第47話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第47話》


俺がマジマジと裏に刻印がある指輪を眺めていると、漁師の大男が身を乗り出して来た。


「そんなに大層な物なのか?」


価値は分からないが、宝石の類が付いていないことから海に捨てられたのか、あるいはコレを身に付けている段階で海に投げ込まれてしまったのかは定かではない。まだ持ち主が生きていれば、探しているであろう。


「価値は分かりませんが、これが大事な物だというのは分かります」


もし生きているなら、会って話がしたい。


俺は指輪をグッと握りしめる。と、タイミングを見計らっていたのか、それとも偶然か、アレスとレグルス、アリス組がやってきた。


「おお、コウキ、既にいたか」


「はい、ついでにご飯食べてました」


アレスは大男を見ると、ペコリと会釈をした。それにつられてか、大男も軽く会釈を返す。


「それで、何か収穫はあったのか?」


俺はそれを聞き、意気揚々と貰った地図を出し、話し始める。アレスたちは最初こそ興味を持っていたが、話が終わりになるにつれて、顔が険しくなっていった。


どうしたんだ?


不審には思ったが、構わず話し終えると、アレスが口を開く。


「コウキ、その話、まさか鵜呑みにはしてないだろうな?」


「え?何かしらあるんじゃないんですか?」


半ば純真無垢な顔を向け、彼は困り顔で答えた。


「よく考えてみろ、今は手付かずの遺跡の地図を、何でそいつは持ってたんだ?」


あ、そういえば・・・。


「財宝や、あらゆる海産物が獲れる海域の地図なら、漁師や海賊なら手放さないし、何より、そいつが名乗らずにどこかに行ったのも怪しいところだ」


ふーむ、言われれば言われる程、怪しさが増してきたぞ?


俺が腕を組んで考え込んでいると、今度はアリスが腰に手を当てて口を開いた。


「でも、本当に何かあるんだったら行ってみたら良いじゃないの」


そうなんだよなー・・・。


ゴツい天使と可愛い悪魔のやり取りは数分続き、俺はようやく答えを出す。


「・・・行ってみせんか?」


その言葉にアリスは歓喜の顔に、アレスは溜め息を吐いた。百聞は一見にしかず、とはこの事。もし何かあっても、こちらは手練の騎士団員ばかりだ。魔獣の巣窟でも、罠が張り巡らされていようと、対処はできるはずだ。


「やっぱり話が分っかるぅ!」


ルンルンのアリスに対し、仕方ないなぁ、と言った風のアレス。この間、レグルスは終始黙ったままだった。


「どうした、レグルス?」


俺はそんな彼を見かねて声を掛ける。普段から余り自己主張はしない方のレグルスだったが、今日は余りにも喋らなさすぎる。体調でも悪いのか、と心配もあるが、ずっと深刻そうな顔をしていたのが気になっていた。


「え、あ、いや、どうやってそこまで行くのかなぁって・・・」


それもそうだ。行く行かないの論議の他に、どうやって行くかというのも話しておかねばならなかった。現状、ここでの船乗りの知り合いはおらず、尚且つ、いまいちこの怪しい話に乗ってくれる人でなければならない。


「そうだなぁ・・・。まだデネブさんとアルタイルが来てないから、彼らが来たら再度話を振ってみよう」


と、俺が提案してから数時間、彼らは帰ってこなかった。陽は落ち掛け、【夕陽の港・トラモント】とはよく言ったもので、俺たちの集合場所となっていた町の西側の大きな船着場からは、綺麗な、雄大な夕陽がお目見えになった。縁は堤防になっており、俺たちは横一列になってその夕陽を見ていた。


「何か、こう、パワーを貰ってる気持ちになるな・・・」


「そうねぇ・・・。魔力と共に気持ちまで洗われてる気分だわ・・・」


「・・・やる気出てきました」


「お前ら、夢中になりすぎて海に落ちるなよ?でも、これは確かに凄いな」


俺、アリス、レグルス、アレスの順に感想が漏れると、俺たちが昼間聞き込みをしていた飲み屋やら露天商やらがいた方向から、聞き覚えのある2人の、しかも陽気に笑う声が聞こえた。


『あははは!アルタイル君、君は大いに伸びしろのある研究者になれるよ!!』


『いやいや、デネブさん、自分はまだまだですよ!それより例の空間転移の話の続きなんですが・・・』


『おお、その話はまだ途中だったか!どこまで話したっけなぁ?・・・忘れてしまったよ!あはははは!!』


明らかに泥酔しているやり取りは、見るに堪え難かった。まるでサラリーマンの上司と部下のようなやり取りに、子供のアリスとレグルスにまで、溜め息を吐かせている。


2人とも、あんな大人になってはいけませんよ。


と心の中で注意喚起をしたところで、俺は文句の1つでも言おうと口を開いたが、途中で気持ちが切れてしまった。


「アルタイルさぁ・・・」


「これはこれは、同期のコウキ殿ではありませぬか!みなさんお揃いで、どうしたんですか?」


「・・・いや、何でもない・・・」


余りにも2人が楽しそうに会話しているところに水を差すような事はできなかった。それに、デネブの研究している【転移・転送魔法】について、アルタイルが食いついている辺り、彼もそういう研究がしてみたいという気持ちの表れなのかもしれない。


元々古代魔法についての熱量が凄かったからなぁ・・・。


思い返してみると、アルタイルがこれ程熱心に話に夢中になっているのは、調査班が王国を出発した初日の夜、テントの中で肩をグワングワン揺らされながら熱弁を受けた以来だ。しかも同じ熱量で話ができる人が居たせいか、夢中になり、時を忘れる程飲み、自我を律する事すらできなくなってしまっている。


「とりあえず、今日のところは宿を取り、一旦一部屋に集まって報告し合いましょうか」


酩酊状態のアルタイルとデネブの事もあり、俺たちは一度、休む事に。だがしかし、この時は気付いていなかった。建物の影から俺たちの様子を窺う、何者かの視線に。

そしてその夜。俺たちは一部屋に集まり、各々の情報の共有をしようとしていた。取れた部屋は合計3つ。それぞれが簡素なツインルームになっており、アメニティなどはほとんどなく、港町の潮風が当たった事による体や髪のベタつきを取るためなのか、簡易的なシャワールームがある程度だった。


「さて、まずは俺から話そうか」


アレスは床に腰を落ち着かせて一息ついた。


「・・・正直言って、鼻で笑われたよ。まだそんな伝説信じてるのかってな」


その後も延々と愚痴の様に溢し、アレスらしくない、ネガティブな言葉を羅列していた。


・・・大丈夫か・・・?


心配になる程の報告は、結果、何の成果も得られていなかった。


「じゃあ、次は私たちね」


アリスが口を開く。


「ザックリ言えば、私たちも同じ様な感じね。相手にもされなかったわ」


なるほどね・・・。


「じゃあ、最後に・・・」


チラッとアルタイルとデネブの方を見るが、酔った勢いで寝てしまっている。ダメだこりゃ、と4人でアイコンタクトを取ると、アルタイルがムクっと上半身だけ起き上がった。


「おわっ!ビックリしたぁ」


と、全員を驚かせたかと思いきや、彼は更に驚く事を口にした。


「あ、自分の報告としては、ありましたよ、黒龍の情報だけでしたけど」


何だと!?


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第48話》へ続く。

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