第46話 見敵必倒! 4階層ボスを発見

「無いな……」


 俺は、足を止めて周囲を見回した。

 今、俺達は、ルドルのダンジョン、ヒロトルートの4階層にいる。


 セレーネが、後ろから覗き込んで来た。

 俺の肩に、顎をちょこんとのせて来る。


「何が無いの?」


「ボス部屋だよ。通常ルートなら、もうとっくにボス部屋に到達しているのだけれど……」


「そうなんだ~」


 セレーネは、グリグリと俺の肩にアゴを押し付けてくる。

 なんか最近、スキンシップが多いな。

 まあ、嬉しいけれど。


 サクラも、気が付いたみたいだ。


「そうか。通常ルートとは、ダンジョンの配置が違うのですね」


「そう言う事」


「出て来る魔物も違うし、これはボスも通常ルートと違うでしょうね」


「おそらくな」


 俺とサクラは、考え込んでしまった。


 ボス部屋がどこにあるのか?

 手掛かりは、何もない。

 未踏のダンジョン探索の難しさに、俺とサクラは黙り込んでしまう。


 だが、セレーネは、明るかった。


「じゃあさ。宝箱探しようよ。ヒロトは、【宝箱探知】があるんだからさ。そのついでにボス部屋を探せば良いよ」


 こういう時に、セレーネの明るいマイペ-スなキャラクターは、ありがたい。

 サクラが、クスリと笑った。


「そうだね。セレーネちゃんの言う通り。ブラブラ宝箱を探しながらで、良いですね」


 まったくだ。

 俺もサクラも、ちょっと焦ってしまっていた。


「アカオオトカゲは、それほど強くないし。じゃあ、ブラブラと行きますか」


「おー!」

「おー!」


 俺達は、探索を再開した。

 今までは縦に真っ直ぐ進んだので、今度は横方向に、ジグザグに進んでみる事にした。


 セレーネとサクラは、リラックスしたのかおしゃべりを始めた。

 セレーネは、サクラの女子高生スタイルが気になるらしい。


「サクラちゃんの服、かわいいよね~」


「ありがとう! これ売ってないんですよ」


「え~、じゃあ、お手製?」


「ふふ。魔道具なんですよ」


「すごーい!」


 うん。

 ガールスが、明るく華やかだな。

 何か良い雰囲気になって来たぞ!

 俺も気負い過ぎた。


 あの双子、ダンジョンの精霊との約束は、今、この階層を探索する事で果たされている。

 何も無理にボス部屋に行かなくても良いんだ。


 サクラとセレーネのおしゃべりは、続いている。

 2人とも話しながらも、出て来たアカオオトカゲは、きっちりと矢で狙撃、回収している。


「でも、アカオオトカゲは、売れるんですかねえ?」


「食用かな~?」


「え? トカゲは食べないでしょ?」


「あたし~、食べた事あるよ~」


「ええ!? セレーネちゃん! ちょっと!」


「食べられるよ~。獲物が取れない時は、お父さんと何でも食べたよ~」


「……どんな味なんですか?」


「うーん。鶏肉? に近いかな。見た目は、グロイけどね」


「きっついな~!」


 セレーネ、すごいな!


 まあ、でも、アカオオトカゲは、しばらくマジックバッグのコヤシだな。

 冒険者ギルドに持って行くと、このヒロトルートの存在がバレる。



 ……ん?

 気配があるな。


 宝箱と水の気配だ。

 近くに、宝箱と水場があるな。

 スキル【宝箱探知】のおかげで、何となくわかる。


 セレーネとサクラに声を掛ける。


「宝箱と水場が近い」


 俺は、少し歩く速度を上げた。

 しばらく歩くと、広場の様な場所に出た。


 水場だ。

 広場の壁に石で出来た筒が出ていて、水が流れ出している。


 広場の中央に、宝箱が置いてある。

 金属製で少し茶色っぽい、銅の宝箱だ。

 サイズは、今までの宝箱と同じ衣装ケース位の大きさだ。


 セレーネとサクラが喜ぶ。


「きゃ~! 宝箱だ~!」


「銅箱ですね!」


 周囲を警戒しながら、銅箱に近づく。

 安全な様だ。


「開けてみよう」


「開けよ~う!」

「何でしょうね!」


 俺も、思わず顔がニヤついてしまう。

 宝箱を開けるのは、楽しみだよ!


「オープン!」


 宝箱を開けると、黒い毛皮で出来た小ぶりなバッグが入っていた。

 バッグを手に取ると、宝箱は煙の様に消えた。


 バッグは、ベルトを通す穴がついている。

 道具袋みたいに、ベルトから下げるヒップバッグだ。

 サクラとセレーネが、首をかしげた。


「バッグ?」

「マジックバッグ?」


「ちょっと待って、【鑑定】してみる」


 俺は、黒い毛皮のヒップバッグを【鑑定】してみた。



 -------------------


 ワーウルフのバッグ(耐熱、耐火、耐水、耐火魔法、耐水魔法)


 -------------------



「ワーウルフのバッグだって。機能は、耐熱、耐火、耐水。火魔法と水魔法にも、耐性があるらしい」


 マジックバッグじゃないけれど、なかなか高機能だ。

 ワーウルフは、まだ対戦していない魔物だけれど、手強そうだな。


 ワーウルフに、火魔法や水魔法は効かない。

 覚えておこう。


 セレーネが、毛皮を触りながら提案した。


「それ、ヒロトが持ったら? 男物っぽいし、似合いそう~」


 サクラも同意見だ。


「わたしも、ヒロトさんが持つと良いと思います。ヒロトさんのショルダーバッグじゃ、動きずらいでしょう」


「ありがとう。じゃあ、これは俺のにするよ」


 ワーウルフのヒップバッグは、俺の物になった。

 ちょっと、欲しかったから嬉しい。


 俺はヒップバッグを、ベルトに通し、後ろ側に吊るした。

 ショルダーバッグはやめて、マジックバッグやポーションは、ヒップバッグに入れる。

 マジックバッグは、高価な品だから外に出さずにヒッピバッグの中に入れて使おう。


「うん。これ動きやすいよ! 2人ともありがとう!」


「ヒロト、良かったね~。似合ってるよ~」

「ヒロトさん、カッコ良いですよ!」


 女の子に褒められると、嬉しいね。


 俺たちは、この水場で休憩する事にして水の補給も行った。


 セレーネは、【解体】スキルを使って、ここまでに仕留めたホーンラビットを手早く解体し始めた。

 俺達が手伝おうかと聞いたが、かえって遅くなるからと断られた。


 セレーネは、本当に解体が早くなった。

 自分たちで解体すれば、解体費用の一匹1000ゴルドが浮く。

 ジョブ選択を、狩人にして大正解だ。



 30分程休んで、水場を出発する。

 またジグザグに横方向に進む。


 途中宝箱を2つ見つけたが、普通の宝箱で、中身はポーションだった。

 セレーネとサクラは、相変わらずおしゃべりをしながら、出て来るアカオオトカゲを倒して行く。


 もう、今日だけでアカオオトカゲを、30匹近く狩っていると思う。

 早いとこ、アカオオトカゲを売りさばきたいな。



 俺の足が止まる。

 近くに気配を感じる。

 

「近くにいるな……」


俺のつぶやきに、サクラが反応する。


「アカオオトカゲですか?」


「いや、違う気配だ」


 俺は、コルセアの剣を抜き、後ろの2人に注意を促す。


「ボスかもしれない。近いから油断しないで」


 セレーネとサクラが、コクリとうなずく。

 俺は慎重に、気配がする方へ進む。


 いた!


 通路を曲がった先に、ボス部屋があった。

 部屋の入り口は大きく開いている。


 中には、アカオオトカゲとは、違う魔物がいる。

 ぱっと見で言うと、人間サイズの小型ティラノサウルスと言う印象だ。


 前かがみで、2足歩行している。

 大きさは大人の人間位だ。


 尻尾が長く、牙が鋭い。

 全体的に濃い赤色で、狂暴そうな目付きをしている。


 俺は、すぐに【鑑定】をかけた。


「【鑑定】!」



 -------------------


 レッドリザート


 HP: 50/50

 MP: 10/10

 パワー:60

 持久力:20

 素早さ:30

 魔力: 10

 知力: 5

 器用: 5


 -------------------



 俺は、鑑定結果をすぐに2人に伝えた。

 まず、サクラが発言した。


「MPがあるのが気になりますね。魔法は【鑑定】出来なかったですか?」


 俺の【鑑定】結果には、出ていない。


「【鑑定】には、出なかったな。いや、俺のスキルだと、魔法までは【鑑定】出来ないのかもしれない」


「魔法はあると思った方が良いですね。……おそらく、火系統の魔法でしょう」


 サクラは、言いながらレッドリザートを指さした。

 なるほど、全身真っ赤だ。

 確かに、火系の魔法が得意そうだ。


 レッドリザートをじっと見ていたセレーネが、次に口を開いた。

 口調は、狩りモード、の厳しい口調になっている。


「牙を使った噛みつきと、あの尻尾が要注意かな。パワーがあるから、尻尾で叩かれると、かなりダメージを受けると思う」


 確かに、ミニ恐竜みたいなアイツに噛みつかれたくはない。


 セレーネは、狩りの経験が豊富だから観察眼がある。

 初見の魔物だけれど、冷静に分析してくれている。


 俺はセレーネに質問した。


「弱点は、ありそう?」


「うーん。なさそうだね。ただ、皮はそれほど厚くなさそうだから、矢も剣も攻撃は通ると思う」


「なら、いつも通りか」


「そうだね」


 昨日、散々やった戦い方だ。


 初手で、サクラが魔法【スリープ】をかける。

 敵が【スリープ】にかかったら儲けモノだ。


 サクラは、【飛行】して、敵を牽制する。

 セレーネは、遠くから矢で攻撃する。

 俺はセレーネをカバーしながら、【神速】で接近して剣で攻撃する。


「じゃあ、いつも通りで行こうか!」


「了解!」

「見敵必倒! やりましょ~!」


 俺達は、ヒロトルート4階層のボス部屋に突入した。

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