ベルタ・ドンの伝言


 総族長の屋敷へ二人はご機嫌伺いに……


 ベルタさんが、

「あら、ラダじゃない、そちらは鈴姫さん、八月は大変だったようね、ルシファー様がほめていたわよ」

「サリー様も、側女の資格は十分に有るとおっしゃっておられたわ、卒業したらすぐに寵妃ね」


 二人はどうして話を切り出そうかと、互いに見つめ合ってしまいました。


「さてご機嫌伺いなどと変な理由は置いときましょう、私に話でも、それとも夫に?」


 鈴姫さんが、

「ラダに頼んだのは私です!これから申し上げることは私の責任です」

 といい、琴音さんのことを洗いざらい喋りました。


 ……


 さすがのベルタさんも、しばらく無言でした。

「ゲオルグが……ね、まさかモンスター族と……誰か良い人が出来たとは、思いましたが……」

「その琴音さんとは、どのような娘さんなの?」


 鈴姫さんは、

「琴の付喪神です、明るく優しい方です」


 ベルタさんが、

「まったくゲオルグは仕方ない子ね、なんの相談もせずに勝手に結論を出すなんてね……」


 またも無言が続きます。


「ラダさん……確かルシファー様から、カレーのレシピを授かったのですよね……」

 突然、聞かれたラダさんは、

「授かりました、ブラッド・カレーといいますが、この頃ダチアでは、金曜日の昼に食べることになっています」


 ベルタさんが、

「鈴姫さん、そのブラッド・カレー、モンスター族は食べられるものなのですか?」

「ほとんどの者は難しいかと……」と鈴姫さん。


 しばらく考えていたベルタさんでしたが、

「私が夫にこのことを伝えましょう、相手の方、琴音さんといいましたね、ゲオルグとよく相談してから、一緒に会いに来てください」


「夫は頑固ですが、真心のわからぬ馬鹿ではありません、ただそれなりの覚悟はいりますよ」

「そしてそのブラッド・カレーを作ってもらいましょう、そう伝えてくれないかしら、私からはそれだけです」


「今日はよく訪ねてくれましたが、今日はここでお引き取り下さい」

 二人はすごすご帰ることになりました。


「良かったのか悪かったのか……分からないわ……」

 鈴姫さんが呟きました。

「多分……良い方向……と……」

 ラダさんも呟きます。


 鈴姫さんが、

「とにかく琴音さんに伝えなくては……」


 ラダさんは、

「その方がいいわ……ベルタ・ドン様は、良い方向へとお考えのはず……」


 十日後……ゲオルグさんは琴音さんとともに、両親の家にやって来ました。

 総族長の一人息子ではあるが、移住以来ほとんど両親とは住んでいません。


 ヴァンパイア地区の第一都市アルデアルの高層アパートメントに住んでいて、小さな商社を経営しているようです。


「父上、琴音を妻に迎えたい」

 ゲオルグさんはこの二三日、琴音と話し合ったようで、母のベルタ・ドンの『ただそれなりの覚悟はいりますよ』、の言葉を受けて、覚悟を固めてやって来たのです。

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