姫神の女たちⅠ 蓬莱梓巫女 【ノーマル版】

ミスター愛妻

姫神の女たちⅠ 蓬莱梓巫女

第一章 クリームヒルトの物語 蓬莱御巫(ほうらいみかんなぎ)誕生

ヴァランティーヌのラブレター


 蓬莱の大天変地異も収まり、新しい蓬莱世界も落ち着いてきました。


 全世界的な学制改革が行われ、クリームヒルトさんの通う聖ブリジッタ女子学園山陽校も、八年制の高等女学校に改編され、クリームヒルトさんは高女課程の四回生となりました。


 仲良し三人組は転校してしまったが、いろいろあってお友達があっという間に出来たようです。

 しかし、新しいお友達はクリームヒルトさんに対して侍女のように接してくれます。


 困ったクリームヒルトさんは、女神に仕える女官制度をつくりお友達を推薦することにしたのです。


* * * * *


 美子さんと茜さんが去ってから一年、クリームヒルトさんは聖ブリジッタ女子学園山陽校、高女課程の四回生になりました。

 聖ブリジッタ女子学園山陽校は、蓬莱でも珍しい八年制高女となっています。


 学制改革の余波で、聖ブリジッタ女子学園山陽校は当分のあいだ、四回生の時点で編入を受け入れることになっているのです。

 ただかなりの学力を要求はされるようですがね。


 春はまだ肌寒い四月の初め、入学式と編入式が終わった頃です。


「ねえ、クリームヒルト姉さま、こんなもの貰ったのですけど……」

 ヴァランティーヌさんがある物を見せました。

「手紙のようね、見てもいいの?」とクリームヒルトさん。

 頷くヴァランティーヌさんは、心なしか嬉しそうではありますね。


 それはラブレターでした。


「どう返事したらいいの?」とヴァランティーヌさん。


 クリームヒルトさんが、

「拒絶よ!拒絶に決まっているでしょ!それとも『私もよ』と、返事したいの!」


 ヴァランティーヌさんは、

「分かっているわ、私たち、美子姉さまの女ですもの、でも、そんなこと書けないでしょう?」


 クリームヒルトさんは、

「そうね……困ったわね……で、お母様のフランソワーズさんに相談してみたの?」


 美子さんと茜さんは幼いヴァランティーヌさんをきずかって、母親のフランソワーズさんを吉川家の母親、美子さんと茜さんの継母、つまり吉川氏の後妻との設定で呼んでくれたのです。

 勿論そのあたりの矛盾は、それなりに操作したようですが。


 ヴァランティーヌさんが、

「そんなこと相談なんか出来ないわ、私はエラムの生まれ、エラムでは黒の巫女の女に恋文なんてあり得ないわ、激怒するにきまっているから……」


 ……確かにそうね、エラムなら相手の命がなくなる恐れがあるでしょうね。

 なんせ黒の巫女に使える女官ですものね、命がけで下賜を願い出るなら別ですけど……


「相手は誰なの?どこの学校の子?」とクリームヒルトさん。

「同じ学校のクラスの子……」とヴァランティーヌさん。


 クリームヒルトさんが噴出したのは確かです。

 だってヴァランティーヌさんの学校って、聖ブリジッタ女子学園山陽校付属女子小学校、小学部といわれていますけどね。

 小学校ですが女子小学校、つまり相手は女の子、いわゆる女学校特有の『S』の感情ですからね。


 クリームヒルトさんが、

「なんだ、男の子からと思ったわ、その手のものなら私にも毎日来るわよ」

「美子姉様なんか、下駄箱や机が壊れるほど来ていたわよ」

「ヴァランティーヌは許婚(いいなづけ)がいると云っているのでしょう、それを理由に断ったら?」


「私、その子とお友達になりたいのだけど……」とヴァランティーヌさん。

「ならもっと簡単よ、お友達でいいならって、返事すれば?」とクリームヒルトさん。

「いいの?」とヴァランティーヌさん。

「いいわよ、お母様のフランソワーズさんには、うまく言ってあげるから」とクリームヒルトさん。


 ヴァランティーヌさんへの恋文は一件落着ですが、実はクリームヒルトさんにも、ラブレターが送られてきているのです。


 中には近くの学校の男の子からもありますが、大半は校内からです。

 片っ端から、お断りの手紙を書いているクリームヒルトさんです。


 クリームヒルトさんが、高女課程では人気者という証拠のようなラブレター。

 当初その対応に苦慮していましたが、十日もすれば慣れてきたようです。


 新しいクラスの半分は、いままでのよく知ったお友達です。

 ただ残念なのは、仲良し三人組と分かれたこと、でも時々、蓬莱ステーションなどであってはいます。

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