ロンドン行きのデイ・スコッチ・エクスプレスで、マーガレットさんはかなり詳しくアシュレイの身の上を聞きました。

　祖父はアイルランド貴族のストラングフォード子爵だったこと、母親がロンドンで女優をしていたこと、何一つ荷物を持っていないこと等々……

　会社が倒産した以上、女子寮も閉鎖、アシュレイさんは泊る部屋もなく、まったくの無一文だったのです。

　ロンドンまでの約九時間弱、アシュレイさんはマーガレットさんに安心したのか喋りに喋ったのです。

　そして十四歳らしい、屈託のない笑顔を取り戻したようです。

　マーブル・ヒル・ハウスには夜の二十一時につきました。

　ズラッとメイドさんが並んで、

「お帰りなさいませ、コンパニオン、プリンセス・マーガレット」

　皆さん結構な美人さんですが、アシュレイさんはその美人メイドさんたちの、探るような視線にさらされたのです。

　マッケンジーという方が、

「お帰りなさいませ、ニライカナイからではお疲れでしょう、で、そちらの少女は？」

　マーガレットさんが、

「マッケンジーさんも帰っていたのですか？」

「この娘はアシュレイ・スマイス、アイルランド貴族のストラングフォード子爵のお孫さん、グラスゴーで知り合ったのよ」

「アウグスタ様にお仕えしたいというので連れてきたの、レディス・カレッジのホステス任官課程に推薦するつもり」

「私では推薦資格がたりないから、お母様にお願いするつもりなの」

「もっとも綺麗で賢いから受かるのは間違いないけど」

「アシュレイ、この方がこのマーブル・ヒル・ハウスのレディス・コンパニオン、ケイト・マッケンジーさん、私よりも偉いのよ」

　マーガレットさんは格子、マッケンジーさんは側女、確かに格上のマッケンジーさんなのですが、そこはセパレイティスト・クラブ・イギリス・コロニーの中、ため口などたたいているマーガレットさんでした。

「そうそうアシュレイ、例の鍵だけど、マッケンジーさんに渡してね、マッケンジーさん、アシュレイをよろしくお願いね、少しばかり疲れたので早く寝るわ」

　こうしてアシュレイさんは、マッケンジーさんに引き渡されたのです。

　マッケンジーさんが、

「さてアシュレイ・スマイス、子爵の孫娘はここでは関係ないのよ、そうですね、まずは貴女はメイドとして働いてもらいます」

「レディス・カレッジのホステス任官課程は来年の四月入学、それまで下働きが出来ますか？」

「はい」とアシュレイさん。

「子爵家の孫娘、読み書きは出来ますね」とマッケンジーさん。

「はい」と再びアシュレイさん。

　マッケンジーさんが、

「部屋はメイブの隣が良いでしょう、彼女もレディス・カレッジのホステス任官課程でアイルランドの生まれですから」

「明日からメイブと一緒に働いてもらいます」

「メイブがカレッジに通っている間は、そうね、なにか特技などありますか？」

　アシュレイさんは、

「紡績工場で働いていただけですから……細かいことなら……」

　マッケンジーさんが、

「じゃあ悪いけど、メイブと一緒でないときはロコモービルでも磨いてもらいましょう」

「それぐらいなら出来るでしょう、だれか、メイブを呼んできて」

　マーブル・ヒル・ハウスにはロコモービルが十数台あります。

　そのロコモービルの洗車などが大変で、男子禁制のマーブル・ヒル・ハウスとしては、掃除のために外に持ち出したりしていたのです。

　早速シフト表が作られ、マーブル・ヒル・ハウスの第一日の午後から、アシュレイさんはロコモービルの車内清掃、洗車、ボディやタイヤなんて磨くことになりました。

「アシュレイ、明日の午後から車を磨くの？」

　就寝前に早速声をかけてくれたメイブさんです。

「はい、メイブさん」とアシュレイさん。

　メイブさんが、

「結構大変よ、それに泥だらけになるから作業着を着るのよ」

「作業着？」とアシュレイさん。

　メイブさんは、

「ここでは色々な服が支給されるわ、食事も朝昼晩と三食、詳しくは明日、説明してあげるわ」

「午前中、貴女にここでの生活を説明するように云われているから」