第七章 宇賀真琴の物語 年を越し新たに年を迎える

蓬莱の値打ち?


 惑星蓬莱も年末を迎え、宇賀真琴さんは忙しく働いています。


 クリームヒルトさんの、連発した思いつきの後始末に忙しい年ではありましたが、不思議にその思いつきは蓬莱をうまく導いていると実感するのです。


 それでも心配性の宇賀さんとしては落ち着かないのです。

 稲田真白さんの一言で吹っ切れた宇賀さんは、とにかく年越しを計画しましたが……

 その際中にも、色々な出来事でますます忙しいことになりました。

 それでもやっと年越しが……しかし茜さんがやってきたのです。


* * * * *


 宇賀不動産開発合名会社も師走を迎え、あわただしい日々を送っていました。


 オーナーでもある宇賀真琴さんですが、そのオーナー室に稲田真白さんが、東京聖女女学校とアジア大司教区雑仕(ざっし)養成校についての報告を持ってきました。


 執政官でもあるクリームヒルトさんのお守を、美子さんに頼まれている宇賀さん。

 とてつもなく賢いクリームヒルトさんですが、そこは幼いですから、かなり思いつきで行動するところが有ります。


 そのたびに宇賀さんとその側近でもある真白さんが、何とか破たんなく処理しているのです。

 そのおかげで今年も色々とありましたが、蓬莱世界がヴィーナス・ネットワークに受け入れられる雰囲気が生まれつつあります。


 執政官の後見、これが宇賀さんの蓬莱での立場であり、クリームヒルトさんもそれを認めています。


「今年もいろいろありましたが、上手く進んでいます」と宇賀さん。

「蓬莱も直轄惑星になれるのではありませんか?」と真白さん。

「稲田真白、その話、まだまだ先ですよ」と宇賀さん。

「しかし、美子様のお覚えは目出度いように思えますが?」と真白さん。


 宇賀さんが、

「確かにそうです、クリームヒルトさんを執政官に据え、私たちに実務を任せられた」


「クリームヒルトさんに経験を積ませるという名分で、私たちに蓬莱を任せてくれている」

「破格の待遇ですがあの美子様ですよ、もう一つのお名前、ルシファーは伊達ではないのです」


「……」


「そうはいっても好意は持たれている、一度私はこのように云われました」


 ……蓬莱のハレム設立の準備の件、サリーさんから『抓られました』が許可を得ました、ちょっと痣が残りそうですけどね……


 ……宇賀さんの読みどおりですよ、すぐではありませんが、ハレムが許可された以上、蓬莱は見捨てることは出来なくなります、下準備は認められました、ご苦労しましたね……


「つまり望みの方向へ進んでも良い、私たちの下準備は認める、でもね、一つ引っかかるのですよ」


「何がでしょうか?」と真白さん。

「蓬莱がパラレルワールドという話のことです」と宇賀さん。


「……」


 宇賀さんは、

「私は一度、美子様のお許しを得て、マルスへ行ったことがあります、そして気がつきました」

「マルスには宇賀一族がいない、蓬莱が私たちの考えるマルスのパラレルワールドなら、あり得ない話です」


 真白さんが、

「それは……しかし、そうだとしてなにが引っ掛るのですか、問題はないように思えますが?」


 宇賀さんは、

「どうも蓬莱の人間はマルスの人間とは違うような、マルスの人間、とくに女はかなり攻撃的、良く考えれば、ホモサピエンスの根本的な特徴の通り」


「しかし蓬莱の女は、大寒波の前の、本来の蓬莱の女の気質でも余りに受け身、男の意向に従う事を良しとしていたような」


「マルスでも男を立てるのは、女としておかしくはないらしいのですが、蓬莱はマルスの基準からしても度を越している、男もマルスよりは従順な気質が見られます」


「それこそ蓬莱の値打ちでは?」と真白さん。


 宇賀さんが、

「見方を変えればそうでしょう、しかし闘争で進化するのが人類らしいのです」


「すると蓬莱の進化はかなり遅くなるはず、同じ年月で同じような文明、その頂きも同じ程度、マルスにあるヴィーナス・ネットワークの科学力を除けば、むしろ蓬莱の方が進んでいる……」


「蓬莱の進化は何処から来ているのか……美子様はそのことにきずかれている、その為の特別待遇としたら、私は怖いのです」


 真白さんが、

「宇賀様、お話がもし真実としても、今は美子様のご好意にすがりつくべきではありませんか?」

「美子様は少なくとも、すがりつき代価を差し出され、それを受けた女は見捨てることはない、万難を排して守られる」


「これはヴィーナス・ネットワークでは有名な話、膨大な惑星世界は、美子様のこの話を信じてすがりついてくるのです」


「事実、あの惑星アールヴヘイムンでも、すがりつき代価を差し出し、なんとか許されています」

「この蓬莱も代価を差し出しています、御心配ならさらに女官を募集し、献上品をだせばいいのです」

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