ただ柔らかに降り注ぎ、この世の全てを包み込む。

 ただ柔らかに降り注ぎ、この世の全てを包み込む。


「最果てに至った俺に待っていたのは『どうやったら終われるのか』と死に方に悩む不毛な日々だった。……虚しい話じゃないか。かつては『多くを成してきた気になっていた時期』が俺にもあった……が、フタをあけてみれば、俺はカラッポだった」


「究極の剛魔ゾメガ・オルゴレアム陛下であれば、私など、一瞬で消し炭にできる。私を一瞬で殺すこともできんくせに、最強を名乗るなど、片腹痛いわ」


 そこで、バンプティは『ゾメガと会話した日の事』を思い出す。

 100年ほど前の聖誕祭でのこと。


 本来、十席が三至と対話できるチャンスなどありえないのだが、

 奇跡のような偶然が重なった結果、バンプティは、

 ほんの数秒だけだったが、ゾメガと言葉をかわすことができた。


 拝謁がかなったあの日、

 テンパったバンプティは、ゾメガに、

 『どうして、それほどまで強いのか』と、

 幼子のような質問を投げかけた。


 すると、ゾメガは薄く笑って、


『疑問を抱かせている時点で、余はさほど強くない』


『い、いえ、決して疑問などでは! 私はただ、ゾメガ様が、それほどの果てに至った軌跡について、少しでもご教授願えればと思った次第で――』


『おなじことよ。本物の強さを前にすれば、わずかな疑問すら抱いている余裕はない。輝きの前に立った命は、感謝の渦に飲み込まれるしかない。心の奥底から湧き上がる想いに溺れるしかないのだ。真なる最強……この上なく尊き師の輝きは、ほんのわずかな疑念の余地すら与えない。ただ柔らかに降り注ぎ、この世の全てを包み込む』


 少しばかり抽象的が過ぎて、

 バンプティでは『真意の理解』に届かなかったが、

 しかし、それでも、

 ゾメガが伝えたかった『高み』を感じることくらいはできた。


 バンプティは、一度呼吸を整えてから、

 カドヒトに対し、


「最強とは尊いのだ……ゼノリカの器……全てを包み込む光……真なる、命の最果て」


「違うね。最強なんて、単なる『味のないガム』だ。どこまでも哀れで無味無臭な、愚かさの集合体。泥臭くてたまらないだけの、目を覆いたくなるような『穢れ』の詰め合わせでしかない」


「最初からずっとそうじゃが……貴様の『主に対する侮辱』は聞くにたえんな……」


「真実を口にしているからな。大概の場合、現実ってのは、情け容赦なく胸をえぐるもの。ごまかしのきかない剥き出しの言葉に、耳触りの良さを求めちゃいけねぇ」


「いったい、なぜ、そこまでかたくななのか! 主は世界を救ってくださったのじゃぞ! 理解ができん! 必死になって、貴様の想いを理解しようとしてみたが、さっぱり、何もわからん!」


 バンプティは、心底からブチ切れている顔で、


「聖典を読んだことがあるなら、分かるはずじゃ! 主がどれだけの地獄と向き合い、そして乗り越えたのか! 仮に、聖典における主の表現が『過剰に美化されていたもの』じゃとしても『主が絶望を乗り越えて世界を救ってくださった』という結果に嘘はない! それは、今のこの現実と、多くの人々の想いが証明している! ゼノリカという高潔な概念の器になってくださった主に、なぜ、ほんのわずかな敬意すら抱けない! 理解ができん!!」


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