第85話 マチルダ登場

 バシャー!


「ぶおっ! 冷たい!」


 頭から水をぶっかけられた。

 目の前にはサクラとセレーネがいる。


 あれ?

 ここは?


「目が覚めましたか……」

「やっと起きたね……」


 なに?

 サクラもセレーネも怖い。

 何で俺にらまれてるの?


「覚えていませんか?」

「覚えてないでしょう?」


 覚えて……あれ……。


 俺は……そうだ!

 夕日亭って居酒屋にいた!


 師匠の神速のダグがセッティングしてくれて、師匠所属クランのリーダーと一緒だった。

 えっと……フランチェスカさん!


「あれ? 師匠は? フランチェスカさんは?」


 俺は師匠とフランチェスカさんを探してキョロキョロと辺りを見回す。

 ここは……王都の屋敷だな。

 庭にある井戸の側だ。


 サクラが深くため息をつく。


「はあああああああ~。まだ酔いが覚めないみたいですね……」



 ブワシャ!



 また、水がぶっかけられた!

 いや、もう秋だから!

 水も冷たいから!


「ダグさんは、もう出かけましたよ。フランチェスカさんと会っていたのは昨夜の事です」


「えっ……」


「昨晩、ヒロトさんは、物凄く酔っぱらってご帰還でしたよ……」


「あっ……!」


 思い出した!

 昨日は前世日本以来久しぶりに酒を飲んだ。

 しかし、この体にとっては生まれて初めての酒な訳で……かなり効いてしまった。

 それで酔っぱらったな。


「いやあ、ごめん」


「屋敷に帰って来てからの事は?」


「帰って来てから?」


「私とセレーネにした事を覚えていませんか?」


「えっと……」


 確か歩けなくなって師匠におぶって貰って……。

 家について……。


 もんだな!

 サクラとセレーネのおっぱいをもんだな!

 介抱しようとした二人をベッドに押し倒して、おっぱいもみまくったな!


 背中に冷たい物が流れる。

 まずいな……。


「どうもすいませんでした!」


 俺はジャンピング土下座を決めて、平身低頭ひたすらあやまった。

 サクラとセレーネの説教は続き、三十分くらいたったところでやっとお許しがでた。


「それで……あの人はどうするんですか?」

「そうだよ! どうするの!」


「えっ!? あの人!?」


「「マチルダ!」」


 マチルダって誰!?



 *



 サクラとセレーネに連れられて屋敷の応接室に入る。

 応接室のソファーに一人の女の子が座っていた。


 この子がマチルダ?


 真っ赤な長い髪が印象的だ。

 同い年くらい……、会った記憶はないな……。


 マチルダが振り向き、俺と目が合った。

 黒目の部分も赤なんだな。


「遅いわよ! いつまで待たせるのよ!」


「すいません……」


 いきなり怒鳴られてしまった。


「あのお~。あなたが、マチルダさん……ですよね?」


「そうよ!」


「お約束してましたっけ?」


「あなたと直接約束はしてないわ。姉に言われたのよ。ヒロトと一緒に冒険者活動して来いって!」


「姉?」


「そうよ。クラン『銀翼』のフランチェスカよ!」


「……あっ!」


 思い出した!

 昨晩フランチェスカさんと妹さんの話しが出たな。

 やっと酔いが覚めて来たのか、昨晩の事が次々に思い出された。


 何があったかと言うと――。



 居酒屋夕日亭でフランチェスカさんと色々と情報交換をした。

 こちらからはエリス姫の事、ウォールやニューヨークファミリーの事、ルドルの街とダンジョンの話しをした。


 フランチェスカさんたちクラン『銀翼』は、活動拠点をウィンストン王国からオーランド王国へ移すらしい。


『ウィンストン王国は、色々とキナ臭い』


『戦争ですか?』


『それもあるが……。呪術による攻撃を受けている』


『呪術?』


『呪いだ。ウィンストン王国では、すでに数人の貴族が呪いで死亡している』


 呪い……。

 俺も呪いにかかっているが、この異世界では割とポピュラーな存在らしい。

 特に南方の国では、魔法使いよりも呪術師の方が多いそうだ。


『なるほど……呪いを避ける為に活動拠点を移すと?』


『うむ。南方と違って呪術師は少ない。巻き込まれて、下手に呪いをかけられたらたまらぬ』


 話しが一段落した所で、俺はフランチェスカさんからパーティー運営やクラン運営についてお話を伺った。

 やはり有名クランのリーダーだけあって勉強になる。

 俺は酔いも手伝って、自分のパーティーの悩みをフランチェスカさんに相談した。


『ふむ。火力不足か』


『はい。俺が盗賊、セレーネが弓士、サクラが格闘家兼ヒーラーの三人編成なので――』


『単体の魔物であれば、何とかなりそうだが……。複数のそれなりに強い魔物には厳しそうだな』


『そうなんです! それで新メンバーを募集しようかと』


『良いのではないかな。新メンバーは、魔法使いか?』


『はい。複数の敵を掃討出来るジョブとなると、やはり魔法使いがベストです。ただ……ウチのパーティーでやってくれそうな魔法使いで……出来れば年が近いとなると……心当りが無くて……』


『ふむ……』


『さらに王都第三冒険者ギルドは、所属しているのが2パーティーだけなのでギルド内で探すのも難しいですし……』


『なるほど……』


 フランチェスカさんは顎に手をやり、何か考えていた。

 しばらくして、妹さんの話しをした。


『それなら……私の妹はどうだろうか?』


『フランチェスカさんの妹さんですか!?』


『うむ。妹と言っても年が離れていてな。十三才だ』


『俺たちと同世代ですね!』


『妹は火系統の魔法を得意としている。魔力も多い。将来は私を超えるだろうと見ている』


『それは凄い!』


 同い年のファイヤーメイジ。

 それも白銀の魔導士フランチェスカのお墨付き。

 俺は期待に胸が高鳴ったが、師匠が横から口を挟んだ。


『ちょい待ち! その話しはちょっとな……』


『えっ?』


『フランチェスカの妹なら、俺も知っている。一時『銀翼』で一緒に活動したからな。けどな……』


『けど?』


『まあ、その……。何と言うか……』


 師匠が言いよどんでいると、フランチェスカさんが言葉を引き継いだ。


『妹は気が強くてな。それで『銀翼』では、周りと上手くいかなかった』


『そうなんですか……』


 気が強い性格か。

 ちょっと厄介だな。

 うちはサクラとセレーネの仲が良くて、良い雰囲気だ。

 今の良い雰囲気を壊したくないな。


 けれども、火力不足は明らかだ。

 強力な魔法使いが獲得できるのは魅力的……。

 ううん……どうしたもんだろう……。


『ヒロト。妹の事をお願いできないだろうか? 妹は『銀翼』で上手くやれなかった事を気にして、ふさぎ込んでしまっていてな』


『はあ』


『年の近い冒険者と活動すれば、気分も変わって良い方向に進めると思うのだ。頼む!』


『……』


 俺が腕を組んで悩んでいるとフランチェスカさんに頭を下げられてしまった。

 クラン『銀翼』のリーダーに頭を下げられてしまっては……断る訳にもいかない。


 それに魔法使いは必要だ。

 魔法使いをパーティーメンバーに加えなければ、魔の森の近くで弱いゴブリン狩りばかりする事になる。

 収入的にも、気持ち的にも、それはちょっとね。


 俺はフランチェスカさんの妹を受け入れる事にした。


『わかりました。妹さんと一緒に活動してみます』


『そうか! よろしく頼む!』


『それで妹さんのお名前は?』


『マチルダだ』



 ――俺は思い出した事をサクラとセレーネに話した。


 だが、二人のご機嫌は悪いままだ。


「マチルダさんは、態度が悪いですよね。新人とは思えません」


「何か腹立つ!」


 二人はマチルダと少し話しをしたらしい。

 それでここまで怒らせるとは……。

 ある意味才能じゃないだろうか?


 マチルダの方をチラッと見ると、澄ました顔で紅茶を飲んでいる。


「あら! 結構良い茶葉を使っているのね! ウィンストン王国のマリニン・ニケールかしら? さすが神速のダグのお屋敷ね。まあ、あなたたちには、茶葉の良し悪しなんてわからないでしょうけど。オークにルビーね」


 一言多いな……。

 まあ、確かにわからないけどさ。

 オークにルビーは、この世界のことわざで豚に真珠と同じ意味だ。

 マチルダのマシンガントークは止まらない。


「まあ、あなたも安心なさい。私が来たからには、オークだろうが何だろうが黒焦げにしてやるわ。それに、そこの騒がしい女やツルペタエルフより、私のようなレディーの方があなたも嬉しいでしょう?」


「誰が騒がしい女よ!」


「ツルペタ!? 酷い! あなただって似たような物でしょ!」


 騒がしい女=サクラ。

 ツルペタエルフ=セレーネ。

 こりゃ気が強いなんてモンじゃないな……。

 フランチェスカさんもトンデモナイ妹を送り込んで来たな。


 マチルダVSサクラ・セレーネで、激しい舌戦が始まった。

 いや、これ、どうしよう……。

 まとまんないよね?


 まあ、とにかくマチルダの魔法の腕を見よう。

 話しは、それからだ。


「はい! 冒険に出発ですよ!」

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