうとでも出来るサコだからな。状況が違えば対応も変わる。当たり前の話だろ」


「屁理屈ばっかりこねやがって……まあ、別にいいけどよぉ」


 そう言ってから、セイバーは、


「――『記憶盗視(きおくとうし)ランク30』――」


 そのまま、ダクラの記憶を盗み見る。


 その結果、センは、ダクラが『何をしたかったのか』を知った。

 ダクラが何を思い、どういう経緯で、アダムを追いかけていたのか、

 そのすべてを理解したセンは、セイバーに、


「……で、どうすれば、修理できる?」


 と、そうたずねた。


「……『願い玉』の呪いを消すことはできない。だが、別の器にうつすことは可能」


「別の器って、たとえば?」


「お前の『絶対的主人公補正』とか」


「なんだか、よくわからんが……ちなみに、それのデメリットは?」


「お前の『絶対的主人公補正』に闇が混じる。お前が死んだ時、『絶対的主人公補正』は、お前を喰(く)らい尽くし、お前を壊れたモンスターにするだろう」


「やべぇな、それ。普通に嫌なんですけど」


「だろうな。俺だって、壊れたモンスターになるのだけはゴメンだ。……あ、あと、それだけじゃなく、これまで以上に、『死ぬほどのダメージを受けた際の、メンタルにかかる負荷(ふか)の量』が増す。ザッと10倍ぐらいになる感じかな」


 ただでさえ、『車酔いの100倍』ぐらいのしんどさなのに、

 その10倍に跳ね上がるという。


 想像するだけで、

 センは吐きそうだった。


「それで、セン……どうする?」


 セイバーに問われたセンは、


「……」


 数秒考えてから、


「……俺が壊れたモンスターになったその時は……セイバー、お前が俺を殺してくれ」


 覚悟を決めた顔で、そう言った。


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