第115話 Side:A
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第115話 Side:A》
時間が経ち、辺りは暗くなった。アイザックはそれまで体力と魔力を消費しないように身を潜め、道中で手に入れた小さな木の実を口の中で転がし、柔らかくなったら食べていた。彼はこの最後のサバイバルで、ステュムパーリーのとある習性を見抜いていた。
(こいつらは夜は1羽で行動する。そこを狙う)
一度に2羽以上の相手は、流石に今のコンディションでは骨が折れる。2日目と4日目の、比較的まだ余力がある状態で倒せたレベルだ。そして今は6日目と最終日の間。体力的にも、精神的にも、正直辛いところはあった。
「そろそろ行くか・・・」
昼間休んでいたおかげで随分と回復した。残るは1羽。彼の中で、これ程までに昂るのは久し振りだ。目は据わり、呼吸は静かに、だが深い。注意は少し散漫だが、許容の範囲内だろう。耳を澄ませて、奴の飛ぶ音を聴き分ける。気分はさながら『狩人』だ。
(・・・来た)
闇夜を裂くように、遠くから明らかに風を切る音が聴こえてきた。
「やっぱ昼間とは違うな」
静かな夜には不釣り合いな不気味な音が辺りに響く。通常、鳥類は暗くなると活動を止める。しかしステュムパーリーと、一部の鳥類は例外で、各々夜でも活動できる術を持っている。それは目が夜にも順応したり、昼間は逆に活動を止めていたりと様々だ。
(悠長に獲物を探してる、か?)
上空にいるステュムパーリーは、警戒という本能を持ち合わせていない様に優雅に飛んでいた。油断してる今がチャンス、とアイザックの目付きが変わる。そして履いているブーツに《風》の魔力を込め、ぬかるんだ地面が少しだけ渇きを覚える。
(良い感じだ)
だが、奴から目を離して戻した瞬間には、先程まで優雅に飛んでいた場所にはいなかった。
「しまった・・・、どこ行っ・・・・・・
ドゴォッッッ!!!!!
「っ!!!?」
鈍い音と共に、アイザックは吹き飛んだ。意識外からの何かに、状況が整理できないままに転がり、右脇腹を押さえる。じんわりとした痛みが頭から冷静さを排除するかのように広がり、彼は目を凝らす。
「・・・バレたか・・・」
アイザックは体を屈め、なるべく足音を立てない様に移動し、距離を取る。しかしステュムパーリーはそれを捉えており、見つけるや否や、再びアイザックに体当たりを仕掛けようと旋回し、滑空を始めた。
(・・・ちっ)
ドォン!!!
間一髪避ける。奴はアイザックのいた場所を確実に射抜いており、彼に改めてその脅威を思い出させた。そして、ステュムパーリーは僅かに赤く発光し始めた。が、前に対峙した時とは少し違った。
「・・・暑くなってきた・・・?」
前は奴自身が熱を帯びるだけだったのが、今は周りにも影響を与えているのか気温が上昇し、夜はまだ冷える季節なのだが、軽く汗ばむ程になっていた。それに伴い蒸気を発し、見るからに触れられない温度まで上昇している事が分かった。アイザックはゴクリと唾を飲んだ。敵の更なる生態の発覚に震えが止まらない。だが、それは恐怖とは違った。
(・・・そうこなくっちゃ)
紛れもない武者震いに、今までにない昂りを見せる。奴に体当たりされた脇腹がジンジンと痛むが、そんな事はお構いなしだった。今コイツを倒せば1段階先へ行ける、という自分との闘いに胸躍らせていた。
(足の感覚は・・・よし・・・)
衝撃により解除された《風》の魔力を再び両足に付与させると、熱を放つステュムパーリーは羽ばたいて距離を取る。通常なら目視はまずできなかっただろうが、幸い、奴は発光している。赤い点が暗い空を、まるで8の字を描くように回っていた。
「あくまで空中戦がご所望かよ・・・」
口角は上がるが、眉はしかめている。元々、アイザックは《風》の魔力を駆使しての跳躍だったり、脚力が飛躍的に上がるのは戦闘において使用してきたが、それは人間相手だったり、動きの遅い、または動かないモノに対してだった。さほど大きくない、しかも空を自由に飛び回るモノに対しての使用は《ヘラクレス山脈》に入ってから初めてであり、彼自身、現状課題としていた事だったからだ。
(今までの4羽は何とか地上で倒したけど、今回ばかりはそうは行かないか)
ゴクリと唾を飲み、意を決する。足場を踏み固め、襲撃に備えると、発熱するステュムパーリーはまたアイザックを襲おうと急降下を始めた。
(・・・来た!)
自分を狙っていると分かっていても、引き付けるために動かないのは恐怖が勝つ。タイミングを見極める為に全神経を注ぐが、弾丸の如く突っ込んでくる奴を一瞬でも見失えば大怪我では済まされない。が、彼は考えるよりも先に足が出た。
ガッ!!!
《風》の魔力を纏った蹴りはステュムパーリーの頭部に当たったが、大した手応えは無い。僅かに軌道を変えさせたが、再び方向転換して向かってきた。しかしアイザックは、先程とは違う何かを見逃さなった。
(最初よりも少し遅い・・・。これなら・・・!)
性懲りもなく突っ込んでくる奴は、まだ彼が動きを捉えていることに気が付いていない様子だ。軽く脳を揺さぶったのか軌道がブレており、アイザックは向かってくる奴の頭を正確に蹴り上げた。
「いっけぇ!!!」
ドガッ!!!!!
打ち上げられたステュムパーリーはかろうじて意識を保ちながら上空へ逃げようと羽ばたくが、既に真下にはアイザックがいた。
「ふっ!!」
下から更に蹴り上げる。が、それは羽根の上から身体に当たり、羽根を傷付ける程のダメージにしかならなかった。
「まだ、まだぁ・・・!!」
アイザックは右足に《風》の魔力を集中する。正直、1番の鬼門はこの技法にあった。魔力を足に溜め、空中を足場に方向転換する。遊撃部隊の隊長、リゲル・サンドウィッチがこの技を多用しているのを何度も目の当たりにし、彼なりに試行錯誤した結果、成功確率はまだ3割程度だが、扱えるようにはなっていた。そしてアイザックは空中で体勢を整え、右足に集中する。
(成功してくれ・・・!)
と力を込めて踏ん張るも、空を蹴る。
「!?」
想定内だが、焦りは隠しきれない。すぐさま魔力を左足に集中し、再び試みる。しかし感覚は軽く、まるで豆腐にでも乗っているかのような慎重さが必要だった。
「こんの、ぉおおおおお!!!」
気合いと、驚異の集中力で足場を蹴り上がると、すぐさまステュムパーリーに追い付き、未だ回復しきっていない身体に、追い討ちの蹴りを、更に上空へ上がるように叩き込む。しかし、2撃目を入れようとした瞬間、奴は抵抗した。大きな羽根を広げ、それは威嚇にも、降参とも取れた。だが、後者は無かった。
「・・・面白ぇ!」
蹴りは止まることはなく奴の胴体に当たり、反動で上に。
「うららららぁ!!!」
更に追撃で何度も蹴りを放ち、アイザックとステュムパーリーは遥か上空へと昇る。彼は気付いていなかったが、この間、成功確率3割程度の、《風》の魔法を纏い空中を蹴る技法は全て成功していた。使用したのは2、3回だが、それ程アイザックは集中していた。気付けば、《ヘラクレス山脈》が一望できそうな程の高さまで来ていた。
(もう一歩・・・!)
と、当たり前のように空中を蹴り奴の真上へと回り込む。そして今度は両足に魔力を集中し、力を溜め、空中の足場を壁程の頼もしさまで高めた。それを蹴り出す瞬間、ステュムパーリーと目が合った。奴は何かを諦めたような、認めたような目をしていた。
「これで終わりだ」
それに気を良くしたアイザックは、まるで一筋の彗星の如く奴に降り注ぐ。
「【ウルラ・ステラ】!!!!!!!」
ドォォォォォン!!!!!!!!!
爆発音と共に地面に激突する轟音は、本当に隕石でも降ったかのようなクレーターを残した。爆風で木々からは葉が飛び、ステュムパーリーの発している熱も放出されて周りに乾きを覚えさせた。
「・・・はぁ、・・・はぁ、・・・はぁ」
肩で息をし、倒れているステュムパーリーを確認する。動かない事に安心したのか力が一気に抜けて仰向けに倒れ込んだ。
「・・・はぁー・・・。やった・・・」
空は雲が無く、星が瞬いていた。こんなに気持ちの良い夜は久し振りだ、と軽く目を瞑ろうとした瞬間だった。
『コノワタシヲタオストハ、ナカナカノオトコダ』
「・・・え?」
聞き慣れない女性の声の方へ振り向く。しかしそこには倒したはずのステュムパーリーがいるだけだ。
『ミトメヨウ。ワタシノチカラヲスコシワケテヤロウ』
「喋ったああああああああああああああああ!!!???」
アイザックは戸惑った。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第116話 Side:A》へ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます