その29 薬屋の、不養生です……!

「ソフィア~ご飯食べてる~?」

「あ、ヴィネーラ今日もありがと。休みなのにごめんねー。」

「何言ってんの。休みの日にお茶の素材摘みに行ってるあなたよりはずいぶん楽なんだから気にしないの。……ねえ、また夜なべしたんでしょ。」

「……ちゃんと寝た……よ?」


布団にもぐってちょっとしたら朝鳥たちが鳴き始めたけど。


「もぅ、医者の不養生、だっけ?あなたの場合は薬屋の不養生かしら。ちゃんと休みなさいよ。あなたが倒れたら元も子も無いんだから。」

「うん、まあそうなんだけどさ。」


予約の量を考えるとしばらくはこれが続きそうなんだよね。

あ、このお豆硬い。煮えてなかったか。

ヴィネーラがはあぁ、と大きくため息をつきながら鞄からごぞごぞと一冊の本を取り出した。


「はい、これお貴族様からのお使い物。今日中に一度は目を通すように、だって。あなたの事話したらあきれてたわよ。なかなか来なくなったからやっと色々諦めて学校の準備をしてるのかと思ったって。」

「まあ、ある意味準備なんじゃない。これで学校にいけないって穏便に断ることが出来そうでしょ。お貴族様だって平民と同じ学校は虫唾が走るでしょ。」


そもそも学校でお貴族様と一緒だなんて、勉強どころじゃない。

失礼がないか気を遣うだけで一日が終わりそうだ。

どれだけ通ってもなんにも頭に入らないに違いない。


「まあ、確かにそうよねぇ。じゃあ今日はとりあえずこの籠の分を洗えばいいのね。あら、この前持ってきた布地手つかずじゃない!」

「あー、ごめん。夜に作っちゃおうと思ってたんだけど睡魔には勝てなくて。」

「はぁ……次からは袋にしてから持ってくるわ。ひと月にお茶、1、2袋融通できる?」

「うん、それくらいなら。乾燥じゃなくて生のお茶になりそうだけど。」

「上等よ。じゃあ、ちょっと行ってくるわね。ごはんぐらいゆっくり食べなさいな。」

「うん、ありがとう。」


ヴィネーラが持ってきてくれたパンをスープに浸しながら午後のことを考える。

あ、取り込み頼めばよかった。気づいてくれるかな。


それから薬の配達にお茶の袋詰めに洗ってもらった袋の選別にと無心で手を動かしていると今日もいつの間にか夜になった。圧倒的に時間が足りない。

乾燥した時に少し崩れてしまったくずのカモミールでお茶を出して飲む。

父さんと母さんの分を少し濃い目に。

そうだ、ヴィネーラが持ってきてくれた本を読まなきゃ。

全然メディチさんたちの書斎に行けてないから、こうやって本を届けてくれたのはうれしい。読む時間があるかは置いておいて。早めに読み終えて挨拶にも行かなきゃ。


今日もまだ夜は長い。今日中に乾燥棚に新しい分を並べて、後はできた分を袋詰めして……。

乾燥棚に新しいカモミールとミントを並べ終えると、ちょっと休憩とそのそばで持ってきてもらった本を開く。

さっきまで乾燥させていた分はまだちょっと熱を飛ばさないといけないからね。

それで、何の本を届けてくれたんだろう。へえ、なにやら薬草についての本らしい。

なになに、眠りの粉がどうとか夢の惑わしがどうとか……。あ、あれなんか瞼が……。

気が付けば私は2ページも読まないうちに私は壁に身を預け、朝までぐっすりと眠っていた。

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