まんざらでもない森さん
この反響をクリームヒルトさんは見逃しません。
この技術は、女神様にお仕えする数ある世界の一つの技術であると、マスコミなどを通じて世論誘導します。
人々はうすうす感じていた現実を実感したようです。
そして『蓬莱』は、女神様にお仕えする世界の一員になるべきだ、と……
いまや女神の実在を疑う者はいません。
女神に出会えるのは蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)、または蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)だけとなります。
蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)から、蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)にも、資格が有れば昇進可能となります。
蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)制度の影響は絶大で、一気に蓬莱世界は、女神アウロラによる四大司教区による神政政治を受け入れたのです。
蓬莱はこのときを境に、ヴィーナス・ネットワークの一員になれる、社会体制に変質していったのです。
蓬莱の繁栄は、彰子さんの社会的弱者への配慮の一言から始まったと、のちのちまでいわれるようになりました。
それほどすばらしい提案だったのです。
クリームヒルトさんが彰子さんに呟きました。
「どうやら蓬莱は、ヴィーナス・ネットワークの一員になれる社会体制に移行を始めたようです」
「それにしても、あっという間でしたね」
宇賀ビル一階のエレベーター前喫茶ルームで、お茶をしている時です。
彰子さんが、
「そうですね、あっという間でしたね」
「稲田様がご担当された、聖女女学校も前倒しで開学できましたし、蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)制度と、蓬莱阿礼少女(ほうらいあれおとめ)制度も発足しました」
「クリームヒルト様のご尽力のおかげです」
クリームヒルトさんは、
「私は何もしていません!全ては森さんと稲田さんと宇賀さんのお力です」
「私は行き当たりばったりの、口だけでした!」
「そんなことはありませんよ」と彰子さん。
……本当にそんなことはありません、私も稲田様も宇賀様も、皆クリームヒルト様だから働いたのですよ……
貴女は賢いだけではない、人を動かす何かを持っている……
クリームヒルトさんが、
「森さん……これからも私を助けてくださいね……それから……」
すこし、いいにくそうにしたクリームヒルトさん。
「なんでしょうか?」と彰子さん。
クリームヒルトさんが、
「フランソワーズさんと、ヴァランちゃんのこともお願いします……」
「それはもう、美子様からも、云われておりますので」と彰子さん。
……
クリームヒルトさんが、蚊の泣くような声で何かをしゃべりました。
「申し訳ありません、すこし聞きとれなくて?」と彰子さん。
クリームヒルトさんが、
「実はフランソワーズさんが……その……山野五十鈴さんの……ファッションモデルに森さんを……」
よくよく聞くと、五十鈴さんがまたファッションモデルを探しており、フランソワーズさんが勝手に彰子さんを推薦したとの事でした。
彰子さんは、
「私がモデルを?別にかまいませんが?」
……
「えっ、ビキニのモデル、私がですか?」
「お願い!」とクリームヒルトさん。
で、結局承諾させられたわけです。
……なんで私がこんな恥ずかしい恰好を……
クリームヒルトさんが、
「良くお似合いです、スタイルいいのですね」
「なにもでませんよ!」と彰子さん。
「でね、お願いがあるのですが……」とクリームヒルトさん。
……
嫌な予感がして、黙っている彰子さんです。
クリームヒルトさんが、
「実はヴァランちゃんが……」
で、彰子さんはヴァランティーヌさんのお友達、浮田明子さんの、誕生日パーティーのお菓子を大量につくる羽目になったわけです。
「まったく人使いが荒いのだから!」と彰子さん。
そんなことを言っていますが、実はまんざらでもないと彰子さん。でした。
ろくでもない日々を過ごした経験がある彰子さんとしては、このような日々に、なんとなく癒しを感じているのです。
FIN
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