第75話

 ……やっべえ……!



 と俺が思った時にはもう遅かった。

 落とし穴で作った堀を迂回したケンタウロスどもは、



 ……ドンッ! ドンッ! ドンッ!……!



 猟犬のように統率の取れた動きで、一気に3機を沈めちまったんだ……!



『まずはみっつ! 討ち取ったりぃ~!』



『正義は我ら、ジャスティナイツハイスクールにあり!』



『捧げよ槍っ! 捧げよ敵っ! 捧げよ勝利! 我らが大地母神ゼムリエ様のために!』



 腹部を騎乗槍ランスによって突き上げられ、身体ごと高く掲げられるサイラ、ラビア、シター。

 勝鬨をあげるように、えいえいおー! とやられ、ピンに貫かれた昆虫のようにもがいている。



『あぁ~ん! やられちゃったぁ!』



『おいっ、テメー! おろせっ、このー!』



『ぐったり』



 くそっ……! 残るはカリーフ1機だけになっちまった……!

 しかも、落とし穴に落ちてるだなんて……!


 こうなったら……俺が出ていくしかねぇか……!

 もう迷って時間はねぇっ!


 俺は藪を破って躍り出る。



『あとは落とし穴の中にいる、自らの罠に引っかかった間抜けな1機を沈めれば、我らジャスティスナイツハイスクールの勝利となりますわ!』



『……あっ!? キャプテン! ボーンデッドが現れました!』



『我ら勝利はもはや揺るぎない……! でも、このボーンデッドを倒さなければ、真に母大に勝利したとはいえない……! 王を見逃して城だけ陥落させるようなものですわ! 皆の者! あの白きゴーレムの身体も、我らが大地母神に捧げようではありませんか!』



『おおーっ!!』



 槍に刺さっていた『アリフレール』を投げ捨て、競馬のように先を争うようにして向かってくるお嬢様軍団。


 猛烈な体当たりチャージの連続を、俺は身体さばきだけでかわす。



『なっ!?』『よけたっ!?』『あっ!?』『ええっ!?』



 驚きの4連続が俺の横を通過していく。

 まさか全部ハズレるとは思わなかったのだろう、お嬢様たちの上品な顔が引きつっている。


 『ななっ、なんとぉ!?』とキンキン声が割り込んでくる。



『ボーンデッド、ジャスハイの連続チャージ「白い4連星」をかわしました! そ、それもアッサリと……! あれを無傷でかわしたメルカヴァは、過去の大会史上にも存在しません! ヴェトヴァさん、これをどうごらんになりますか!?』



『ン……! あのゴーレムは、ドブネズミのようにちょこまか逃げ回ることだけは得意のようです……! ですがよけるだけでは、不利な状況は変わりません……!』



『確かにそうですね! では、ボーンデッドが……母大がこれから巻き返すには、どうするのがいいんでしょうか!?』



『ンフッ……! それはもはや不可能……! ジャスハイのメルカヴァ「ダンケウロス」は、聖ローの「グラッドディエイター」以上の機動力を持つ、今大会最速のメルカヴァです……! あのナメクジのようなゴーレムでは、そもそも手も足も出ない……! 一方的に攻撃を受け続け、わずかな時間で陥落するでしょう……!』



『なるほどぉ……! いよいよ、あのボーンデッドが戦闘不能になる瞬間がやってくるようです……! 視聴者のみなさま、世紀の一瞬をお見逃しな……ええっ!?』



 ……ドンッ……!!



 俺は、爆音とともに大地を蹴っていた。

 背中から青い閃光と、飛行機雲のような白い筋を幾重にも残しながら。


 コイツは『低出力バーニア』……!

 背中にある噴射装置からエネルギーを噴出し、高い機動力を得る……!


 虎の子の体当たりを終え、いまだケツを向けているスキだらけのお嬢ちゃんたち。

 俺は、呆れてフッと苦笑いした。


 おいおい……そんなにノンビリしてていいのかよ……! さっさと振り向かないと、ヤバいんじゃねぇか?


 お前らは四足だから、前に走るのは速ぇけど……振り向くのが遅いってのは、自分たちでもわかっていただろうに……!


 こんな時のために、バーニアコイツはずっと隠してたんだ……!

 お前らの無防備になったケツを、蹴り飛ばすためにっ……!



 さっきヤツらがやった槍突きを、俺は素手でやりかえしてやった。

 通りすがりざま、馬のどてっ腹にパンチを叩き込んでやったんだ。



 ……ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ……!



 白馬の間を流星のように通り過ぎた俺は、草を散らしながらUターンをしつつ止まる。



 ……ズシャァァァァァァッ……!



 見ると、そこには……まだ自分の身に何が起こったのか把握できていない、目をまんまるにしたお嬢様たちの顔が。

 愛馬は腹から火花と、もうもうと白煙がたちのぼらせながら……ぐらり……と揺れたかと思うと。



 ……ズズズズン……ッ!



 ドミノ倒しのようにバタバタと地に伏していった。


 ……子供のケンカに大人が入ってくるみたいになって、すまねぇんだが……今回だけは勘弁してくれ。


 俺は、コクピットの中で謝る。


 そして、そろそろ来るかな? と思いつつ、両手で耳を塞いだ。



『え……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?』



 今回は、いつもの実況の悲鳴だけじゃなかった。

 バトルフィールドの山の向こうにある街から、遠くのスタジアムのような絶叫までもが俺に届けられた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ……と、いうわけで……俺たち『母なる大地学園』は『ジャスティスナイツハイスクール』を破り、決勝戦へと駒を進めた。


 試合終了後、ドジったカリーフはあたりを水びたしにするほど大泣きして、立ち直るまでにしばらくかかりそうな気配を見せていた。

 決勝こそカリーフの力が必要なんだが、どうすっかなぁ……と悩んでいると、大会側から信じられないような通告を受けたんだ。


 決勝は、明日……!

 準決勝を終えたばかりだというのに、次の日に決勝戦を行うという……!


 そんなんじゃ、作戦を立てるヒマもねぇと俺は抗議したんだが、結局、決定は覆らなかった。


 決勝の相手はあの、『ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子』……!

 戦ってきた相手校の生徒を、ことごとく病院送りにしたヤツら……!


 部員たちは徹夜してでも特訓したいと言いだしたんだが、俺は休むことを優先させた。


 メルカヴァの性能が離れすぎていて、技術などではカバーできないレベルである以上……モノになるのは精神力だけだと思ったからだ。

 ならば今夜はたっぷり寝て、明日に備えて気力を養うほうがいい。


 そして迎える、決勝戦の朝。

 勝利の余韻も、最後の緊張もクソもねぇ慌ただしさのなか、俺たちは決戦のバトルフィールドへと向かった。

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