第13話

 温泉にいる子供たちと合流したあと、俺たちは町へと戻る。


 その道中、子供たちはルルニーとララニーに、泣きはらした目の理由を尋ねていた。


 ルルニーは「ちょっと……」と口ごもっていたのだが、ララニーはお茶目に舌を出すと、



「ちょっとうたた寝したときに、神様に抱っこされている夢を見たんです! つい嬉しくなって、ゴウゴウ泣いちゃったんですよねぇ、これが!」



 テヘヘ……と恥ずかしそうにしながらも、包み隠さず白状していた。


 えっ? と意外そうな顔で、ルルニーが反応する。



「えっ……ララニーさんもご覧になったのですか? わたしも、神様の腕に抱かれている夢を見ました。とってもあたたかくて、とっても神々しくて……自然と涙が出てしまいました」



 ええっ!? と飛び上がるララニー。



「ってことは、ルルニーさんと同じ夢を!? 夢の中で神様は、カタコトで『シンパイ スルナ』っておっしゃってくださったんです!」



「えええっ……? わたしも同じ言葉を伺いました……! これは、一体……?」



 美少女姉妹は大きく見開いた瞳に、お互いの驚き顔を映しあっている。


 ルルニーは「まぁ……!」って上品に口を手で押さえ、ララニーは「うわあっ!?」っとアゴが外れんばかりに大口を開けて。


 ふたりは洞窟の中でわんわん泣いたのを、夢だと勘違いしているようだな。

 あのときは昏睡状態にあったから、無理もねぇか……。


 でも、それがたとえ白昼夢であったとしても、一時の気の迷いだったとしても関係ねぇ。

 俺はコイツらを救うって決めたんだ。


 ……具体的に、やることはふたつ。


 ひとつは、彼女らが自立できるだけの稼ぎを得られるようにすること。

 俺に助けられているというのを、だいぶ気負っているみたいだからな。


 こっちとしてはいくらでもタカってくれて構わねぇんだが、でも、俺がいなくなった場合……。

 ようは俺の夢が覚めちまった場合、そうも言ってられねぇ。


 俺がいつ姿を消してもいいように、コイツらだけで何不自由ない暮らしができるようにする必要がある。


 ふたつめは、町のヤツらとのわだかまりを解消すること。

 『ブラックサンター』のヤツらは言っていた。


 町のヤツらは町を守るために、聖堂院の子供たちをすすんで提供しようとしていると……!


 どうやら俺が思ってた以上に、聖堂院と町のヤツらには軋轢があるようだ。

 寄付はしない、祈りにも来ないだけならまだしも、生贄にするとはな……!


 俺がずっと聖堂院のターミネーターになれるなら、話は簡単だ。

 町のヤツらを全員ぶちのめしてやればいいんだからな。


 でも、これもひとつめの問題と同じで、俺が夢から覚めたあとはどうするんだ、って問題を抱えている。


 だから……町のヤツらが聖堂院を忌避するんじゃなくて、守りたくなるように関係性を修復してやる必要があるんだ……!

 ちょっとばかし、シャクではあるがな……!


 なんてことを考えながらオートパイロットで歩いていたら、いつの間にか町に着いていた。


 誰ひとり欠けていない俺たち一行を見て、町のヤツらは遠巻きにヒソヒソ話をしている。


 『集音』スキルで聞き耳を立ててみた。



「おい……どうやらみんな戻ってきたようだぞ」



「せっかく事前に沐浴の話を聞いて、『ブラックサンター』のヤツらに流してやったのに……」



「どういうことだよ? まさか失敗したっていうのか?」



「くそっ……このままじゃ、ヤツらはこの町を襲うかもしれねぇぞ……!」



「普段は役に立たねぇアイツらが、せっかくこの町のためになるチャンスだっていうのに……!」



「女なんざ、家事くらいしかできねぇってのに、野良猫みたいにウジャウジャ増えやがって……少しは減らせってんだ……!」



「だったらルルニーかララニーをもらってやればいいじゃねぇか、お前、独り身だろ?」



「顔は正直好みだけど、聖道女はゴメンだ。四六時中祈ってばかりなんて嫌だぜ」



「ハハッ! きっとアノ時も、神に祈りながら昇天するんだろうぜ!」



「お祈りなんざ、何の腹の足しにもならねぇってのによ……! どーせ祈ったところで、女神様は何もしちゃくれねぇんだ……!」



 鬱憤を感じさせる町人たちのグチに、俺はコクピットの中でひとりため息をついた。


 町のヤツらの信仰心のなさと、ルルニーとララニーの熱心な信仰心。

 その温度差が、いまの状況を生んでるんだろうなぁ……。


 まったく、あのゼムリエとかいう女神サマ……奇跡を起こせとは言わねぇけど、自分の支配下の土地にいる人間くらい、きっちり信仰させとけよ……。


 まぁなんにせよ、最初の方針は決まった。

 町のヤツらの足を聖堂院に運ばせ、かつ、祈りや寄付に繋がるようにすればいいんだ……!



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は聖堂院に戻るなり、さっそく勧誘作戦の準備をはじめる。


 まずルルニーとララニーに指示して、手書きのチケットを作らせた。

 ボーンデッドの8文字のテキストチャットだけだと意思疎通に限界があるので、棒で地面に絵を描いて説明する。


 ふたりは不思議そうな顔をしたが、嫌な顔は全然せず、子供たちと一緒に大量のチケットを作りあげてくれた。


 敬老の日にプレゼントする『肩たたき券』のようなものが大量にできあがる。

 俺が欲しいくらいだがグッとこらえ、町で配るように指示した。


 女の子たちが総出で配りに出かけている間に、次の準備を進める。


 いくつかの大きな鍋と、『食料ストレージ』に保存しておいたありったけの肉と野菜を使ってカレーを作った。


 下ごしらえは『ヒートアーム』を使って時短。

 いつもよりも半分くらいの時間でカレーができあがった。


 これでよし……!

 あとは煮込んでおけば、作戦の山場のあたりに食べごろになるだろう。


 最後の準備をしているうちに、チケットを配り終えた女の子たちが戻ってくる。

 そして聖堂院の庭が激変しているのを目の当たりにし、「うわあーっ!?」と歓声をあげた。



「『聖堂院せいどういんのカレーさん』!?」



 特設アーチを仰ぎ見る子供たちが、揃ってハモる。



「聖堂院が、カレー屋さんになっちゃった!?」



「わあっ、見て見て! テーブルや椅子がお庭に出てるよ!」



「わぁーい! お店やさんだ! お店やさんだ!」



「ボーンデッドさん、てつだうー!」



 子供たちには大好評。

 聖堂院の中にドドドドと駆け込んだあと、自分のエプロンを身に着けわらわらと出てきた。


 俺の足元を、小さなウエイトレスさんたちが働きアリのようにちょこまかちょこまかと行き来する。

 テーブルを拭いたり、皿やスプーンを並べたり、そして俺では気づかなかった花飾りなどをしてくれて、さらに華やかになった。


 そこに、ルルニーとララニーが戻ってくる。

 聖堂院の変わり果てた姿に、ひっくり返らんばかりに驚いていた。



「ぼ、ボーンデッドさん! これはいったいどういうことなのですか!?」



「聖堂院をカレー屋さんにしちゃうだなんて、とんでもないことですっ!」



 あたふたしながら、俺の足元にわたわたと寄ってくる。

 そして「ああっ!」と思い出したような大声をあげた。



「そういえば、わたしたちがさきほど配っていた券……! 『おいなりでカレーあげるけん』って書いてありました……! 最初は何だろうと思っていたのですが、もしかして……!」



「まさか、ボーンデッドさん……! カレーを使って町の人たちをチャッカリおびき寄せ、お祈りさせようとしてるんですかっ!?」



 ふたりは今更ながらに、俺の狙いに気づいたようだ。


 そっか、コイツらには『カレー券』じゃなくて、別のチケットを作ってもらってたんだよな。

 たぶん読み書きが覚束ない子が作ったんだろう。『おいのり』が『おいなり』になっちまったようだ。


 でも、そのくらいの間違いなら構やしねぇ。

 ララニーはそれもふまえて理解してくれたようで、天に向かってビッと親指を立てた。



「ボーンデッドさん! 素晴らしいお考えですっ! これなら町の人たちもお祈りに来てくださるに違いありませんっ!」



 俺はボーンデッドの指を操作して、サムズアップを返す。

 一方のルルニーはというと、まだ踏ん切りがつかない様子でいる。



「で、でも……神様へのお祈りというのは、純粋なる行為であって……見返りを期待するのは、違うと思うのですが……」



 するとララニーが俺の気持ちを代弁するかのように、ルルニーの背中をバンバン叩いた。



「なあに言ってるんですか! ルルニーさん! あたしたちだって聖堂院の子供たちを救っていただけるよう、滝行でお祈りしたではあーりませんか!」



「ら、ララニーさん、あれは、救いを求めてしたことであって……!」



 ルルニーの言葉が、途中で止まる。

 なにかに気づいたかのように、ハッと俺を見上げた。



「ま……まさか、ボーッデッドさんが、かみ……きゃっ!?」



 ルルニーの言葉が、またしても途中で止まる。

 ララニーによって腰を掴まれ、人さらいのように聖堂院に引っ張り込まれてしまったからだ。



「ボーッとしてないで、ルルニーさん! あたしたちもお手伝いしましょう! 実をいうとあたし、聖道者にならなかったらウエイトレスさんになりたかったんですよねっ! それか漫画家! さあさあ、ルルニーさんもご一緒に! いらっしゃいませ~っ!」



 建物の中から、気の早すぎる第一声が聞こえてくる。

 それに聞いた子供たちは「いらっしゃいませぇーっ!」と元気に復唱していた。

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