第17話『知井子の悩み・7』
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな・17
『知井子の悩み・7』
やがて、選考会場であるHIKARIシアターに全員が集められた。
会場は、いかにもプロダクションのスタッフと思われる人で一杯だった。偉そうなおじさんが、マイクを持って舞台に現れた。
「簡単に、注意事項を言っておきます。携帯やスマホは持ち込み禁止。持ってる人がいたら直ぐに控え室のロッカーに入れにいくこと(むろん、そんな子は居なかったけど、何人かが、自分のポケットを確認した)全員の選考が終わるまでは、ここを出られません。選考委員はこの会場のどこかにいますが、君たちには内緒です。ここにいる関係者全てを選考委員、いや、観客のつもりでやってください……」
マユは感じた。スタッフのみんなが、審査用のファイルを持っているが、大半はサクラ。五人が本物だと分かった。黒羽さんはメガネにキャップ、腰にはがち袋を下げて道具のスタッフに化けていた。
そして、驚いたことに選考委員長は、あの会場整理のしょぼくれたオジサンだった!
「それから、もう一点。二次選考で、演技中に怪我をする人が四人もいました。気合いが入ることは結構だけども、くれぐれも怪我のないように注意するよう」
選考される子たちから、密かなどよめきが起こった。半分以上の子が、その事故を目にしているようだ。
「知井子、あがり性だから気を付けないと」
「う、うん……ケホン」
もう、あがっている。
一番の子が舞台に上がったとき、急に照明と、音響が落ちた。スタッフが慌てて駆け回る。
マユが、魔法で、照明と音響の電源を落としたのだ。
照明と音響のチーフが、お手上げのサイン。
「ちょっとトラブルのようなので、しばらく、そのまま……いや、控え室で待機して。復旧しだい再開します」
偉そうなおじさんが、本来の小心さに戻ってうろたえている。
マユは意地悪でやったのではない。邪悪な気配を感じて電源を落としたのである。
控え室に向かう集団の一人に、マユは静かに声をかけた。
「浅野さん、ちょっと」
声をかけられた子は、少しびっくりした。胸には受験番号のワッペンしか付いていないからである。
「わたしに付いてきて」
マユは、前を向いたまま、唇を動かさずに言った。
「マユ、どこにいくのよさ?」
「ちょっと用足し。すぐに戻るから、控え室で待ってて」
知井子は、一人にされて不安そうだったが、大人しく控え室に向かった。
知井子には一人で、廊下を歩いていくマユしか見えていなかった……。
「さ、ここがいいわ」
マユが、ヒョイと指を動かすと、施錠された小会議室のドアが、ガチャリと開いた。
「どうやって……?」
浅野という子は、目を丸くして驚いた。
「さっさと入って、ドアを閉める」
浅野という子は、驚いた。部屋の椅子や机が勝手に動き、ちょうど二人が向き合って話しをするのに都合いい配置になったからで、むろんマユの魔法である。
「あ、あなたって……魔法少女だったりして?」
浅野という子は、洒落っぽく言うことで怯えを隠した。
「座って。わたしはマユ。でもって悪魔、小悪魔だけどね。だから、あなたのことが見えるの」
「あ、悪魔……」
「で、浅野さん。あなたは、もう死んでるのよ」
浅野という子の顔は、困惑に満ちてきた……。
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