フランスのティータイム
寺山千代女さんとお春さんは、オーサカホテルの一室でただじっとイスに座っていました。
トントンとノックされたので千代女さんがドアを開けますと、ルイーズさんが立っていました。
千代女はどうすれば良いのか分りません。
最もお春さんも同様で固まっています。
そもそも言葉が通じるとは思えないのです。
しかしルイーズさんは、
「お茶でもご一緒いたしませんか?」
と完璧な日本語を口にしたのです。
「ありがとうございます」
と千代女さん返事しますと、ルイーズさんは、
「ではまいりましょう、皆まっています」
で千代女さんとお春さんは、おずおずしながらついて行きます。
オーサカホテルのティールームに三人の女が待っていました。
大きなテーブルの周りには、立派なイスが六脚用意されていました。
マーガレットさんが、
「ようこそ、セパレイティスト・クラブへ、私たちはアリアンロッド様の公妾、格子、コンパニオンです」
「従って貴女たちの言葉、日本の言葉に不自由はしません、だから安心してお国の言葉で喋っていただいてよいですよ」
と歓迎の言葉を日本語でいいました。
驚愕する千代女さんとお春さんに、マーガレットさんは、
「多分貴女たちはコンパニオンの下、ガヴァネス、女孺(にょじゅ)となると思います」
「私たちは先ほど、お二人と仲良くなりたいと話し合っていました」
「それで親睦と自己紹介を兼ねて、お茶でもご一緒にと招待した次第です」
「私はエカチェリーナ・アレクサンドロヴナ、ロシアの大公女です」
「私はアリソン・ベル、アメリカ人よ」
「私はマーガレット・ハノーバー、イギリス王女です」
「最後は私ね、ルイーズ・ドルレアン、フランス第三帝国内の自治領、オルレアネー王国王女となるのかしら」
目の前の女たちはとんでもない高貴な女たちと、千代女さんとお春さんにも理解できました。
千代女さんが、
「私は寺山千代女と申します、播磨の国の龍野藩(たつのはん)の出身で、父は藩の寺社方でした」
お春さんも、
「私は春と申します、播磨の佐用の近く平福の出身で、家は因幡街道の旅籠をやっていました」
お春さん、宿屋の娘さんだったのですね。
「今日はアリアンロッド様からいただいたお茶でも飲みませんか、フランスのお茶ですが良いでしょう?」
とルイーズさん。
それを受けてマーガレットさんが、
「うらやましいわ、私もアリアンロッド様からお茶をいただきたいわ」
ルイーズさんがホテルのボーイさんに、マリアージュフレール社の茶葉、定番のマルコポーロを渡し、フランス流のあっさりとした入れ方をと、頼んでいます。
この当時には存在しないブレンドですが、アリアンロッドさんの知識には存在し、再現できるようなのです。
「フランスのお茶には、やはりフランスのお菓子ということで、これもいただいたの……」
マドレーヌやチョコレートがでてきました。
どうやら全て、マリアージュフレール社のもののようです。
「アリアンロッド様は、このようなお菓子が好きとおっしゃっていらしたわ」
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