第8話
【強制サバイバル生活:5日目】
ペルカと友情を深める会話をした夜、空には満点の星が輝いていた。
そして朝が来て、今。空には真っ黒な雲がかかり、そこからひっきりなしに落ちる雨粒が地面を強く叩きつけていた。
≪うーん。これは出かけられない≫
≪そうだな≫
ドドドドド、とうるさいほどの音が洞窟の外から聞こえてくる。
木の皿をありったけ外に並べたのもあって、反響する音が非常にやかましい。
でもこれで雨水を手軽に大量ゲットできるっていうならやらない手はないからね。
時たま溜まっている雨水を収納しながら、ペルカは木片に弓のようなものを突き立てて、ギリギリと何度も先端が尖った木を回転させている。
私がお願いしたことだ。
どうか今日中に火を点けてほしい、と。
アイテムボックスに入ったままの猪肉を焼肉に変えたいというのもそうだったが、他にも理由がある。
その思いで必死にやってもらっているが、中々上手くいかない。もう四時間くらい経過しているのに成果はない。そろそろ昼になりそうだ。
疲れてきたのか、ペルカが何度もぐるりと肩を回している。
うーん…………。
火って、こんなに人力で点けるのが難しかったのか。
ひょっとしたら今日の天気も関係しているのかもしれない。雨のせいで湿気がすごいから。
それでも一応入り口は空気穴以外は土壁で塞いで、洞窟の横穴みたいに広げた場所で作業しているから、少しはましなはずなんだけど。
それに、明日からまた素材採取が始まるから、今日はその隙間の貴重な時間だ。無駄にはしたくない。
木の棒を板にこすりつけるうちに、何度か煙は上がってるんだけど……。
≪……少し休憩する?≫
聞いてみるも、いや、と返される。
≪このまま、力加減を掴みかけたうちにやりきりたい≫
≪そっか≫
よくはわからないが、ペルカが掴んだものがあると言うなら止めたくはない。
そうして見守って、さらに作業を続けたペルカがどうにか小さな火をおこしたのは、すっかり昼を回りきった頃のことだった。
≪すごい、ペルカ! 偉い! よくやった!≫
さすがに肩の疲労がすごいらしく、洞窟の壁に寄りかかってぐったりしているペルカを褒めたたえる。
彼女の前では火種をたくさん投げ入れた火がきちんとした焚き火に育って、明々と燃え盛っている。
ようやく『火』が確保できたのだ。
アイテムボックス内にも燃えたままの火が収納してある。
そして錬金に使ってもみるも、思った通り消耗品ではなかったらしい。焼肉を作った後も火は減っていない。そもそも一個二個という表示もない。ゲームで言えば何度でも永久に使用可能、みたいな扱いなのだろう。
とにかくこれでようやく人心地ついた。
ペルカの体を焚き火に当てながらほっとする。
……口にはしていなかったけど、彼女の体が冷えているのは気づいていた。腕の鳥肌が見えていたからだ。
それはそうだろう。
基本、ここらの温度は日本で言う初夏に近い頃らしく、日中は過ごしやすいようだが、夜はかなり冷えていたようだ。夜中にペルカが休憩もせずに動き回っていたのはそれを誤魔化すためでもあったとふんでいる。
しかも今日は雨だ。
雨に打たれていなくても終始冷えた空気に当たっていては、いくらペルカが若くても風邪をひいてしまうだろう。
それもあって、焚き火はなんとしても今日のうちに作りたかった。
≪さ、火にあたって、ゆっくり温まって。休憩していいから≫
こんな雨だ。野生生物だって近づいてこようとはしないだろう。
ペルカはちょっと働きすぎだから、こういう日ぐらい休むべきそうするべき。
≪………………≫
だが、彼女はそれをよしとしなかったらしい。
確かに体は動かしていないが、背中を預けた土壁に掌をつけて、じりじりと削り取っている。洞窟を広げようとしているのだ。
うーん。こういうのもワーカーホリックと言うんだろうか。
でも身の安全に直結してることだしなあ……。状況を整えるまで安全に休めないと言われてしまえばそれまでだ。
なのでペルカの動きは見ないフリをして、せめてもとこちらでアイテムボックス内の整理と確認をしていく。
雨水は…………だいぶ溜まっている。錬金で飲める水にする必要はあるだろうが、これでしばらく晴れの日が続いても平気だろう。
…………いや。乾季が来たらやっぱりまずいな。
地球の常識が通用するかもわからない、知らない土地というのが致命的だ。どういう天気を辿るのかまったく予測がつかない。
なんとなく、だけど。周りの植物には実をつけた跡のあるものも多かったので、季節というものはあると思う。むしろ思いたい。あの邪神は地球に似てる星と言っていたし。
いやまあ邪神の言うことなんて信用できないのはそうなんだけど。
それでも。雨は降るし朝も夜もあるし、そういった自然法則は同じものだと思いたい。…………喋って空を飛ぶ馬はいるけれど。
あれは例外。うん。きっと例外。
生まれた場所であいつが現れた時、悲鳴が上がっていたから。普段は身近に現れるものじゃないんだろう。多分。
はあ。
…………この世界の常識、欲しいなあ。
雨のせいかアンニュイな気持ちになったこともあって、今日のところはあまり動かずのんびりすることにした。
休憩は大事だからね。
体はもちろん、心にもね。
――というわけで、今日の夕食は待望の焼肉と、プラスしてキノコのスープにしたのだった。
うんうん。
火ができると一気にメニューも広がるね。
ちなみにペルカの反応は、とてもとても美味しいとのことだった。
食べるものすべてになんでもかんでも美味しいと言ってるようだけど、念話の響きにしみじみとした感情がこもっていたので、おそらく本当にそう思っているのだろう。
美味しいのならいいことだ。
よく食べてよく育ってほしい。
その願いを込めて、デザートに木の実の団子をつけることにした。
おそらく普通に作る時は磨り潰してアク抜きするんだろうな。
そういった手順を一切省ける錬金はチート。習熟さえすれば成功率100%のチート。
本当に! 何度でも言うけど! 失敗することで消える素材さえなければなあ!!
うえええぇ。あんなに集めてもらった素材が…………。
≪ごめんね。ごめんね?≫
労力を無駄にさせてしまったことに謝るも、ペルカはまったく気にしていなさそうだった。
≪美味しいもののためなら構わない≫
…………うん。
前々から思ってたけど、ペルカって美味しいものに目がないよね。
けど、食材を集めている当の本人が、成功率が低い料理の錬金にもガンガン挑戦してもらいたいと言うのならそうするべきだろう。
≪今度から新しい料理があれば、なるべく作る方向で行こうか?≫
≪――頼む≫
≪わかった。そうするね≫
≪!≫
本当に期待しているような心弾む感情が伝わってきて、私もほっこりする。
土壁を隔てた土砂降りをBGMに、焚き火のパチパチいう音と熱に照らされながら、久しぶりにゆったりした時間を過ごした。
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