3話 剣は初めて使うよ

 測定が終わると僕たちは教室へと集まった。

 ただ初日で授業もないらしく、自己紹介だけで解散となるようだ。


 周りを見るとこの一組の生徒は十二人ほどで意外と少ないようだった。


「よし、全員集まったな。ではまずは一人ずつ、自己紹介をして行ってくれ。名前と年齢、あとはなにか一言言ってくれれば良い。あとから役に立つからな」


 ライズはニヤリと微笑んだ。


「では、端から順番に言ってくれ」


 その声を聞いて左前に座っていた男が立ち上がる。


「俺はアデル・リチャード、十歳だ。ようやくこの俺の実力がこの学園に認められたようだ。皆もこの俺についてくれば将来は安泰だぞ」


 な、なかなか個性の強い人だね……。


 僕は乾いた笑みを浮かべながら隣を見るとシーナも同様の笑みを浮かべていた。



 順番に自己紹介をしていく。


 ただ、僕と同じ六歳の子は全くいなくて、大抵が八歳以上だった。

 そして、次は詠唱省略をした小さな子が立ち上がる。


「マシェ・ロックウッド……、六歳」


 名前と年齢だけいうと小さく頭を下げてそのまま座ってしまった。


 人見知りの子なのかな? 部屋に入ってからも深々とかぶった帽子は取らないし……。


 意外と変わった子が多いかも。


「次は私だね」


 シーナが立ち上がる。


「私はシーナ・ルチル。八歳です。私はSランク冒険者を目指してます。よろしくお願いします」


 にっこり微笑むシーナ。彼女が座ると僕の番がやってきた。

 少し緊張するね。僕は大きく息を吸い込むと立ち上がる。


「僕の名前はリーノ・ルクライドです。えっと……六歳です。仲良くしてくれると嬉しいです」


 僕が自己紹介をすると場が静まり返る。

 えっと……、僕何かまずい事言ったのかな?


「よし、これで全員発表が終わったな。ではこれから四人組を組んでもらう。これは今後の訓練や魔物狩り、この学園にあるダンジョン等に入る時のメンバーとなる。慎重に選ぶといいぞ」


 いきなりそんなことを言われても困るんだけど……。


 僕が周りをキョロキョロ見ているとシーナが話しかけてくる。


「ねぇ、リーノくん。私と一緒にパーティ組まない?」

「うん、いいよ」


 彼女なら他の人より話しやすいし、僕は即答していた。


 ただ、その返事を皮切りに周りの全員が僕を取り囲む。

 いや、アデル一人だけが自分の席で髪をかきあげていた。


「ねぇ、リーノくん、私と組んでほしいな」

「いや、僕と組んでよ」

「私と……」

「俺と……」


 突然僕の取り合いが目の前で始まってしまう。一体どうしたらいいのだろう。

 助けを求めるようにシーナを見るが彼女は首を横に振った。


「と、とりあえず他のメンバーを決めないとこの騒動は収まらないよ……」

「そうだね……。でも誰にすれば……」


 迷っていると、服を掴まれていることに気づく。


「……んっ」


 僕と同じ歳のマシェも一緒にパーティを組みたがっているようだった。ただ、こうやって誘うのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして、さらに帽子を深くかぶっていた。


「彼女を誘ってもいいかな?」


 シーナにも確認をする。


「私はリーノくんに従うよ」

「それじゃあよろしくね、マシェ」


 僕が手を差し出すと一瞬驚いた顔を浮かべ、両手で僕の手を握り返してくる。

 あと一人だけどどうしよう……。

 僕が迷っていると突然アデルが大声を上げてくる。


「おいおい、この俺を差し置いてなんでリーノばかりが人気があるんだ。ここはこのアデル一択だろう?」


 突然周りの人を割り込むようにアデルが突っかかってくる。


「だって、リーノくん、すごい魔法を使うんだもん」


 取り巻きの一人が呟くと皆一様に頷いた。


「あんなのはただ魔法が暴発しただけだろう? そのくらい俺でもできるさ、この俺と勝負しろ!」


 白い歯を見せながら微笑んでくる。


「だ、だが、魔法の勝負は駄目だ。ち、違う勝負にしろ!」


 急に日和ってくるアデルに周りの人たちは呆れた様子を浮かべていた。


「し、仕方ないだろ。あの魔法を相手に勝てる気は……。いや、暴発するような相手に魔法で勝負を挑むのは悪いだろう」

「それなら剣での勝負はどうだ? 戦闘訓練があるから練習用の木剣も置いてあるんだ」


 ライズが提案をした後に僕の方を見てくる。


 剣か……。使ったことないんだけど、大丈夫かな?


 少し不安になりながらもその勝負を受けることにする。


「わかったよ、その勝負受けるよ」



 僕たちは再び訓練場へやってきた。

 アデルと僕の手には木で作られた剣。


 へぇー、武器ってこんな感じなんだ。


 軽く剣を振って使い心地を確かめる。


「おいおい、そんな振り方で大丈夫なのか? 剣術とはこういうものだぞ」


 アデルが同じように剣を振ってみせる。

 その綺麗な一連の動きに思わず感心してしまう。


 やっぱり僕の見よう見まねとは違って、訓練してる人は違うなぁ。あの綺麗な動きは剣術の型とかいうものだろうか?


「では、リーノとアデルによる訓練を始める。始めっ!」


 ライズの掛け声とともにアデルが駆け出してくる。


 型がわからない僕はとりあえず力の限り剣を振り下ろしてみる。


 もちろんそれはまだ距離のあるアデルに当たることはなく、地面に触れる。

 と同時に剣が触れた部分から一直線に地割れが起きる。


「えっ⁉︎」


 困惑の表情をするアデル。慌てて彼は横に飛び、それを躱す。

 地割れは訓練場の壁までいくとようやく収まる。


「えっと……これでいいのかな?」


 なんとか地割れをかわし、九死に一生を得たアデル。その彼の首元に剣を突きつけるとライズが大声を上げる。


「この訓練、リーノの勝ちだ!」


 あっさりと勝負がついてしまった。

 負けたアデルは顔を赤くしてぷるぷると肩を震わせている。

 何か言おうとしている様子だったが、何も言わずにその場で立ち上がると僕に背を向けて去って行った。

 そして、彼と入れ違いにシーナが近づいてくる。


「リーノくん、すごかったよ。私、剣を振っただけで地面を割る人なんて初めて見たよ」


 興奮覚めあらぬ様子のシーナ。

 ただ、僕はアデルを怒らせてしまったのではと少し不安になりながら彼が去っていった方角を見ていた。



 再び教室へと戻ってくると何食わぬ顔でアデルが近づいてくる。


「リーノ、先ほどの試合はまぐれで勝てたようだけど、俺の力はあんなものじゃないからな」

「うん、アデルくんの姿、かっこよかったもんね。やっぱり剣を習ってる人の姿は華があるよね」


 それに比べて僕は初めて持ったのでただ振り回すしか出来なかった。

 アデルが油断してなかったらとてもじゃないが、勝つことはできなかっただろうと自分を戒めていた。

 しかし、それを聞いたアデルは目を大きく見開いて、少し鼻息荒くしながら答えてくる。


「君もなかなかやるようだが、まだ美しさという点では俺に勝てないだろう」


 自信ありげに答えるアデルに対して、マシェが小声でつぶやく。


「……戦闘にかっこよさはいらない」


 その冷たい言葉に周りはピタッと動きを止める。ただ、アデルは気にせずに咳払いを一度した後に話を続ける。


「そうだ、なんだったら君たちのパーティに俺も入ってあげよう。それだったらリーノに剣術の基礎を教えてあげられるからね。……代わりにどうしたらそんなに強くなれるかを教えてほしい」


 最後の部分は僕にだけ聞こえるように小声で呟いてきた。

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