会社員と海の子守唄(1)

ウルドの街が森の侵略を受けて1ヶ月。


街はだいぶ落ち着きを取り戻した。森にいた魔物や動物も戻ってきている。もう少ししたら商人や冒険者も戻ってくるだろう。


「ディー様、アスカ様。おかげさまでウルドの街も少しずつですが、元に戻ってきています。ありがとうございました。」


「感謝しますぞ。」


領主の館で俺とアスカは領主様と婆やから頭を下げられ、お礼を言われる。


「いえいえ。こちらも精霊様に出会えたので助かりました。」


「街が無事でよかったね~。」


俺とアスカも一段落ついたことにホッとしている。


「……残念なこともあった。精霊様のこともあるので、それについてはこの街の歴史として後世まで引き継いで行きたいと思う。」


領主様はどこかに視線を向け、発言される。きっと、発見された二人のことだろう。


「……あれは治らないのですか?」


以前にも質問したことをまた聞いてしまう。


「……精霊様にも聞いてみたが、今のところは無理だそうだ。もし、元に戻ることがあったとしても私たちが神様の元へと旅立った後になるそうだ。」


……長い年月がかかるんだな。


「それはそうと。ここでの協力は終了したのだが、次の行き先は決まっているのか?」


重い空気になったからか、領主様が違う話題をふってくれた。


「いいえ。まだ決まっていないのですが……何かありましたか?」


「それならここはどうかね?」


領主様は俺たちに視線を戻しながら、封筒を渡してきた。


「拝見します。」


封のされてない封筒を開けると中に手紙が入っていた。


「何て書いてあるの?」


アスカが手紙を覗いてくる。


「ちょっと待ってくれ、今読んでるから……えーっと……海港都市クルーンですか?」


「そうだ。ここより南にある都市だ。海港とあるように海に面した土地で貿易の拠点となっている。様々な人種が暮らしていることでも有名な都市だな。」


「そこにはいったい何が?」


手紙には良かったら寄って欲しいとは書いてあるが、具体的な内容については書いていない。領主様も苦笑しながら


「今回の件はあまりディー様とアスカ様の使命とは違うかもしれないのだが、そこの領主が商売人でね。有名な二人に来て欲しいそうだ。」


「はぁ……」


微妙な表情で答えてしまったからか、婆やも苦笑しながら助け船をだす。


「それだけ聞くと嫌な気分になるかも知れないけどね、一度行ってみるのは良いかもしれませんよ。」


「どうして~?」


アスカが首をかしげながら婆やに尋ねる。


「クルーンは大きい街です。ディー様やアスカ様がお持ちの武器や防具も手入れされたり、オークションもありますので、新しい良いものが見つかったりするやも知れません。また、海には精霊様がいらっしゃるとのこと。何処に精霊様がいるのか、噂話がきけるかも知れません。」


なるほど。全体的にレベルアップするにはいいかも知れないな。


「それに、海の幸は美味しいものが多いですからな。」


「よし! ディー。さっそく行こう! すぐに行こう!」


アスカが俺の腕を引っ張って出ていこうとする。ちょっと待てちょっと待て。


「アスカ待てって。」


そんな俺たちのやり取りを見た領主様と婆やは笑顔を見せる。


「気に入ってもらえて良かったよ。明日にでも行けるように準備はこちらでするから、また明日こちらまで来てくれ。」


領主様との面会が終わり、俺たちはウルドの街へと戻っていく。隣ではアスカが鼻歌を歌って上機嫌だ。とはいえ俺も久しぶりに海の幸が味わえるのは楽しみだ。


「ねぇ、ディー。」


「ん? 何だアスカ?」


「いま、楽しい?」


急な質問に戸惑い、足を止めて考える。


「……どうだろ……色々あったからな……分かんないや。」


正直な感想だ。魔王だったり、精霊だったりこないだのケニーだったり……色々と頭がついていけてない感じだ。


「そっか。まぁ、仕方ないよね。」


そういってアスカは俺の手を引いて歩いていく。


なにも言わなくても隣にいるよと言ってくれたようで、俺の心は少し温かくなった。

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