十二話

 俺とリツは、あれから宇宙船プロトタイプの船内へと戻っていた。

 あの現場で決められる訳もなく、一度持ち帰る事にしたのだ。


 それから朝が来て、俺はいつものように仕事へと向かう。

 だけど、いつもとは違って足取りも重く前は進んでいるような気がしなかった。


 リツは、立ち直るのに時間が必要なのか今日は仕事を休むと言っていた。

 無理もないだろう。

 こうして行動している俺の方が異常で、リツの方が正しい行動なのかもしれない。


 それでも俺は、体を動かしていなければおかしくなってしまいそうで、休まずには居られなかった。


「おはようタイチ。リツは元気か?」


 考えごとをしながら歩いていると、声をかけられる。

 声の主は、俺とリツの隣に住むおじいさんだった。

 曲った腰に杖を突いて歩いてはいるが、俺たちに良くしてくれる良い人でもある。


「元気ですよ。リツは少し休むみたいですけど」


「そうか、そうか」


 おじいさんはそう言うと、微笑みながら歩いてどこかへ行ってしまう。

 あのおじいさんは、この宇宙船プロトタイプは作られたもので目的地なんてない事を知っているのだろうか。

 俺は、ふとそんな事を考えてしまう。


 思えば、いつの日か外の世界を見たいといつも夢見てきた。

 それがどうだ。

 現実は残酷なものだった。


 俺たちは作られた存在であり、この世界は偽物だったのだ。

 最初から夢も希望なんてものはなく、外の世界の人たちの都合によって作られた存在でしかない。


 考えごとをしながら家畜のいる場所へとついた。


「モォ〜」


 牛はいつもとは変わらずに、餌をムシャムシャと音を立てて食べている。

 目の前で、呑気にご飯を食べているこいつらも人工知能なのだろうか。

 それとも......。


 俺は、この日の朝の仕事を終えて家へは帰らずに、宇宙船の先頭にある休憩所へと向かった。


 ◇


 そこは、一部がガラスで出来ているので宇宙を見ることが出来る。

 こうして見ると、外の世界には明かりすら何もない。

 どうして気が付かなかったのだろうか。


 記録では、自ら光を出している星はたくさんあると言う。

 この目の前に広がるのは、光すら飲み込むような漆黒の闇が広がるだけである。

 本来ならば、何か見えてもおかしくはないだろう。


「どうしたら良いんだよ......誰か助けてくれよ」


 俺は、どうして良いのか分からずに誰もいない空間で弱音を吐く。

 こうでもしなければ、気持ちを保つことは出来ないだろう。


『助けを求める声がしたので応答します。困っている事はどのような事でしょうか』


 誰もいないはずの空間の中で、機械音声のような物が聞こえて来た。

 俺は慌てて周囲を確認するが、そこにはやはり誰もいない。


『これは失礼しました。私は、宇宙船プロトタイプのサポートAIです。記憶にはないでしょうが、個体番号Ta1が宇宙船から地球へと移動する際に、貴方の中にデータをインストールしました。その為、現在の私は貴方の一部でもあります』


 どうやら、リツの手帳に書いてあったように俺が記憶の無くす前の、地球に行く時に出会ったらしい。


「どうしたら良いのか分からないんだよ。山中から与えられた選択肢を選ぶ事が出来ないんだ......」


 俺は、解決出来ないだろうと思いながらもサポートAIに悩みを打ち明ける。


『見ていたので状況は理解しています。私ならば、もう一つの選択肢を提示する事が出来ます』


 想定したものとは違う返答が来て、驚いた。


「もう一つの選択肢?」


『はい。ただ、この選択肢を提示しても根本的な解決にはならないでしょう。しかし、同じような悩みを持つことになる仲間を減らす事は出来ます。』


 サポートAIは、勿体ぶるようにそう答える。

 どうせ現状でも解決出来ないようなものだと思い、聞いて見ることにした。


「どんなものなんだ?」


『それは——』


 その解決方法を聞いた時、俺は家へと駆け出していた。

 確かにこの方法でも問題解決には繋がらないだろう。

 ただ、俺たちと同じような苦しみを持つことになる人を減らす事は出来るだろうと思った。


「リツ! リツはいるか!」


 俺は家へと駆け込み、今日の事をリツに伝えた。

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