第741話 お宝2


「機械種グレーターサイクロプスかあ………」



 超重量級用機械種保管庫に横たわる機体を見ながらポツリと呟く。


 そこに含まれるのは、肩透かしを食らったような落胆。

 期待外れとまではいかないが、そこに心躍るような感情はどうしても生まれない。



 サイクロプスはギリシャ神話における神々の一柱。

 ゼウス神の祖父である天空神ウラヌスと大地の神ガイアの子供。

 単眼単角を持つ巨人族である。

 その異形ゆえに父ウラヌスからタルタロス送りにされ、長く幽閉の憂き目に遭う。

 しかし、時は過ぎ、ウラヌス神からクロノス神、そして、ゼウス神へと神々の王の座が移る際、サイクロプス達はゼウス神に味方してクロノス神の軍勢と戦った。

 さらに海神ポセイドンのトライデント、冥神ハデスの兜などを作り上げて献上。

 やがてゼウス神が勝利すると、その貢献もあって彼等は地上へと解放されたという。


 巨人というよりは巨神に等しい。

 その原典もあって、超重量級機械種サイクロプスは強いことは強い。


 巨人の靴の団長が機械種サイクロプスを1機だけ従属させているのは有名な話。

 さらにこの機種は原典の影響を受けて『鍛冶特性』を持つ。

 デカいくせに手先は器用で大物の発掘品改造などが得意なのだ。

 

 当然、その上位種である機械種グレーターサイクロプスも鍛冶特性を持つだろう。


 豪魔以上の体格を誇り、鍛冶までできるとあれば、仲間にするのもやぶさかではないのだが…………

 

 

「従属容量が足りねえ………」



 何となくわかる。

 輝煉が超重量級になったことにより、俺の従属容量はほぼ一杯となった。

 中量級ならあと2,3機行けそうだが、重量級は無理。

 ましてや超重量級など従属容量に収まるはずも無い。


 つまりどうやっても仲間にできない。

 この機械種グレーターサイクロプスを従属させる為に、輝煉か豪魔の従属契約を解除するなんてできるはずがない。


 元々、超重量級用機械種保管庫を見た時から嫌な予感はしていたのだ。


 保管庫が大きいだけで…………とか、

 中量級だけど一緒に着いてきた強化オプションが超大きい………とか、

 都合の良いことを考えていたが、やはり現実は残酷。



 希少な機種であろうが、この街で売却するか、バラシて部材にするぐらいしか使い道が思いつかない。

 折角手に入れた機械種だが、従属契約できないことにはどうしようもない。



「陛下?」


「んん?」



 機械種保管庫の前で悩む俺に、いつの間にかロキが近づいて来て声をかけてくる。


 それに合わせるように白兎が俺の前に。

 ヨシツネが少し下がって後方へ。


 また、ロキの背後では、豪魔が腕組みしながらその動きを注視。

 浮楽もフラフラと何も考えていないような挙動でロキの死角へと移動。


 ここはロキが造り上げた世界なのだ。

 この世界にどんな仕掛けがあるのかも分からず、

 ロキの能力がどこまでなのかも不明。


 おまけに何の脈絡も無くトンデモナイことをやらかしそうな性格。

 あえて火中に飛び込んでいこうとするその精神性。

 皆が警戒するのも無理はない。


 

 だが、当のロキは皆から警戒されているのを分かっているのに、

 まるで気にしない様子を貫き通す。


 興味があるのは俺の反応だけとばかりに。



「陛下。浮かない顔だね? 気に入らなかった?」


「…………いや、そういうわけじゃないが、俺の従属容量が一杯でな」


「ああ、なるほど…………、確かに多いもんね。じゃあ………」


「余計なことは言わんでいい」



 最初のベリアルと同じく、仲間を間引こうとか言い出しそうだったので先んじて釘を刺す。

 おそらく森羅や廻斗、自分に比べて能力に劣るストロングタイプチームを。

 神人型と魔王型の差はあれど、自分より弱い機種など眼中にないのであろう。


 

「コイツについてだが、使い道は後から考える。最悪売れば数千万Mになるだろうし」


「………ごめんね。お宝がこれだけで。しかも陛下のお気に召すようなモノじゃないなんで………」



 眉毛の端を下げて、申し訳なさそうな顔をするロキ。

 そんな表情をすると、急に幼くなったような印象を受ける。


 俺は急に殊勝な態度を見せたロキに戸惑いつつも返事。



「何を言っている。お前のせいじゃないだろ。それに元々無いと思っていた紅姫からのお宝が手に入ったんだ。1個あっただけでも十分………」



 そこまで言ってから、ふと、気づいたことが一つ。



 本当にお宝はこれだけしかなかったのか?



 ロキが正直に俺へと報告していない可能性に思い当たり、




「さて、コイツは回収するとして、後やらないといけないことは………」




 次の予定を口にしつつ、胸ポケットから手帳と嘘を見抜く発掘品『真実の目』を取り出す。

 そして、『真実の目』をかけて手帳を見るフリをしながら、チラリとロキへと視線を投げかけ、



「そう言えば、ロキ。確認なんだが…………、あの水の巨人、超重量級の紅姫からのお宝はこの機械種保管庫しか手に入らなかったんだよな」


「そうだよ~、僕が気づいて回収したのはあの1個だけ【嘘】」



 邪気の無い幼げな笑みを向けながら俺の確認に応えるロキ。

 ロキの答えに思わず渋い顔をしてしまう俺。


 『真実の目』のレンズに表示される紛うこと無き『嘘』の文字が浮かび上がったのだ。

 これはロキが俺に対して嘘をついている証。



 やっぱり嘘をついてやがったか…………

 折角少し見直したと言うのに…………



 『真実の目』をかけた俺が渋い顔を見せたことで、周りの皆の目の色が変わる。

  

 呆れたような、

 残念がるような、

 苛立つような、

 救いようもない馬鹿を見るような、

 これから起きるだろうことにわくわくしているような、


 そんな感情を含んだ視線がロキへと降り注ぐ。

 ロキ以外の皆はこの『真実の目』の効果を知っているからこその反応。

 

 

 とにかく、ここは多少強引な方法でもコイツからお宝を差し出させるしかない。

 俺自ら手を下してやるのも良いが、ここはちょっとした因縁もある…………



「タキヤシャ」


「はい、貴方さま」


「やれるか?」


「もちろんでございます」



 普段はあまり感情の色を見せないタキヤシャだが、今回ばかりはとても嬉しそうな表情。

 教官の所での揉め事以降、タキヤシャはロキのことをかなり嫌っている。

 ロキがタキヤシャの悪口を言ったことをずっと根に持っている様子。

 これは明確に謝罪を行わないロキにも問題はあるのだろうが。



「ロキ、もう一度確認だが…………、紅姫からのお宝は1個だけだったんだよな? お前、こっそり隠し持っていたりしないか? 嘘をついていたらお仕置きだぞ」


「ひど~い! 僕を疑うの? 天地神明にかけて嘘なんかついていないさ【嘘】」



 不満げな表情で抗議の声を上げるロキ。

 女の子チックに両の拳をグーで握り、胸の前でポーズを決める。


 褐色の肌をした15歳くらいの中性的な美少年。

 ベリアルに比べて彫が浅く、その分幼く見えるのが特徴。

 笑っても怒っても子供のような無邪気さが見て取れる。


 何の事情も知らぬ人が見れば可愛らしい仕草と思うかもしれないが、事情を知る俺としては、ここまで堂々と嘘を貫き通すロキを可愛いなんて思えるはずも無い。

 


「タキヤシャ、やれ」


「はい♡」



 俺が冷然に命令を下すと、

 タキヤシャは珍しく声を弾ませて返事。


 そして、その直後。



「ぎゃあああああああ!! 痛い痛い痛い!」



 突然ロキが悲鳴をあげてのたうち回る。

 ロキの機体に仕込まれたタキヤシャの黒砂が暴れているのだ。

 

 俺とロキとタキヤシャで教官の所に訪れた際、ロキがタキヤシャを侮辱し、怒ったタキヤシャがロキに対し復讐とばかりの呪いをかけた。

 

 ロキの機体の隅々に虚数制御と磁力制御を組み合わせた砂鉄……黒砂を仕込んだのだ。


 タキヤシャの意思で動く0.1ミリ以下の小さな砂粒。

 それが数千の数を以ってロキの機体の関節部や痛覚を刺激。


 機体の内部から鑢で削られているようなモノ。

 まさに地獄の激痛であろう。

 


「痛い痛い痛い! ちょ、ちょっと陛下! なんでだよおおお! 僕は本当のことしか言っていないのに!【嘘】」


「うるさい。もうネタは上がっているんだ。お前が隠したお宝をさっさと出せ。そうすれば止めてやる」


「ああああああ!!! もうおおおおおおお!!!」



 流石のロキも地獄の激痛には耐えられず、

 


「分かった! 出すよ! だから止めて」



 前言をあっさり翻すロキ。


 それに合わせて、俺はタキヤシャへと視線を送り、

 ロキの機体で暴れ回る黒砂の動きを止めさせる。



「はい………、これ」



 ロキはムスッとした表情で俺の前に宝箱を差し出して来る。

 俺に嘘をついたことなどまるで悪いと思っていないような顔。


 宝箱の大きさは標準的。

 段ボール1つ分くらい。

 おそらく発掘品の武器か防具、アイテムが入っているのであろう。

 モノによっては機械種グレーターサイクロプスよりも高価になる場合もある。



「…………最初から出していれば痛い目に遭わなかったんだぞ」


「ふーん、だ!」


 

 俺の忠告にもロキは拗ねた素振りを見せる。

 この様子だとまた同じようなことをやりかねない………


 いや、待てよ。

 この他にもお宝をロキが隠し持っている可能性は否定できないから………



 

「…………おい、ロキ。この宝箱の他に、もう隠してないか?」


「もうないよ! 僕のプライドに賭けて誓ってもいいさ!【嘘】」




 またも清々しいくらいの嘘をつき通そうとするロキ。

 俺はすぐにタキヤシャへと振り返り、再度命令。




「……………タキヤシャ、やれ」


「はい♡」


「ギャアアアアアアアアアア!!」




 結果、小さい宝箱が出て来た。

 手に乗るくらいの小箱の形。

 これは蒼石か翠石が入っているタイプ。




「ロキ、もう隠していないか? お前が手に入れたお宝は全部出したか?」


「無い! 無いよ! もう絶対ないから! 僕を信じて! 【嘘】」


「タキヤシャ、やれ」


「はい♡」


「グギョオオオオオオオオオオ!!」




 結果、懐中時計の形をした発掘品らしきアイテムが出て来た。




「これで最後か?」


「本当に本当に最後だよ! 何ならボクの名に誓っても良い!【嘘】」


「タキヤシャ、やれ」


「はい♡」


「ギョエエエエエエエエエエ!!」




 結果、マテリアルカードが出て来た。

 中身を見たら驚きの4,000万M。

 日本円にして40億円。

 これ、どこで手に入れたんだ?

 マテリアルカードが宝箱から出てくるなんて聞いたことが無い。




「もう無いだろうな?」


「もう無いったら無い! 絶対に無い! これが本当に最後!」


「タキヤシャ、やれ」


「はい♡」


「グゴギャアアアアアアアアアアア!!」




 今度は本当に何も出てこなかった。

 まあ、嘘をついていなかったから当たり前だが。


 これも一応『真実の目』がバレないようにする為の偽装。

 ここまで手間をかけさせたことへのお仕置きでもあるけど。




「酷いよ! 僕、正直に話したのに! 従属機械種の言うことを頭から信じず、拷問にかけるなんて!」



 ロキは最後の最後に正直に答えたことだけをクローズアップ。

 嘘をつき続けたことを棚に上げ、俺の非を声高らかに主張。



「陛下! これは明らかに陛下の手落ちだよ! 無実の罪で地獄の苦しみを味わった僕に、何か言うことは無いの? 賠償請求ものだよ、これは!」


「やかましい! マスターである俺に対して散々嘘をつきまくったくせに! そんなに欲しいのなら俺から鉄拳をくれてやる!」


「ぐきょ!」



 鉄拳制裁。

 拳一発を頭に叩き込んでロキを無理やり黙らせる。


 ベタンと頭から地面に突っ伏すロキ。

 やはりコイツには力技で黙らすのが一番。




「とにかく、これでお宝が4つも増えたな………、って、このマテリアルカードだけは謎だな」



 ロキから新たに入手した、水の巨人のドロップ品。

 

 ⑭宝箱(中)

 ⑮宝箱(小)

 ⑯発掘品と思われる懐中時計

 ⑰マテリアルカード 4,000万M


 先ほども言ったが、マテリアルやマテリアルカードが宝箱から出てくることは無い。

 だから、このマテリアルカードは正しくは水の巨人からのドロップ品ではなく、入手先は別の所。


 だが、ポンと気軽に出てくるような額じゃない。

 こんな額を持ち歩いている人間なんて、辺境では皆無だろう。

 秤屋でもこの額になれば厳重に保管されているはず。

 まさか、今回の騒動に紛れて………



「おい、ロキ。このマテリアルカードはどこで手に入れた。まさか火事場泥棒したんじゃあるまいな?」


「ぶう! 僕はそんな盗人のような真似なんかしないよ!」



 俺の問いかけにムクリと起き出し、地面に胡坐をかきながら答えるロキ。



「それは、2人組の狩人の命の対価だよ。割と危ない所でね。こっちも迷惑したから詫びの品として貰ったんだ」


「へえ? お前が人助けか………、まあ、狩人なら………って、その狩人達の名は?」


「確か……チーム名が『爪双牙』とか言っていたかな?」


「……………聞いたことがあるな」



 俺の記憶にかすかに残る狩人チーム名。

 おそらく遥か先の未来視で耳にしたことがある名前。

 兄弟2人で狩人をやっていて、どちらもブーステッドを飲んだ強化人間だったとか。

 

 数年後であろうが、中央の狩人の中でもかなりの上位に位置していたはず。

 ということは、今の時点で中央でそれなりに活躍しているのは間違いない。


 中央で一流の位置にいる狩人なら払えない額では無い。

 彼等にとっても決して少額ではないが、命を救った対価としてなら分からない額では無い。


 俺にとっては超ありがたい。

 つい先ほど5,000万Mという大金をポンと払ってしまったのだ。

 払った額に対しては少し足りないが、それでも俺の資金がそれなりに回復したのは大きい。


 

 しかし、そんな額をポンと払った狩人のことについては少々気になる所。

 4,000万Mという額を持ち歩いていることから、狩人の中でも稼いでいる方であろう。

 そんなバリバリの中央の狩人が一体なぜこんな辺境の地に………


 『真実の目』に【嘘】と出ない以上、ロキの言葉は嘘ではない。

 ならば、ロキに聞くしかないと、その辺に何か心当たりはないかを尋ねると、



「えっとねえ~………、そう言えば、『白ウサギの騎士』って名前の奴を探してたんだと思うよ。僕に質問してきたぐらいだし」


「え? …………俺かよ!」


「え? …………そうなの?」


「そうだよ。お前には教えて無かったか」


「え………、でも、陛下は『悠久の刃』じゃなかったっけ?」


「それは俺のチーム名。『白ウサギの騎士』は俺の二つ名だ」


「ややこしいねえ。何で分けるのさ。人間は陛下だけなのに」


「うるせえ! 俺も不本意なんだよ!」



 腑に落ちないと言う顔を見せるロキ。

 だが、俺だって好きで分けたわけじゃないのだ。


 複数人間がいるチームなら、チーム名と2つ名が別々に付くのは珍しくないが、2つ名を持つ人間がチームを作ると、大抵自身の二つ名を冠したチーム名にするのが普通。


 だが、俺の場合、チーム名を造ったのが先なのだ。

 これは新人狩人にしては少し珍しい部類と言える。


 現にアルスやハザン、レオンハルトやガイ、アスリンは、それぞれ正式にチーム名を決めていない。

 それは自身に2つ名が付き、それが周辺に浸透した時に、改めてチーム名を2つ名に準えてつけるつもりであろう。


 ガイの『ぶん殴るビートアップ』、アスリンの『磨り潰すスクワッシュ』、レオンハルトの『指揮者コンダクター』も、2つ名として世間に浸透しているとは言い難い。

 あくまで2つ名を自称しているに過ぎない状況。


 まあ、新人狩人の段階でそんな奴は滅多にいないのではあるが。

 俺の方があくまで例外と言えるだろう。



「そんな一流の狩人チームが動くと言うことは、やっぱり『白ウサギの騎士』の名が中央にまで届いているのか………、もう少し時間がかかると思ったんだけどなあ」



 勧誘か、それとも偵察か………


 でも、今日に至るまで俺に接触が無い所を見ると、『鐘割り』相手に痛い目に遭い、さっさと中央に帰ってしまったと思われる。

 ならば、もう関係無いと言えるのであるが………



「しかし、中央の狩人が『鐘割り』相手に苦戦したのか………、もしかして、スケアクロウまでとはいかなくても、他にも『双喰』がいたのか?」


「さあ? 僕にとってはどいつも有象無象だったよ」



 ヒョイッと肩を竦めてみせるロキ。

 確かに超高位機種で『加害スキル』を持つロキからしたら、

 その辺の区別は難しいかもしれない。


 スケアクロウ並みの強者でも無ければ、緋王相手に敵うはずがない。

 特に対人戦闘が得意なロキにとっては、たとえ『双喰』であっても与しやすい相手であろう。



「まあ、倒しているのなら一緒か…………、んん? ひょっとして、この懐中時計も、その『双爪牙』から貰ったのか?」



 宝箱ではなく、そのまま出してきた発掘品らしき懐中時計をロキに突きつけて確認。


 するとロキはチラッと一瞬俺の方を見てから、一呼吸置いて答えを返す。



「それも彼等の命の対価として貰ったよ。空間攻撃を防げるアイテムだって」


「なに!! もう一度言ってみろ!」



 思わず声を大きくして尋ね返す。

 予想外のお宝に、俺はこれ以上無いくらいに激しく動揺。

 

 

「どうしたの陛下? そんなに血相変えて」


「いいから! こ、これは空間攻撃を防げるアイテムなんだな?」


「多分………」


「胡狛!」



 煮え切らない返事のロキを諦め、胡狛を呼んですぐに鑑定してもらう。


 結果は、ロキの言う通り、空間攻撃を防ぐことのできるアイテム『マテリアル空間器ジャマー』であった。



「マスター、こちらの時計の数字に注目してください。今は12が表示されていますが、空間攻撃を防ぐたびに数字が減少していきます」



 『マテリアル空間器ジャマー』を示しながら、俺に仕様説明してくれる胡狛。

 外見は年若い少女ながら、内容を分かりやすく噛み砕き、要点だけを絞って説明。

 耳触りの良い声に、落ち着いた口調。

 飽き性な俺でも、ずっと聞いていたくなるような講義。

 こうした説明をしている時が一番、胡狛が活き活きしているような気もする。



「つまり、12回空間攻撃を防げるのか?」


「いえ、空間攻撃の強さにより、減少する数字が変動します。強大な力を持つ機種から放たれた空間攻撃ですと、一撃で0になることもありますのでお気を付けください。しかし、必ず1回は防ぎます。その点は保険にもなりますね」


「なるほど………、確実に1回は空間攻撃を防げるのなら、かなり有用だな」


「減少した数値は時間と共に元に戻ります。また、このアイテムを使用する為には発動させていなくてはなりません。発動中は数値が徐々に減っていきますので、これも注意が必要ですね。ずっと発動させているとおそらく30分も持たないでしょう」


「時間制限もある………か。だが、そこまで戦闘に時間をかけることも無いな」


「あと、この『マテリアル空間器ジャマー』は周囲の空間を揺らしますので、空間転移を妨害する効果もあります。でも、敵味方の区別はありませんから、戦闘中に使われるなら、白兎さんやヨシツネさんとの連携は必須です」


「その辺は…………連携の訓練でもすべきだろうな。どうだ、白兎、ヨシツネ」


 フルフル

『バッチ来い!』

「ハッ! お心のままに」


 白兎はどんと来い!とばかりに後ろ脚で立ち上がって気合を見せる。

 また、ヨシツネも大げさに跪いて了承を示す。



「これは良いモノだ…………、正しく俺が探し求めていたモノ………」



 懐中時計に似た形状の発掘品を眺めながら感想を呟く。


 これで俺が唯一恐れる空間攻撃の防御が可能となるのだ。

 空間攻撃による一撃死さえ防げるなら、俺に怖いモノなどほとんど無くなる。


 ただし、気を付けなくてはいけないのは、時間制限・回数制限があること。

 うっかり回数を全部消費してしまい、気が付いたら首が飛んでいました、なんて最悪。


 これまで通り慎重に行動するのは当たり前。

 気を抜けば闘神の俺でさえ、死んでしまうかもしれない厳しい世界なのだ。



「それでも、保険ができたのは有難いな。ようやく長年の課題の一つが解決できた」


「喜んでくれたようだねえ~、陛下にそう言ってもらえて何よりだよ」


「ああ、最高の品だ…………、しかし、こんな品をよくもポンと渡して来たな。いくら中央の狩人でもなかなか手に入るもんじゃないぞ」



 ふと、気になったのは、その『双爪牙』が、こんな貴重な品をロキに譲ってくれたこと。

 いくら命の恩人とはいえ、マテリアルカード4,000万Mに加え、これほどの品を追加で渡そうとするだろうか?



「ロキ。念のために聞くが、お前、その狩人チームから脅し取ったんじゃないだろうな?」



 座り込むロキへと質問。


 貴重な品を入手できたのは嬉しいが、それで中央の狩人に恨まれでもしていたらかなり面倒臭いことになる。

 もし、そうなのであれば、こちらも色々と動き方を考えなくてはならない。


 それを確認する為のロキへと質問なのだが、

 当のロキはそんな俺の心の内など気にすることなく平然と俺の質問に答える。



「脅しと言うか………、剛柔織り交ぜた交渉はしたね。僕もタダで動いたつもりはなかったし。それに向こうは命が助かったんだから、それぐらい渡して来ても当然だと思うよ」


「……………ふむ」



 ロキの言葉に嘘は無い。


 息をするように吐いていた嘘がピタリと止まった感じ。

 俺が散々嘘を見破ってきたのだから、こちらを警戒しているのであろうが。


 しかし、その狩人の命を助けたのは間違いないようだ。

 その後に、謝礼について、丁々発止のやり取りがあったのだろうけど。

 まあ、それは命を助けてあげたのだから、気にするようなことでもないはず。




「はあ………、ロキ。初めからきちんと俺に報告していたら、痛い目に遭わず、俺に褒められて終わっていたんだぞ」



 今回の騒動でのロキの活躍は誰もが認める獅子奮迅ぶり。

 だが、その後の言動や態度で大きくマイナス査定を入れざるを得ない。

 余計なことを考えなければ、MVPに輝いたかもしれないと言うのに。


 しかし、そんな俺の本音を混ぜた忠告にも、ロキに届くことは無く、



「それじゃあ、面白くないでしょ。人生の楽しみは、トラブルや予想外があってこそだと思うよ。だから、陛下の人生は僕がきちんと波乱万丈にコーディネートしてあげるからね。楽しみにしておいて♪」


「俺はそんな人生、望んじゃいねえよ!」


「めぎょ!」



 悪びれない様子のロキに対し、

 俺はきつい目の拳を一発落とした。

 





『こぼれ話』

狩人のチーム名はそれなりに重要です。

名は体を表すように、チーム名が第一印象を決め、チームが向いている方向性を知らしめているとも言えます。

また、有名な2つ名を持つ者がチームを率いている場合だと、それをそのままチーム名に使ったり、その名に準えたチーム名を名乗ったりします。

それ故に、新人のうちにチームの方向性を決めかねないチーム名を決める者は少なく、ある程度チームが目指す方向性が固まってから、決める場合が多いようです。


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