第20話 ヒントは死角
それで付き合っていた奴がいると解った瞬間に、これで間違いないと確信したのか。だから捜査に慶太郎を加えても大丈夫だと判断したというわけだ。翼は知り合いとはいえ、甘い顔はしない。どうして現場に連れてきたのか。その謎が解けた気分だ。
「しかし、それって大掛かりな仕掛けにならないか。どうして菊池君は動かなかったんだ」
慶太郎の疑問は最もだ。部屋全体を使うような仕掛けを施して殺したとなれば、どうして藍は一歩も動かなかったのか。いくら付き合っている相手とはいえ、殺そうと思われていたほどだ。それほど良好な関係であったとは思えない。
「そうだな。つまり、ロープを巻き付けるところから仕掛けなければならないわけだ。このスライドの原因となったのは、犯人にとっては予想外だろうが、仕掛けそのものは前から用意しなければならない」
「へっ」
一体翼の頭の中はどうなっているのだろう。我が兄ながら謎だ。次から次へと発想を転換していく。そして何かを確認するように三つの本棚を見て回った。
「そうだな。三つの本棚、どれにもロープでこすったような跡が残っている。つまり三点を利用したわけか」
ふむふむと、翼は自分の理論を確認するかのようにチェックをしていく。まだ血と脳漿が残る机の上も、まるで自分の机の上を見るかのように真剣に見ていた。一体何を見ているのだろうと、見たくない昴もおずおずと覗いた。
「ん、これ」
死体が除けられたことにより、血の跡が擦れているのが見て取れた。それは頭の位置が窓側へとスライドしたことを示している。今まで死体の背中で隠れていたのだ。
「なるほど。あのドアも使ったのか」
翼はそう言うと、今度は開きっ放しになっているドアへと近づいた。そしてそのドアノブを確認する。
「ああ、やっぱりな。ここにも擦れた跡がある。しかもこれ、本棚のものよりも細いものによって作られたようだな」
「本当だ。しかしだな。考えていくと、トリックはより大掛かりなものとなるんだぞ。どうやって気づかれずに施し、被害者を殺したんだ」
麻央もこれは難しいだろうと首を捻った。しかし翼はそれで解ってしまったらしい。どうやら細さの違いが重要なようだ。
「どうして気づかれないか、やってみるぞ。ヒントは死角さ」
被害者が気づかなかったのか。実際にやってみるのが早いと、言い出しっぺの翼を中心として実験が開始された。場所は同じように本棚と机を配置した近くの研究室だ。
「実際に使ったものはこれとは違うだろうが、解りやすくゴムを利用しよう」
翼はそう言うと、どこから調達したのか長いゴム紐を手にしていた。ざっと十メートルくらいあるだろうか。足元にはバケツも用意されていた。中には砂の代わりにクッションが詰め込んである。
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