第12話 何度でも繰り返すけれど、その気持ちは本物だから
三月十二日の夜。
旦那様と近所のスーパーへ買い物に行った。
食材だったりお菓子だったり必要な物を調達しに赴いたわけだけれど、とあるコーナーで旦那様がふと足を止めた。
「忘れてた……」
見ると、看板に<White day>の表記があった。
バレンタインデーに続き、ホワイトデーのことも忘れていたようだ。
でもそれが旦那様のデフォルトだと知っている妻は、別段気にも留めず「行くよ」と促した。
「何か欲しいものある?」
「特にない」
リサーチする側からすればあまり褒められた回答ではないけれど、本当に思い浮かばないのだから仕方ない。
チョコレートは贈りたいから贈っただけで、そもそもお返しありきのものだと思っていないため、旦那様がイベントごとに無頓着でも落胆することもない。
だからこの話はここで終わるものと、あっさり特設コーナーを離れて買い物を再開した。
その二日後。
午前中家で仕事をし、終わり次第遊びに繰り出した旦那様が夕食時に帰ってきた。
「これ、奥さんにお返し」
「え? ありがとう」
驚いたことに、外出ついでにホワイトデーの贈り物を探してきてくれていた。
それは妻の大好物である抹茶味のスイーツ。
豪華な物じゃなくても、高価な物じゃなくても、妻がダイレクトに喜ぶものを熟知した上で忠実に用意するのは、旦那様の美点だなと思う。
普段から妻のことをよく見て、知ってくれているからこその選択であり行動だ。
たとえイベント一つ覚えてなかろうと、こうして相手のことを考えて時間を割ける人であるのが嬉しい。
どういう形であれ、当事者同士が幸せを感じられる毎日を過ごせたらそれだけで十分なのだ。
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