第25話 翼を怒らせては駄目
「ううん。二宮ねえ。どういう性格か、か」
やはり聞くならばゴールデンレトリバーのような理志しかいないと、以前に聞き出しておいたメアドにメールしたところ、あっさりとやって来た。そして学生食堂に落ち着いたところで、首を捻ってしまったのだった。
「二宮先生の研究室を選ぼうと思っていたんですけど、色々とあったじゃないですか。なんか、悩むというか」
さすがに殺人事件と絡むなんて言い出せず、自分の進路相談のような体で聞く。すると、あれはびっくりだったなと理志も深刻な顔だ。
「はっきり言って、あいつが自分のところの研究員同士の揉め事を知らなかったとは思えないんだよな。どうして、ああなる前に仲裁しなかったんだろう」
「知ってはいたみたいですよ。取り調べの時、私生活で気になる点があるって言ってましたから。何か相談はされていたんじゃないですか」
そう言うと、私生活が気になるって変な言い方だなと理志が指摘する。
「た、確かに」
どうして慶太郎はあんな言い方をしたのだろうか。日頃から定義に煩い物理学者だ。そういう表現を使うだけの何かがあったのではないか。もし二人の関係が気になっているだけならば、交際上の問題があったと証言したはずだ。
「何だ。あいつ的に犯人とされる彼氏は良くなかったってことか。奇妙な性癖の持ち主だったのかな。そんなもん、蓼食う虫も好き好きだろうに」
そう表現されるほど、前回の犯人の山田信輔は不細工ではなかったし真っ当な人のように見えたがと、昴はそんなことを考えてしまう。もちろん性癖云々は知らないので断定は出来ないところだ。しかし、慶太郎の言い回しがおかしかったことは理解した。
「その、何か気に食わないことでもあったんですかね」
ひょっとして何か知っているのか。そう思って訊くも、隣の研究室のしかも研究員がどうかなんて知らないと素っ気ない。
「ですよね。ひょっとして何か不正でもしていたんでしょうか?」
「ああ。それならば許せないかもな。怒鳴るなり何なりするだろうよ」
「――」
まさかの言葉だ。昴は驚きを必死に隠し、そうですかと頷いた。しかし心臓はバクバクと煩いくらいに音を立てている。しかし、これはあくまで性格の話だ。実際にやったかどうか、その証拠がなければ立証できないままだ。
「どうした。顔色が悪いぞ」
「い、いえ。厳しい人なんだろうなと」
笑って誤魔化すように言うと、理志は何を言っていると溜め息を吐く。
「えっ?」
「お前の兄貴の方がよっぽど厳しいぞ。普段はそう見せないだけでな。事件を立て続けにあっさりと解くあたり、心底お怒りだと思うね」
あれは怒らせない方がマジでいいと、理志は怒らせたことがあるのか、真剣に言ってくる。そう言えば、翼が怒ったところは見たことがないなと、今まで嫉妬だけで済んでいた感情を思い出す。あれで怒鳴り散らされていたら本気でケンカできるのにと思っていたが、なくて良かったらしい。
「ただでさえ、大学の場は色々とあるからな。余計な仕事を増やしやがって、しかも神聖な学問の場を汚しやがってと、絶対に怒ってるよね。口に出さないし態度に出さないから解らないけど、いつかブチ切れるだろうと俺は踏んでいる」
よほど怖い思いをしたのか、理志はまだそんなことを言っている。ああ、余計に翼の耳に陰で殺人事件を操っていたなんて話は入れられない。ひょっとしてその性格を知っていて、麻央は自分に相談に来たのだろうか。理由の一つになっている気がしてくる。
「まあ、それに比べれば二宮は穏やかだと思うよ。普通に研究していれば大丈夫さ。ただなあ、事件があったから研究室が存続するかどうか。難しい立場に立たされているよ。いくら二宮には関係ないとはいえ、大学も体面というものがあるからな」
「あ、そうか」
となると、慶太郎は被害者ということになる。あえて自分の将来を潰してまで殺人を操ろうと思うだろうか。
「でもまあ、他に移ればいいという意見もある。研究者としては優秀だ。だから、素粒子の研究を真剣にやるならば、他の大学の大学院を受験することも念頭に入れておいた方がいいよ」
理志は真剣に悩む昴を見て、そうアドバイスしてくれる。ああ、今違うことを考えていてごめんなさい。と心の中で謝りつつ、そのアドバイスは有り難く受け取った。
「そうですね。他の大学の大学院も考えてみます」
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