第93話 突破口
「ヒロト! こっちだ! そこから脱出しろ!」
スコットさんから檄が飛ぶ。
包囲の外側にいるスコットさんたちは、背後のスペースを確保しているが、俺とスコットさんたちは分断されたままだ。
魔物の包囲は厚く、脱出口が見当たらない。
スコットさんたちは、この前の戦闘で見た力がない。
オークとオーガを何とか抑えて、退却口を確保するのがやっとだ。
バッファ――支援による戦闘力の底上げがないからか!
あの様子だと、俺とマチルダの所まで助けに来てもらえそうにない。
俺は包囲の中心にいるが、襲い掛かる魔物を片手剣でさばくので精一杯だ。
背中のマチルダはピクリとも動かない。
完全に気を失っているので、戦力としては期待できないし、俺が何とかするしかないのだが……。
「GUHI!」
「GYAA!」
「GIA!」
「GI! GI!」
「チッ! 何言ってるのかわかんねえよ!」
ゴブリンやオークが、声を上げこちらを威嚇する。
いや、威嚇と言うよりは、こちらに恐怖を与えなぶっているのか?
右側から石斧を持って突っ込んで来たゴブリンをコルセアで斬り伏せ、左からタックルを仕掛けたゴブリンを蹴り飛ばす。
このまま時間を稼ぐか?
時間を稼いでサクラや師匠たちが応援に来るのを待つか?
……いや、それは悪手。
サクラが東の狩場へ飛んで行った。
ここまで来るには時間がかかる。
王都の師匠たちは、なおさらだ。
今の所、ゴブリンが数匹飛び掛かって来ただけだからさばけているが、体の大きいオークやオーガが一斉に襲い掛かって来たらひとたまりもない。
応援が来るまでもたすのは無理だろう。
となると……とにかくこの包囲から脱出しなくちゃ。
「スー、ハー、スー、ハー……」
深呼吸して自分を落ち着かせてみる。
よく観察しよう。
まず――。
正面のスコットさんと俺との距離は十五メートル程度。
だが、オーガ、オークがひしめいている。
スコットさんたちも苦戦していて、余裕がない。
正面突破は難しそうだ。
左前方、俺が突破して来た箇所は、オーガとオークが入って埋められてしまった。
左側方、オークが多い。重心が低く、体の大きいオークが相手では、足下をすり抜ける事も出来ない。
左後方、オークが森の奥の方から次々に現れている。
左はダメだな。
じゃあ、右は?
右前方、マイルズさんがオーガとゴブリンに押し込まれている。今にも撤退しそうだ。
右側方、ゴブリンが多い。森の奥からゴブリンが湧くように現れている。
右後方、オーガが森の奥から……1、2、3、4体来ている。
右も厳しいが……。
それでもゴブリンが多い、右側方ならワンチャンあるか?
ゴブリンの装備は石斧やナイフ。
貧弱な装備だ。
オークは、剣か棍棒を装備。
オーガは、素手だが力が一番強い。
油断は出来ないが、ゴブリンが多い右側方が一番くみしやすそうだ。
右側方のゴブリンが多い箇所を突破して、魔の森の中を大きく回り込んで出口へ向かう。
これが一番マシな手か……。
時間が経てば、森の奥から魔物が増えるだけだ。
実行しよう!
「スコットさん! 右から回り込みます! そちらも呼吸を合わせて撤退して下さい!」
スコットさんは、一瞬眉根を寄せた。
俺がマチルダを背負って、魔の森の中を単独で迂回するのが危険だと思ったのだろう。
実際問題危険だけれど、他に選択肢はない。
「わ、わかった! ジョアンとレドルドは押せ! マイルズは引け!」
上手い!
スコットさんの指示で、正面の三人が一斉に攻撃を強め、右前方のマイルズさんがスルスルっと後方へ退いた。
魔物の包囲がゆがみ、右側方の密度が薄くなる。
「【神速】!」
マチルダを背負ったままスキル【神速】で加速する。
右側方、ゴブリンが多い箇所を狙って、包囲に突っ込む。
「邪魔!」
すり抜けられるところは、すり抜ける。
ゴブリンは、背が低い。
蹴り飛ばし、飛び越え、踏み潰しながら進む。
まずい!
オーク!
体が横にデカいから、飛び越えられない!
急制動をかけ、靴の裏が地面を削るのを感じ取りながら、体を左へ横回転させオークの脇を通り抜ける。
速度が落ちた一瞬の間に、ゴブリンが投げた石斧が左足にあたる。
「グッ!」
痛みを感じながら、再度加速。
ゴブリンが密集するエリアは抜けた!
あとは、オーガが数体いる。
ジグザグに走り、オーガの足下を狙う。
オーガは体が大きいが、足下はスペースが空いている。
太い腕を伸ばして来るが、【神速】の速さで動く俺は捕まえられない。
「抜けた!」
包囲は抜けた。
だが、魔物たちが唸り声を上げ追って来る。
逃げなきゃ!
スコットさんの方へ逃げたいが、魔物が厚く通れない。
かといって、森の奥の方へ行くのはダメだ。
出られなくなるし、魔物が次々出て来る。
このまま真っ直ぐ右側方へ進むしかない。
真っ直ぐ進んで、どこかで左へ曲がって円を描くように進めば、入って来た所へ戻れるはずだ。
俺はマチルダを背負ったまま、魔物の追撃を振り切るべく、魔の森を進んだ。
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