第13話 謁見(えっけん)後編

「そうか…。」


 イグサムの国王はそう一言だけ呟いた。弱小国であるイグサム王国は、大国の一つシリヌス公国とあまり仲が良くなかった。歴史上戦争となる事は無かったが、それは国として従順だった事と、唯一の中立国だった事が理由。しかも国土が狭い国ほどダンジョンの発見率が高い。それがイグサム王国の強みだったため、ダンジョンの資源を欲するシリヌス公国とイグサム王国の首都は近かったのだ。


「あのシリヌスが我が国のダンジョンでは飽き足らず、世界では唯一成功した召喚術の勇者殿まで手中に収める算段とは…。」

「国王様」

「ん?勇者殿、いかがなされた。」


 私は今後の行動について、国王に簡単ではあるけれど説明をしました。まず謁見については、こちらから出向く事を伝え、直接大統領から私達に何をして欲しいのかを聞いて来る。その為の準備に時間を要するので、もし仮に公国側から国王に使者が来た場合、できるだけはぐらかして欲しい。この2点です。


「して、勇者殿は何をなさるおつもりで…」

「うふっ。それは極秘任務になりますので、召喚していただいた国王様と言えど、お教えする事はできません。ただ言える事は…。そうですね…。真の勇者となるべく修行する…でしょうか。」


 私はそう言い残すと、行動を開始しました。


「そうですか…。会ってくれますか。これで大統領に良い報告ができます。早速明日にでも出立しますが、ご一緒いたしますか?」

「その前に一つこの国でやらねばならない依頼を受けております。それらを解決してから…ではいけませんか?」


 嘘である。しかし、時間を稼ぐのは1日あれば十分なので、この程度の事でも聞き入れてくれるだけで良いと思っていました。


「分かりました。幸い、ここと我々の首都は公共交通手段が確立されておりますので、道に迷う事は無いでしょう。道中お気をつけて」


 クランネルはそう言い残し、先にシリヌス公国へ帰って行きました。


「さてっと…私達も動きますか!」


―――それから5日が過ぎ、私達はシリヌス公国の首都サウス・ゴートに到着した。


「ようこそシリヌス公国へ。大統領の準備が出来るまでこちらでお待ちください。」


 イグサム王国とは違い、案内に執事が付くところが国力の違いを感じさせる。


「先輩、準備は良いですか?」

「ああ、イサミン。既に術式は極秘展開している。それにこの魔石で作った指輪があれば、相手の魔術師に気取られる事は無い…はず」


 そうここはシリヌス公国の大統領官邸。既に敵かもしれない人間の領域に入っているのです。


「お待たせしました。大広間へお進みください。」


 執事の案内で、官邸の奥『謁見の広間』まで案内されると、そこにはこれまたイケメンな男性が玉座にしっかりと腰かけて待っていました。


(うわぁ。超イケメンじゃん…。)


 恐らく先輩もに違いない。しかし気を抜かず、私達は目に映っているセンサーに注目していた。勿論、これは私達以外の人間には。猶予をもらった1日と移動時間の4日間で、私達が新たに作り出したオリジナルスキル『殺気察知』です。効果は『周囲の生き物全ての、私達に対する殺気を察知する』。このスキルによって、仮にこの謁見が罠だったとしても、危険回避できる可能性は少しでも上がるはずと考えたのです。


(周囲に殺気無し…。先輩、まさか本当にヘッドハンティングだったのかな?)

(分からない。もう少し様子を見ましょう。)


 私達はオリジナルスキル『暗号思念通信』で、常にやり取りをしていた。ゲームで言う『Whisperき』である。


「よく来た。異世界からの来訪者よ。私がこの国の大統領、ライル=シリヌスである。」


 正直この数日は頭がパンクしそうな想いだったけれど、先輩のおかげでこの世界言語の聞き取りもほぼ完璧にマスターしていた。もちろん、完全にスキルで翻訳できている先輩には劣りますが、以前のように全く分からない状態では無くなったので、やはりスキルを取らずに自力で会得して正解だったと思う。


「貴殿らを呼んだのは他でもない。事情は全て先発させた使者に持たせた手紙の通りである。最前線に立たされた我が国を是非救っていただきたい。」


 ライル大統領は、部下に指示し何かを持ってこさせる。それは黒い鞘に納められ、柄に赤い宝珠が埋め込まれた剣であった。しかし、その姿はどう見ても何か不信なオーラが感じられ、とても聖なる力があるとは思えなかった。それは恐らく私が、聖属性の力を持っているから分かる『勘』なのだろう。


「お約束の我が国に伝わる伝説の剣、そなたに差し上げようと思う。受け取っていただけるかな?」


 私は少し考えたが、ここでと言う選択は、後々のために良くないと判断しました。まぁ使わなければ良いんだしね。


「…分かりました。」


 剣に触れた途端に分かる『邪悪な気配』恐らく、抜いたら最後何かの魔法か呪いかが解放されるに違いない。と、私は直感で分かりました。


(イサミン、それ…やばいんじゃない?)

(うん。では発動しない…みたいだけど…)


 さすがに持っているだけで呪われる剣を、部下に持って来させるほど間抜けな事は無い。反対に言い換えれば、抜かずにこの剣を邪悪な剣から本物の聖なる剣に作り替えれば聖剣として使う事ができるかもしれない。私はそんな事を考えていました。

 このあと晩餐会にも出席した私達でしたが、その日は特に何も起きる事はありませんでした。


「ある程度警戒はしていましたが、この国…本気でヤバイかも…」

「先輩も分かりますか…。この剣…お願いしちゃってもいいです?」


「任せな。なんかここ数日で、私のCLASSが『鍛冶職人』になっているみたいだし、戦闘を経験したから分かったけど、こっちの方が向いてる気がするわ」


 魔族の大群は待ってはくれない。こんなところで人間同士の醜い争いだけは避けたい。二兎追うものはとはよく言ったもので、どちらも穏便に済ませる事はできないのかなぁ。

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