ゆかた祭りのお誘い


 そしてとうとう、『えさ』がぶら下げられたのです。

「フランソワーズさん、宜しくお願い致します」と美子さん。


 フランソワーズさんが、

「分かっています、ヴィーナス様と間近くでお話されたのですから、断るのなら大変ですが、誘うのでしょう?簡単ですよ」


 最後にフランソワーズさんの出番で、あっさりと決まったのです。

 ついでにもう一家族も望みました。


 六月十五日、浮田貴子、浮田京子、浮田明子の三人は釆女、つまり梓巫女(あずさ巫女)に昇格しました。

 勿論、山野五十鈴、山野乙女も同様です。


 とりあえず蓬莱を管轄する、バアル・ゼブルが昇格の挨拶を受けてくれました。

 そのほか蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)に新しくなった、または昇格した方は、全員蓬莱ステーションに招待され、生まれて初めて惑星蓬莱を外から見たのです。


 相変わらず聖ブリジッタ女子学園山陽校で、クリームヒルト、京子さん、乙女さんの三人は、仲良くいつも一緒です。


 今日は金曜日、乙女さんはお母さんの婦人服会社のモデルに放課後から動員されて、京子さんと二人で油揚げ専門店コン太のお菓子などをいただき、宇賀ビルの喫茶室でお茶をしています。


「ねえ、クリちゃん、明日は用事があるの?」と京子さん。

「何もないわ、暇が有るだけね」とクリームヒルトさん。


 京子さんが、

「じゃあ家に遊びに来ない、お祭りがあるのよ、縁日が出るわ、二人で行かない?」


「縁日って、何なの?」とクリームヒルトさん。

「たこ焼きとか金魚すくいとか、色々なお店が出るの」と京子さん。

「面白そうね」とクリームヒルトさん。


 京子さんが、

「ゆかた祭りといってね、姫路のゆかた祭りをまねたのよ」

「浴衣でいくとね、色々と得点があるのよ、家は毎年浴衣でいくのよ」


 クリームヒルトさんが、

「でも……私、浴衣なんか持っていないし、着方も分からない……」


 京子さんが、

「私の浴衣を貸してあげるわ、クリちゃん、外人さんにしたら小さいものね、私と同じ背格好だから大丈夫よ、着つけぐらい私がしてあげる」

「明日ね、必ず行くわ!」とクリームヒルトさん。

 京子さんが、

「そうだ、お祭りは今夜から始まるのよ、だから今夜、家に泊まりに来ない」

「えっ、いいの?」とクリームヒルトさん。

「歓迎するわ」と京子さん。


「でも、ご迷惑ではないかしら?」とクリームヒルトさん。


 京子さんが、

「大丈夫と思うわ、なんなら、お母さんに聞いてみましょうか?」

 

 京子さんが電話で聞いてみますと、歓迎しますとの事、しかもフランソワーズさんもヴァランティーヌさんも、一緒にいかが、との事です。


 今度はクリームヒルトさんが、フランソワーズさんに都合を聞いてみますと、うかがいますとの返事でしたね。


 で、急遽、浮田家にお泊りとなったのです。


 お綺麗な外人さんご一家は、約束どおり午後六時に、タクシーで浮田さんのお家に押しかけます。


「よくいらっしゃいました、お食事はまだでしょう、ご用意していますのよ」

 貴子さんが歓迎してくれます。


 豪華なお食事が並んでいます、完全な和風ですね。

「いつもこんな御馳走を?」とフランソワーズさん。


 明子さんが、

「初めてみたわ、いつもは焼き飯とかよ」

「明子!」

 と貴子さんの雷が落ちました。


 フランソワーズさんが、

「恥ずかしながら私は料理なんて出来なくて、立派ですね」

 などと云っています。

「お嬢さんも、お料理はお出来になるの?」

 

 京子さん、完全に下を向いています。

 あわててクリームヒルトさんが、

「私たち、まだ子供です、お料理はこれからです」

 などと云っていますが、出来ないといっているようなもの。


 ヴァランティーヌさんが、

「私はこの間、目玉焼きをつくったわ、でもクリームヒルト姉さまは、できなかったのよ」

「だって卵がうまくわれなかったのですもの」

 この一言で、クリームヒルトさんも京子さんの横で、下を向いてしまいました。


「私はだし巻きがつくれるのよ」

 と明子さんが胸を張って云います。

 どうやら二人の妹の方が、料理はましなようですね。


「まぁまぁ、ご飯を食べませんか?」

 貴子さんが話題を変えようとしてくれました。


「早く頂きましょう」

 とフランソワーズさん、こちらは本当にお腹が減ったようです。

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