ハードル競技で13秒7……


 席取り合戦の末、クリームヒルトさんの隣は、佐田さんがジャイケンを勝ち抜いて座っていました。


 その佐田さんが、

「本当にさっきはごめんね、私考えもなく……だから謝りたくて、何としても貴女の席の隣に座りたかったの」


「気にしなくてもいいのよ、恥ずかしいことではないし」とクリームヒルトさん。

「貴女、芯は強いのね」と佐田さん。


 クリームヒルトさんは笑うしかなかった。

 ……確かに強くなくては、アスンシオンまではやってこられなかった……


 クリームヒルトさんが、

「誰でも強くなれるわよ、それより教えていただけると助かるのだけど、稲田先生ってどんな方?」


 佐田さんは、

「私がはいっている同好会の顧問なのだけど……そうね……変わっているわね……」

「あれだけ綺麗なのに彼氏もいないみたいだし……でも仕方ないか……目がつり目だし……」


「そうだ、変なものが好きよね……きつねうどんとおいなりさんを、いつも食べているし……おあげが好きみたいよ……」


「皆から密かに狐女史って呼ばれているのよ、もっとも私もおいなりさん好きだから、狐女になるのかしらね」


 狐女史ね……美子様にこんな、いかがわしい女を近づけてはいけないわ……


 中学二年といえど超人(ユーベルメンシュ)、状況判断などは素晴らしいものがあります。

 しかも佳人待遇側女、そのパープルゴールドにグリーンゴールドのラインが入ったチョーカーが持ち主の警戒感に反応を始めて、急速に空気がざわめいています。


「なんか寒いわ……風邪でもひいたかしら……」

 と佐田さんがいうので、ハッとしたクリームヒルトさんではありました。


 ……いけないわ……気をつけなくては……魔力が起動してしまう……もっと勉強しなくては……


「気のせいよ、それより次は何の時間?」とクリームヒルトさん。

「いけない!体育よ!吉川さん、運動着、持ってきている?」と佐田さん。

「持ってきているけど……」とクリームヒルトさん。


 この聖ブリジッタ女子学園山陽校中等部には更衣室があるのですね。

 でも……


「これ、本当に穿くの?」

 学販ブルマに抵抗を感じるクリームヒルトさん。


 そこは白人さんですから、足は長いし、お尻も胸もそれなりに成長が早い……抜きん出てスタイルがいいのですね。


「羨ましいわ……」

 クラスメートがまじまじと見ています。

「そんなに見ないで……恥ずかしくなるから……」とクリームヒルトさん。


 ジュニア用ブラジャーをしているのはクラスの七割程度、まだまだ膨らんでいない胸の持ち主は結構いますよね。

 でもクリームヒルトさんはフロントホックなのです。


 佐田さんが、

「やっぱり外人さんなんだ……」

 などと差別じみた事を云っています。


 とにかく今日は陸上とかで、ハードル競技のようです。

 中学女子規格の高さ七六.二センチ、インターバル八メートル……


 よく考えたらクリームヒルトさん、初めてなのです。

「私、初めてだわ……」

 などと言いながら、皆の試技をじっと観察していました。


「吉川さん、初めてなの?」

 と女子体育教師が声をかけてきたので、クリームヒルトさんは、

「そうなのです、出来ましたら一度手本を見せて頂けますか?」


 大人のような応対に、すこし唖然とした顔の先生ではありましたが、「こう飛ぶのよ?」

 と飛んで見せてくれました。


「できそう?」と体育教師。

「やってみます」とクリームヒルトさん。


 さすがに超人(ユーベルメンシュ)、というよりチョーカー持ちです。

 何やらナノマシンが助けてくれたような気もしましたが、見事なものですね。


 二回ほど皆で走って記録にトライすることになったのです。

 するとクリームヒルトさんは十四秒一、中学二年の女子としては歴代記録に入る記録を叩きだしてしまいました。


「すごい!吉川さん、早い!」

 歓声が起こります。

 こんな状況にあまり出会ったことのなかったクリームヒルトさん、なんか嬉しくなりました。


「もう一度走ってみない?」

 体育教師に云われてチョット気分が良いクリームヒルトさん、嬉しそうな顔で、

「じゃあ走ってみます!」


 超人(ユーベルメンシュ)といえどまだ子ども、眩しいほどの笑顔ですね。


 十三秒七……


 教師は思いました。

 ……言葉も無いわ……この娘、ヒョットして天才?……


 そんな教師の考えなど知ってか知らずか、クリームヒルトさんはこの体育授業でクラスに溶け込んだのです。

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