第68話 俺の尻をつかむな!
冒険者ギルドで、ウォールを取り逃がした。
俺、セレーネ、サクラ、エリス姫一行は、はらわたが煮えくり返っていた。
目の前で、生き証人を殺されたのだ。
証人に証言をさせて、ウォールを追い詰めようと思っていた俺達には、痛手だ。
だが、ウォールの行動は、彼自身にとってマイナスだった。
冒険者ギルドで、多くの人間がウォールの凶行を目撃した。
ギルドマスターのハゲールは、完全にウォールから心が離れたようだ。
ウォールが立ち去った後、怒りを発していた。
「あり得ん! 冒険者ギルド内で、度重なる刃傷沙汰! 侯爵家の長男とは言え、あり得ん!」
周りで見ていた冒険者たちも、口々にウォールを非難した。
「ひでえ!」
「味方殺しかよ!」
「あれはないよな……」
その様子を見ていたエリス姫が、大きな声でギルド中の人に呼びかけた。
「ルドルの街の冒険者に対して、特別依頼を出す!」
特別依頼?
何だ?
まさか、ウォールへの襲撃?
エリス姫が突然言い出した『特別依頼』とは、どんな内容なのか?
エリス姫に、ギルド中が注目した。
「昨日、新しく見つけたルートへの探索を、ルドルの冒険者に依頼する! 人数は無制限! 一人一人に、日当を2万ゴルド出す!」
ホールの冒険者から質問が飛んだ。
「仕留めた魔物は? 姫様に献上するのですか?」
「献上不要じゃ。仕留めた魔物は、冒険者の物じゃ」
「宝箱から出た、アイテムは?」
「それも、冒険者の物じゃ」
サクラが、小声で俺に話しかけて来た。
「これは……人海戦術で、精霊ルートを一気に攻略する気ですね」
「そうだな。ウォールが10階層まで探索してるって言うからな。冒険者を使って一気に追い抜く気だろう」
セレーネも、会話に加わって来た。
さっき、弓をウォールに構えた時よりも、大分落ち着いている。
「日当が2万ゴルド出て、獲物もアイテムも冒険者の物に出来るのだったら、好条件の依頼だね~」
「そうだな! 人数無制限だから、かなりの数の冒険者が、この特別依頼を受けるだろうな……。あっ! そうか!」
「何~?」
「エリス姫の狙いだよ。ウォールの評判が落ちた。そこで、特別依頼でエリス姫陣営に、冒険者を引っ張り込むのも狙いだよ」
「あ~、なるほど~」
あちらこちらで冒険者たちが、この特別依頼を値踏みしている声が聞こえる。
どれくらい稼げそうか? 特別依頼を受けるか? パーティー単位で相談をしている。
一段落ついたところで、エリス姫が追加の条件を提示した。
「さらに、ボーナスじゃ! ボス部屋を見つけたパーティーには、報奨金を50万ゴルドを出そう! ボスを倒し、次の階層へ転移させてくれれば、報奨金を倍にして、100万ゴルドじゃ!」
これは、破格の条件だ!
次の階層へ一番乗りすれば、100万ゴルド!
冒険者ギルドのホールは、大盛り上がりになった。
「100万ゴルドだとお!」
「ボーナスありか!」
「太っ腹!」
エリス姫を誉めそやす者、興奮する者、唸り声をあげる者、ホールの冒険者は、大騒ぎだ。
ハゲールが騒ぎを手で制して、エリス姫に確認をした。
「エリス姫様、ご依頼ありがとうございます。それで、冒険者のランク指定は、いかがなさいますか?」
シンとギルド内が、静まり返った。
どんな好条件の依頼でも、自分のランクで請負えないのでは、意味がない。
みんな、エリス姫とハゲールのやり取りを、注意して聞いている。
「ランク指定は、ナシじゃ!」
「え!?」
「ランクの指定はナシ! Fランクの冒険者でも、参加可能じゃ」
「そ、それは、とんでもない人数が集まって……。と言うより、ルドルの全冒険者が、特別依頼を受けてしまいます。お支払いが、とんでもない金額になってしまいますが……」
「構わぬ! 全ての冒険者に、特別依頼を受注可能にせよ! 他の街から移って来た冒険者でも良い。今、ニューヨークファミリーに参加しておる冒険者も、ニューヨークファミリーを抜ければ、参加して良い!」
「か、かしこまりました!」
エリス姫は、冒険者たちに向き直った。
「みな聞いたな? 冒険者なら誰でも参加出来る依頼じゃ! ボーナスは、早い者勝ちじゃぞ! 依頼は……、今からじゃ!」
エリス姫の『今から!』が聞こえた瞬間、ギルドの中はパニック状態になった。
冒険者たちが、ハゲールに詰め寄ったのだ。
「俺たちやります!」
「ウチのパーティー参加です!」
「ギルドマスター! 早く依頼用紙を!」
「おい! 押すな! ちょっと待て! 今、事務手続きをする! 痛い! 痛い! 俺の尻をつかむな! 【身体強化】は、使うな!」
ギルドのスタッフが、大慌てで冒険者たちを引きはがし、事務手続きを開始した。
エリス姫が、俺たちの側にやって来た。
何か話しづらそうな顔をしている。
「ヒロトたちは、別の依頼を受けて貰いたいのじゃが……」
「どんな、ご依頼でしょう?」
「今までと同じように、私と共同探索をして欲しいのじゃ」
「それは……。俺たちには、この特別依頼に参加しないで欲しいのですね?」
「う、うむ……」
エリス姫は、申し訳なさそうな顔をして視線を外した。
まあ、何となくわかる。
エリス姫としては、この機会にウォール陣営、ニューヨークファミリーから冒険者を引っぺがしたい。
その為の『エサ』が、この特別依頼だ。
俺たちは、【マッピング】スキル持ちの俺がいる。
それに、精霊ルートのボス部屋の位置も、確実ではないけれど予想出来る。
もし、俺たちが特別依頼に参加して、100万ゴルドの報奨金を次々に独占したら、他の冒険者のモチベーションが下がる。
特別依頼が『エサ』として機能しなくなってしまう。
俺は、エリス姫の提案を受け入れる事にした。
「わかりました。俺たちは、エリス姫のおそばに居るようにしますよ」
エリス姫は、パッと嬉しそうな表情になった。
「そ! そうか!」
「エリス姫の狙いは、わかります。ウォールやニューヨークファミリーの力を削ぐ為ですから、OKですよ」
俺たちは、冒険者ギルドを後にした。
ハゲールの悲鳴混じりの声が、後ろから聞こえた。
「だから! 尻をつかむな!」
*
――翌朝。
俺は早起きして、領主館で朝風呂に入った。
汗をかく夏に朝風呂……、幸せだ!
領主館で、俺たちには、ゲスト用の別棟が提供された。
2階建ての屋敷で、1人1部屋を使わせて貰っている。
屋敷には、魔道具を使った浴室があり、なんとお湯が使える!
大変ありがたい。
この世界で風呂は、貴族や金持ちの家にしかないのだ。
この屋敷の風呂は、ユニットバス位の大きさだが、それでも贅沢品だ。
チアキママと住んでいた家には、風呂がなかった。
だから、転生してからは、水浴びだけで、元日本人としては、ちょっと辛かった。
実家が焼け落ちてしまって、気落ちしていた。
だが、風呂に入れるので、俺の気持ちは、かなりなぐさめられている。
俺が、うー♪ とか、あー♪ とか、風呂につかりながらうなっていると、浴室のドアが開いた。
「ヒロト~! おはよ~!」
セレーネが、一糸まとわぬ姿で浴室に入って来た。
俺は、裏返った声で返事をした。
「お、おはよう……。あの……、俺が、入っているのだけれど……」
「一緒に入ろ~!」
セレーネは、笑顔で答えた。
俺は、動揺した。
恥ずかしいとか、そういのは無いのかな?
ああ、あれだ。
セレーネは、お父さんと2人で、ずっと山で生活していたからな。
同年代の異性と、交流した経験が少ないのだろう。
だから、あれだ。
小さい子供が、男女一緒にお風呂に入るのと、同じ感覚なのだろう。
きっと、そうだ。
そうに違いない。
セレーネは、動揺する俺のことなどお構いなしに、バスタブに近づいて来た。
エルフらしい、ほっそりした美しい体に、俺の目が釘付けになった。
これで、ホントに12才かよ?
胸は大きい。
セレーネは、着痩せするタイプか?
エルフってのは、ツルツルぺったんこ……、なのが、世の常識では……。
俺が、セレーネの体に見とれていると、セレーネがサッと手で体を隠した。
「も~う! そんなジロジロ見られたら~、恥ずかしいよ……」
「ご、ごめん!」
いや、俺、何やってるんだ。
相手は、まだ12才だぞ。
セレーネは、俺の背中の方に回ってバスタブに入って来た。
俺はバスタブから出ようかと思ったけれど、【絶倫(中級)】が発動したようで、出るに出られなくなってしまっていた。
「ほら、ヒロト、もっと前に出て~。そう~」
セレーネが後ろに回って、俺を後ろから抱っこする体勢になった。
柔らかい胸が、背中に当たる。
じ、事案発生……。
いいのか、これ?
しばらく、無言で二人で風呂につかった。
セレーネが、話し始めた。
「ねえ、ヒロト~。おうちを建て直すならさ~。お風呂を付けようよ~。私たちもお金を出してさ~」
風呂は魔道具だから、かなり高いらしい。
「良いね。けど、セレーネは良いの? 自分で稼いだお金を、俺の家の建て直しに使ってしまって……」
「うん、いいの~。私、チアキママの事を、好きなの~。お母さんみたいに思ってるんだ~。だから、一緒に住む家に、お金を出すのは当然だよ~」
「そっか。ありがとう!」
セレーネの気持ちは、本当に嬉しかった。
チアキママも喜ぶだろう。
俺は、コチコチになっていたが、セレーネと話して大分リラックスしてきた。
「この騒動が落ち着いたら、相談してみよう」
「うん!」
セレーネが、後ろからギュっと抱き着いて来た。
背中に柔らかな感触……極楽だ!
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