青年の証言2

青年は中川良太と名乗った。


「どうもはじめまして、この事件を担当してる池照です。」


「岩井です。」


二人の刑事に帰り道で呼び止められて、半ば強引に近くの喫茶店に連れ込まれた高校生の男の子はしきりに恐縮していた。


「あ、あの、なにか…?」


「なにかじゃないよ中川くん…通報してくれたのは良いけどさ、なんで逃げちゃったりしたの?」


岩井が笑顔で聞いたが、その目は笑ってなかった。


「な、なぜって、驚いてしまって…先生が…あんな…首を…。」


「ん?先生が…?」

岩井が聞き咎めた。


「え?知らなかったんですか?」


青年はそう言うと目をパチクリとした。


「それが本当なら、また伸展ですね、身元がわからなくて困ってましたから。」


池照はそう言ってメモを取った。


「さよか、自分とこの先生やったら尚更逃げんくても良かったやろ?それとも逃げる理由があったんか?」


もとより、本当に逃げたのかどうかは問題ではない、要は揺さぶりをかけたいのだ。


揺さぶって、なにかボロをだしてくれたら儲けものだ、人は平常心を崩されないとなかなかボロをださない事を岩井は知っていた。


岩井に睨まれて冷や汗をかく青年。


「待ってくださいよ先輩、そんなに攻めなくても…。」


こういう、取り調べではどちらかが強く言う方と、やんわりとなだめる方が居るほうが良い、池照はなだめ役に回った。「突然あんなものを見せられたら誰でも逃げたくなりますよねぇ…例え顔見知りであっても。」


青年は無言で頷いた。


「それより、ほら折角たのんだ珈琲が冷めちゃうから飲んで飲んで、あとなにか他にも食べるかい?」


池照は優しくそういった。


「いえ、大丈夫です。」


中川君はそう言って俯いた。


「で、何て言う先生なの?教科は?」


「ええと、たしか…山野だったきがします…教科はたぶん国語だったような…。」


「あんまり知らないの?」


「あ、あの、受け持ちの学年が違うんです。たぶん二学年の方かなと…。」


「なるほど、君は1学年だから、直接授業を受けた訳ではないんだね?」


「そ、そういうことです。」


中川君は少し珈琲を飲んだ。


それは珈琲を味わいたいというより、目の前の大人の視線から少しでも逃れたいという風であった。

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