第11話 また覗かれた!
夜景の綺麗な場所。ここはデートにはうってつけの場所だ。そこで俺は、あることを告白すると決めていた。付き合って半年。この人しかいないと付き合っていたが、それは避けて通れない問題だった。俺は彼女を愛している。しかし、彼女はこの事実をどう思うだろうか。不安だ。
「すごく素敵ね」
夜景に見惚れる彼女、ユミの横顔は美しい。この星で見た何よりも美しかった。しかしそれだけでなく、その心も素晴らしい。俺はここに来て良かったと、ユミに出会ったことでその思いは強くなった。
「俺、お前に言わなければならないことがある」
夜景を楽しむそっとユミを抱き寄せ、俺は覚悟を決めて口を開いた。そのただならぬ気配に、ユミが息を飲むのが解る。その緊張が、俺の覚悟を少しだけ揺らした。しかし、これはどうしても伝えなければならないことだ。
「俺。実は――」
「どうせ宇宙人だったという展開だろ?」
「うおっ」
急に耳元で聞こえた声に、昴は思い切り飛び上がった。今日はちゃんと部屋の鍵を掛けたはず。さらに今は夜中の三時だ。だというのに、部屋の中には何食わぬ顔で翼がいた。しかも大学にいる時と同じくワイシャツにジーンズ姿だ。
「ど、どうやって入ってきたんだ。しかもその恰好は?」
「そんなもの、鍵さえ持っていれば何の問題もない。それより」
「いや、大問題だよ」
今、さらっと受け流してはいけない言葉があった。鍵さえ持っていれば。どうして持っているんだ、この兄貴は。鍵は自分と、何かあった時用に両親がどこかに仕舞ってある二本しかないはずだ。翼が合い鍵を持っているはずがない。
「いや、母さんがな。毎日のように何か夜中にごそごそやっているから見てくれ、と言って鍵をくれた。どうやら何か怪しいことをしている勘違いしているらしいが、小説を書いていると言っても納得しそうにないんでな。こうして見に来たというわけだ」
小説のことを言わないでくれたのは有り難いが、だったら見に行った振りで良かったのではないか。相変わらず、完璧なくせに何かがずれている。しかも翼はそいうわけだと、満足そうな顔をしている。誰かこの兄貴に注意できる人はいないのか。
「で、どうして今から出掛けるような感じなんだ?」
「ああ。今日はサテライト会議でな。早朝から大学に行く必要があるんだ。今は国際会議も現地に行かなくていいという、便利だが味気ない時代なんだよ。しかし時差はどうしようもない」
そういうところはさすが准教授。ちゃんと仕事しているわけだ。しかし国際会議とはまた、一体何の会議なのやら。
「会議の内容は今後の宇宙論の展開についてだ。まあ、これは予備会議であり、実際の会議には現地に行かなければならないんだけどな」
じゃあ、さっきの味気ない発言はどうなる。と、昴は相変わらず変な翼に頭が痛くなってきた。ひょっとして予備会議なのに参加しなければならないのが嫌なのか。それとも、予備会議から現地でやってくれれば、向こうにいる期間が長くなっていいということか。よく解らない。しかもせっかく書いていた小説も、またしても平凡の烙印を押されてしまった。異様に疲れる。
「行ってらっしゃい」
「ああ。それともう一つ」
こっちが本当の用事だと、翼は今、思い出したらしい。今までのやり取りで使った体力を返してもらいたくなる。
「用事?」
しかし翼が自分に用事とは何だろうか。年が離れているせいか、あまり翼は昴に用事を頼むことなどない。これは非常に珍しいことだった。
「この間、二宮先生の研究に興味があると言っていたのを思い出してな。今日の昼、彼の研究室を訪れることになっているんだ。よかったら一緒に来るか?」
「え、いいのか」
意外過ぎる提案に、昴はすぐに何かあるなと疑った。すると案の定、翼がにやりと不気味な笑いを浮かべる。せっかくのイケメンも、この顔になると台無しである。しかしそれは同時に、この話は単なるお誘いではないことを示していた。
「な、なんだよ。四年になる前に顔見知りになる機会なんて少ないからな。ちょ、ちょっとくらいならば手伝うぞ」
しかし興味の方が上回った。それに今から知り合いになっておけば、四年の時の研究室選択で有利に働くのではとの打算もある。だから、翼が企んでいる何かに協力するのもやぶさかではなかった。
「それは助かる。実は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます