ムスタンタウンで女神らしく


 スピンクスさんがお仕事を始めた土曜日の夕刻、カリさん、チュヌさん姉妹と変態をしている美子さんでした。

「近頃二人とも夜がうまくて、特にチュヌさんは」

 二人と朝食などをとりながらの美子さんの言葉です。


 さらに美子さんが、

「当面ムスタンタウンのお守りを頼みます、なにか困り事はない?」


 カリさんが、

「このあいだクリームヒルト様が町の城壁を二重に作られました、尼僧院は大改修され私たちの住居となっています」


「蓬莱ステーションと直結していますので、別に困ることもありません、そもそも私たち以外誰も住んでいません」


「しいてお願いがあるとすれば、城壁のために町に出入りが出来ないのです」


 ムスタンタウンはネパールの最深部、ムスタン王国の王都ローマンタンから、ダクマール村までいく道の途中にあります。


 無人の尼僧院だった場所の回り一帯を、ネパール政府から提供され、治外法権となっています。

 ネパール政府には、ここから電力を格安に供給するということで、話がついています。


 そのお陰で、ネパール政府は曲がりなりにも大寒波後の世界で、エネルギーを確保できているのです。


 町の内部の建物はほぼ二階建てで、外観はムスタン地方の特徴を取り入れ、違和感のないようになっています。

 街路は石畳で、かなりシックな町です。


 主要な施設はすべて地下にあります。

 建物内部も見てくれとは違いホテルのようなもの、一応ほとんどの地上部は、宿泊施設のようです。


 確かにムスタンタウンは外部と切り離されています。

 出入り口はなく、内部からの転移だけなのです。

 おもに防衛上の配慮ゆえです。


 美子さんが、

「確かに出入り口はないですね、しかし誰が出入りするのですか?」

「大寒波のときに尼僧院にいた方々など……」とカリさん。


「いままでどうしていたのですか?」と美子さん。


 カリさんが、

「決まった時刻にティンシャ(チベタン・シンバル)を鳴らしていただき、壁の上から縄梯子を下ろしています」

 

 これはいけませんね……クリームヒルト、配慮が足りませんよ、安全だけを考えたのでしょうね。

 

「とにかくゲートを作りましょう、いますぐに」

 美子さん、二重壁に二つのゲートを作りました。


 さらに、

「雑仕女(ぞうしめ)さんは通れるようにしておきます、ムスタンタウン連絡官事務所を作りなさい」


「そして尼僧さんたちを、雑仕女(ぞうしめ)さんにすればいいでしょう」

「女神アウロラ奉仕協会の尼僧さんなら、通れても不思議ではない、中に住んでいただいてもいいですよ」


 美子さん、しばらく考えていたようで、こう言いました。

「カリさん、一般の方々は入れませんが、月に一回ゲートを開きなさい、中を見えるようにするのです」


「ゲートからは、一直線に尼僧院が見えるでしょう、もし私を心から信じ、自らの病を治したい女性が、一心にゲート前で治癒を祈るなら、貴女にその心が分かるでしょう、治療をする力を授けてあげますから、行使しなさい」


 カリさん、感激しています。

「少しは女神らしく奇跡でも起こさねばね、チュヌさんだけでは、ありがたみがないでしょう?」


「尼僧さんたち、指定の日時にムスタンタウンまで来るのは大変ですからね、カリさん、ムスタンタウンを頼みますよ」


 結構仕事をしている美子さん、朝食を食べながらこれだけの事をしてのけたのです。

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